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ゆで卵ヴォヤージュ

作者: カンコ

トメイトゥさんからの依頼小説です。

 向こう岸には、一体何があるんだろう。

小さな小さな旅人は、蒼く広がる海を眺め、いつもそう思っていました。

朝日を浴びながら飛び交うかもめを、ぼんやりと見つめ、

「あのお方たちに乗せてもらえれば、こんな海なんて一っ飛びなのになぁ」

と、旅人はため息をつきました。遠い遠い海の向こうを見やると、あまりの広さになんだか眠くなってしまうのでした。

「今日も一日中昼寝しようかな」

大きなあくびをしながら、旅人は目を閉じました。

 ですがその時、旅人の背中に、何かがとんとぶつかりました。

それは旅人の背中をはね返り、ごろごろと転がります。

ゆで卵でした。

真っ白でつやつやと光る、それはそれは立派なゆで卵でした。

「なんだなんだ」

旅人は、ごろごろ遠くに転がってゆくゆで卵を、てけてけと追いかけ、両手でしがみつくようにして捕まえました。

「このゆで卵、転がってきたのか」

一体どこから転がって来たのかは分かりませんが、そのゆで卵は、突然姿を現したのでした。

「それにしても立派なゆで卵だなぁ」

しみじみとそう思っていると、ふとあることを思いつきました。

「そうだ、この卵を半分に割って、それで船を作ってこの海を渡ればいいんだ」

旅人はそう言って、にこりと笑いました。 

そしてすぐさま旅人はそのゆで卵を半分に割りました。すると黄色い黄身がふるふると美味しそうに顔を覗かせます。

「これなら食料にも困らないぞ」

そう言って、旅人は二つに割れたゆで卵の一つを潰して、パンにはさんでサンドイッチを作りました。

これでようやく、海を渡ることができます。旅人はとても嬉しい気分でした。

 ですがその時、

「おーい、オラオラ」

大きな声で叫びながら、誰かが走って来たのです。

「お、おまえは!」

旅人のところに走ってきたのは、旅人よりも大きくて、強そうな男でした。

「おいおい、おまえ、そのゆで卵でこの海を渡ろうとしてるんだろ?」

男は旅人を見下ろしながら、大きな声でそう言いました。

「そ、そうだとも。このゆで卵に乗って、この海を渡るんだ」

大きな男に怯えながらも、負けずにそう言い返しました。

「そうか。だがな、そうはさせないぜ。なんたって、俺もこの海を渡らなきゃいけないんだ。その船をよこせ!」

そう言って、男は旅人に襲い掛かろうとしました。

「だ、ダメだ!この船は、渡さない!」

精一杯に、そう言い放ちます。

「ほう、そうかそうか」

そう言うと男は、「お、うまそうだな」と、旅人の作っておいたサンドイッチを丸呑みしました。

「何をする」

「おまえがその船を渡さないから悪いのだ」

「何だと!」

旅人は何度も声を荒げますが、男にとっては痛くも痒くもない様子で、遂に男は「素直に船を渡さないのなら、こっちから奪い取るのみだぜ!」と、ゆで卵の黄身をかっさらいました。

「ふははは、可哀想だから、白身だけ残しておいてやるぜ。黄身の方が旨いけどな!ふははは」

男は旅人の方を見て、大笑いしました。

「くそ!」


 そうして旅人の船であるゆで卵の黄身だけを奪った男は、早速その黄身を海に浮かべ、その上に乗りました。

「ふははは、なかなかいい船だ。これなら向こう岸まで楽ちんだな」

男はそう言って、上機嫌そうに大笑いしました。

旅人は涙と怒りを抑えながら、残された白身を海に浮かべ、男の後に続きました。

「ふふふ、お前のはみすぼらしい船だな」

そう言って、男はさっさと先へ向かいます。

そんな中、旅人は白身の船にぷかぷかと揺られながら、のろのろと後を追うのでした。

旅人は、何とも悲しい気分でした。

ですが、その時でした。

「あ、あれ?」

男の船が、ずぷりと海の中へ沈んでゆくのです。

「な、なんだ!?船が沈んでいくぞ!」




~BGM『追憶』~



 ……そう、これはとあるたまごちゃんのお話。

 たまごちゃんがたまごちゃんになる前は、黄色いたまごちゃんと白いたまごちゃんとは別々に暮らしていました。ですがある時、白いたまごちゃんは、か弱い黄色いたまごちゃんを守ってあげたいと思い、その身で優しく包んであげたのです。

 そうして黄色いたまごちゃんと白いたまごちゃんとが一つになり、たまごちゃんが生まれたのです。

しかし、白いたまごちゃんは、黄色いたまごちゃんのためにもっともっと強くなりたいと願いました。そして、たくさんたくさん修行をしました。

 やがて白いたまごちゃんは、水に負けない、丈夫なたんぱく質を手に入れる事ができました。

一方黄色いたまごちゃんは、白いたまごちゃんの愛情に包まれ、脂肪分を多く含み、故に水に弱いたんぱく質で固まり、幸せ太りをしたのでした。








「な、なんてことだ!!」

男の船が、みるみるうちに沈んでゆきます。

一方で、旅人の船は丈夫に、沈むことなく海の上を浮かんでいました。



黄身が、沈む。

白身が、浮かぶ。

それは、果たされた願い。

それは、遙か昔を形作った、船旅のように。





 向こう岸には、一体何があるんだろう。

小さな小さな旅人は、蒼く広がる海を眺め、いつもそう思っていました。

朝日を浴びながら飛び交うかもめを、ぼんやりと見つめ、

「あのお方たちに乗せてもらえれば、こんな海なんて一っ飛びなのになぁ」

などと……。


 「渡って見せます」

船は、ゆっくりと静かに、そして優雅に。

いつしか童話であることすら忘れてしまったかのように。

キミを乗せた船は、決して沈みはしないだろう、と。


「ねえ、この先には何があるの?」

タラが問い、海はより一層蒼く。


嗚呼、だけどやはり。

危うい。


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