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部屋の灯りをつけて、窓際に行く。
手にはスケッチブックを持って。
外はまだ日も高いけれど、低いキャビネットの上…ナルキッソスがいる場所は常にカーテンが引かれたまま。
きっと彼は暗がりでも目が見えるのよ。
ベッドに腰掛けて間近でオルゴールを眺め、それからゆっくりとぜんまいを回す。
ギシッと軋むのはいつもの事。
いつも最初だけほんの少し軋むのだ。
それからカチカチと心地よい音を立ててぜんまいが巻かれ、透き通った音色が静かに響く。
そして……ナルキッソスが息を吹き返す。
精巧なからくり人形は生きているかのようにゆっくりと首を動かして。
だけど私を見ることはない。
彼の眼差しは膝の上の本に注がれたまま。
どんな物語を読んでいるんだろう?
少年が好みそうな冒険物?
それとも素敵なお姫様との恋物語?
実際に本には文字らしきものが書かれてあるけれど、あいにく肉眼で見えるような物ではなかった。
でもナルキッソスがこんなに夢中で読んでいるんだもの。
きっと面白いに違いない。
そして私はそんな彼をただぼんやりと見つめていた。
それにしても似ている。
夢か現実か分からないけれど、見れば見るほどこのナルキッソスと館の住人ジョゼはよく似ているような気がした。
ジョゼは少年と呼べるような年齢ではなかったし髪型も全然違うけれど、前髪に隠れた目元や仄白い頬は同一人物だと言えるくらい。
透き通るような儚さも。
そして私の描いた絵はナルキッソスの幼さとジョゼの艶やかさを内包していた。
人形でしかないナルキッソスと実在するかどうかも分からないジョゼ。
だから余計に似て見えるのだろう。
夢の世界で暮らすジョゼがナルキッソスに姿を変えて私の前に現れたのかもしれないし、生身の身体を持たないナルキッソスが夢の中で私に触れたのかもしれない。
逢いたい。
ジョゼにもう一度。
夢でも構わないから。
………
………………
その夜、私はまた夢を見た。




