第二章~1
窓の外はもうとうに日が昇り、明るい部屋に満たされた光で目が覚めた。
白い壁に白いカーテン。
ベッドの上には紫のクッション。
なんら不思議なことはない、ここは私の部屋。
それなのにこの妙な違和感は何だろう?
まだ眠りから覚めたばかりで働かない頭を叱咤して、夢から現実へと戻ってくる。
そういえば熟睡していたのか夕べは夢も見なかった。
夕べここに帰って来て………帰って来て?
そこで違和感の原因に気付く。
私は一体いつの間に帰って来たのかしら?
もう一度改めて周りを見回せば、いつもの部屋にオルゴール。
間違いなく自分の住むアパルトマンの一室であることには違いない。
だけど、ここへ帰って来た記憶が全くないのだ。
………
………………
夕べ私は緑の館を訪れた。
そしてあの人に会った。
ほら、こんなにもハッキリと覚えている。
ドアの前から動けなくなっていた私は、背後から声をかけられて飛び上がったのだった。
『脅かしてごめん』
振り返った先に立っていたのは、おとぎ話から抜け出してきたかのような美しい青年……。
ゆるくウェーブのかかった黒い髪、白い肌。
透き通るような瞳。
『……ナルシス?』
ナルシス―――ナルキッソス。
思わず人形の名前を呟いてしまい、慌てて口を押えた。
何だか悪戯を見つかった子供のよう。
いや、それよりも片想いの相手に気持ちがばれた時のような気分だ。
私の片想いの相手……俯き加減で本を読むナルキッソス。
ぜんまい仕掛けのお人形。




