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「バカねぇそんなの夢に決まってるじゃないの。いつもの夢の続きを見てたのよ、ジョゼなんて名前もそう珍しくないし頭の片隅にその名前があったから夢で会った彼に自分で名前を付けたのよ。ただの夢だわ」



緑の館に行ってジョゼに会った事、そして彼との会話までを話して聞かせればマリアはそう一蹴した。

結局あの日は実家には戻らずにアパルトマンに帰り、疲れて寝てしまって長い夢を見たのだと。

あまりに長い時間眠っていたために2日前の自分の行動が曖昧なだけで、あの町へ帰るつもりだったのを実際に帰ったんだと錯覚してるのよ、と。


少しずつ館に近付いていた夢が、今回は琥珀の瞳を持った青年との会話に発展しただけだと言われれば、私もそれ以上の反論はできなかった。





だけど気になるのはマリアが頑としてこの夢を「つまらないただの夢」だと決めつけている事。

数日前にはあんなに気にかけていたのに。

マリアのこの態度から、彼女が実際には「単なる夢」だとは思っていない事が窺える。

私を夢から遠ざけようとしているのが。



だから、アトリエに残されていたデッサンの事は話さなかった。




理由の分からない焦燥感に突き動かされてアトリエのドアを開けた私は、あのデッサンを見てまるで自分が夢遊病にでもなったのかと怖くなった。

だって部屋に他人が入った形跡などないし、何よりもデッサンそのものが描いた記憶はなくとも自分の手によるものだと分かったから。

絵にはそれぞれの癖が出るものだから。


自分が自分では無くなっていく感覚。

自分の意思に関係なく、不思議な力に操られているとしか思えなくて。

自分では描いた覚えなどないのにどう見ても自分のものでしかないデッサンを前に、どこへ説明を求めればよいのか。




そしてまた、それを機に忘れていた記憶が少しだけ顔を覗かせたのだ。


相変わらず夢か現実かの確信は持てないままだったけど、確かにあのあと私はジョゼに導かれて館の中に足を踏み入れた。


それはまるで柔らかな繭に包まれたように全てがぼんやりしていて、その中では違和感も不信感も恐怖も何も感じなかった。

あれが現実だとすれば催眠術にでもかかっていたのだろうかと思う。




そして私はそこにあるもの全てを受け入れていたのだ。






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