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「ねぇフィオナ、あれからも夢は見てるの?」
そう心配そうに尋ねてきたのはマリア。
手元のぜんまいをジージーと巻けば、可愛らしい鳥が音色を奏でる。
鳥かごの形をしたオルゴール。
たまにこうやってちゃんと音が鳴るかどうか確認をしているらしい。
「夢?……あぁあれね、最近は全然見てないわ」
嘘を付いた。
夢は毎日変わらずに見ているし、夢の中で描いてる絵も少しずつだけど完成に向かっている。
だけど何故かマリアには正直に話すのが憚られたのだ。
信用していない訳じゃない。
むしろ誰よりも信用してるから、そして彼女もまた私を親身に心配してくれるから、だからこそ言えなかった。
夢と現実を混同してまるで夢遊病のように夜な夜な絵を描いてる自分を、素直に白状はできなかった。
まるで夢遊病……。
実際に他人から見ればそうなんだろう。
夢に囚われて意識のないまま毎夜アトリエで絵を描き続けているのだから。
そんな現実の行動を補足するかのように、夢の中でストーリーが生まれる。
ナルキッソスに恋をした私が、夢の中でジョゼを作り上げたのだと。
だけど自分ではよく分かっているのだ。
あれはただの夢なんかじゃない。
ジョゼは私に会いたくて夢の中に出て来てくれるのよ。
それは自分だけが理解していれば大丈夫。
きっと絵が完成すれば夢も終わる。
そしたら……ジョゼは迎えに来てくれるはず。
「そう?……ならいいけど」
信じているのか信じてないのかは分からないけど、マリアはそれ以上追及してくる事もなく鳥かごの鳥から目線は外さなかった。
「この鳥、可哀想ね」
「可哀想?どうして?」
「だってここから出られないじゃない」
小さなシリンダーで音色を出す小鳥はすぐに鳴く事をやめ、またぜんまいが巻かれるのを待っている。
「この鳥かごの中が夢の世界だとしたらね、この鳥は夢から覚める事がないのよ……一生を夢の世界で終えるの。切ないわよね」
「………」
自分のことを言われてるような気がした。
まるで私が嘘を付いてる事に気付いてるんだよと、夢から覚めなさい、と。




