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夢と現実の区別がつかない。
そんな事が数日続けばさすがに疲れを自覚するようになっていた。
身体を休める為の睡眠時間にずっと絵を描き続けているのだから、実際には心身共に休めていないのだろう。
危険だ。
それは分かっている。
それなのに尚も厄介な事には、数日前には感じていた不安をこのところはあまり感じなくなっていたのだ。
もちろんおかしな現象に巻き込まれているのは分かっている。
このままじゃいけないと理性は警鐘を鳴らす。
だけど、今の私はそれでもいいかなとどこか他人事のように感じていた。
ジョゼに惹かれちゃいけないと頭のどこかでストップをかける声がする度に、もう一人の私が背中を押す。
ジョゼが待ってるでしょ?
早く行ってあげなさい、と。
そんなところへまたママから電話がかかってきた。
平日の昼下がり…お客様も来る気配はなく、マリアもまだ現れない。
「もしもし、ママ?」
「仕事中かしら?」
「ううん、大丈夫よ」
「ねぇフィオナ、この間はあなたが帰って来るって楽しみにしてたのに父さんとっても寂しそうだったのよ」
「うん……ごめん」
「父さんに顔見せてあげなさいよ、今日は?忙しいの?」
ママの声からは娘を心配する親心が滲んでいる。
父さんのことばかり言ってるけど、きっと一番私に会いたがってくれてるのはママ本人なのだろう。
今日こそは本当に帰ろうか。
久しぶりに家に帰って両親の顔を見て、元気だと、何も心配はいらないよと伝えようか。
自分のアパルトマンで眠らなきゃジョゼには会えないかもしれないけれど、今日会えなくてもまた明日がある。
今夜は身体もゆっくり休めた方がいい……。
「分かったわ、ママ。今夜帰るから」
「ホントね?父さん喜ぶわよ、何が食べたい?」
どこまでも父さんを引き合いに出しながらも、途端にママの声が一段高く弾んだような気がした。
夕飯は何を作ろうかと嬉しそうに話すママに適当に相槌を打ちながら、久しぶりに自然に笑えてる自分がいた。
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