武術学校 - 1
学校を見てまず綺麗なことにびっくりした。
馬車から見えた他の建物も僕が住んでいた施設よりは大体綺麗だったけど、この建物はあらゆる所が磨き上げられている。遠くから見た時はまさか施設と同じ岩で出来ているとは思わなかったぐらいだ。
全員到着した後、教師と思われる大人に連れられて中庭に入ると、そこには沢山の上級生が整然と並んでいた。誰一人として、こちらを見ずに真っ直ぐ前を見ている姿にちょっぴり気圧されたのは僕だけじゃなかったみたいだ。キョロキョロしている一年生は殆ど居なくなっていた。
整列してから待つこと10分、慣れてきたのか緊張感がなくなってきていた一年生の空気が変わった。前に出てきたのは全身に傷跡のある大きな男だった。今まで見たどの大人よりも強そうで、圧倒的な存在感があった。
「諸君らをミストラスに迎え入れることが出来て嬉しく思う。小国である我が国の強みは人的資源だ。全員が一騎当千の存在となるよう、これからの6年間心して過ごすように。」
それだけ言うと彼は去っていった。
それで歓迎の式?は終わりになり、僕らは教室に移動した。最後まで上級生はこちらを見ようとはしなかった。
教室に着くと担任の自己紹介が始まった。ティームという名前で今年で3歳になる息子がいると言った後、趣味や特技について話し始めた。大人は暇なんだなと思ってその時の僕は趣味の話になった後は聞き流していた。
次に生徒の自己紹介が始まった。誰もが番号と名前しか答えなかった時に、選別の時に目立っていた大柄な奴だけは違った。
「俺はドム!俺は国で一番になる!そしてみんなを守ってやる!」
元気な奴だなと思っていたら、女子の何人かからクスクスと笑い声が漏れた。
次の奴はドムの自己紹介が女子にウケたことが気に入らなかったみたいだ。
「俺はギル。いちばんになーる」
と阿呆面をしてドムの真似をした。
今度は僕を含めた男子の何人かが笑い、その中にドムもいた。女子には不興だったようだ。
その後の自己紹介では同じようにドムの真似をした男子が何人かいた。
僕も「にばんになーる」って言ったらやはり一部にはウケて、なんで二番なんだよという野次がギルから飛んできた。そんなに面白いとは思わなかったけど、自分の言葉で人が笑うのは気持ちが良かった。
.....
最初の授業は組手だった。
二人一組になり剣の練習をするというもの。強そうなドムと組みたかったが同じ考えの奴は多くて、ラインという奴と組むことになった。ラインはドムと組み損ねて少しがっかりしてた僕に組まない?と声を掛けてきたのだ。
ラインと組もうという気になった主な理由はもう一つ、クールなイケメンだったからだ。今はそのすました顔を叩くのはきっと楽しいに違いない。今はドムよりもラインと組めて良かったと思っている。
そんな考えを隠したまま、ギルの方をを見てみると女子と組むことに失敗したようだ。授業でペアを組むことが分かって直ぐに女子達の方に駆け寄っていたが、早くも女子に嫌われ始めていたらしい。不満そうに他の男子とペアになっている。
そろそろ始まるらしい。飄々としていたラインの表情が真剣なものになっていく。
僕は最初の一撃でビビらせることに決めた。
開始の合図がした。
同時に思いっ切りラインの顔面に向けて打ち込む!
だが、期待した手応えの前にカンッと木刀のぶつかり合う音がした。
ラインの顔に焦りはない。
ちょっと適当過ぎたかと思い、次はフェイントを入れてから再び顔を狙う。
しかし、これも防がれてしまう。依然としてラインの顔に焦りはない。
偶然だとしか思えなくて、もう一度試す。
今度は顔を狙った突きが躱され、腹にラインの足がめり込む。
「グフッ」
あまりの痛みに悶絶する。油断していたことは確かだけど、それを差し引いてもラインは強かった。
再開した後はお互い一度もクリーンヒットすることなく終了の合図を迎えた。
「大丈夫だった?」
とラインは申し訳なさそうに話しかけてきた。
「これくらい問題ない」
ムキになってしまう。ちょっと悪いことしたなと思っていたら
「ああ、良かった。君の剣は早くて凄いけど、顔ばかり狙いすぎだから、もう少し色々場所を狙ったほうが良いと思うよ」とアドバイスをしてきた。
いつもはそんな事しないとも言えず
「…次はそうしてみる」
と答えるので精一杯だった。
会話文を入れると違和感が出てしまいます