多機能生物
C氏は大企業の社長だった。
C氏はある時、友人であるD博士の許を訪ねた。
「やあ、珍しいな。君が訪ねてくるなんて」
D博士は言った。コーヒーを啜っている。
「ちょっと作ってほしいものがあってね」
「ほう」
D博士はまたコーヒーを啜った。
「それは植物だ。しかし従来のような意思を持たない植物とは違う。意思を持って働く特殊な植物だ」
「ふむ、面白そうだな。幸い、植物というのは私の専門分野でもある」
D博士はもうコーヒーを啜らなかった。興味が湧いてきた証拠だ。
「どんな人間にも簡単に利用でき、かつ日常的というものがいいな。具体的には、重い物を持ち上げる能力、思い浮かべたことを表す能力、遠くにあるものを取ってくる能力……」
「いや待て、それはやめておこう。人間が何もしなくなる」
「そういうものかもしれないな。ではそれはやめよう。ほかには、主人の命を守る能力、傘の代わりになる能力……」
C氏は、具体的な例をいくつも挙げていった。
「どうだろう、作れるかな」
「まあ、技術的には大丈夫だと思うがね。ただ予算が……」
「金のことなら心配しないでいい。私が全額負担しよう」
「そうか、それはありがたい。ならば一カ月ほど待ってくれ。なんとか頑張ってみよう」
「頼む」
C氏はD博士の家を後にした。
それから一カ月後、C氏の援助を受け、D博士は植物を完成させた。
「どうだ、例の植物が完成したというが」
D博士に呼び出されたC氏は、期待に胸を膨らませて尋ねた。
「ああ、ついに完成したよ。これだ」
D博士が取りだしたのは植物の種のようだった。
「これを二の腕に埋めるのだ。するとすぐに成長して、そのあとは自分の思い通りになる」
「素晴らしいじゃないか」
「そしてそのあとは、頭の中で思い浮かべた命令を遂行する。このシステムは、脳波から出るシグナルをこの植物が……」
「詳しい説明はいいよ。要は頭の中に思い浮かべればいいんだろう。で、副作用などはないのかね?」
「それは大丈夫だ」
D博士は即座に答えた。
「何度も動物実験をしたし、私も使ってみた。副作用はない」
「そうか。安心したよ。それでは私は、早速試してみるとしよう」
C氏は家に帰った。
実を言うとC氏は、この植物を悪用しようとしていた。売ったりするのではなく、銀行強盗に使おうとしていたのだ。
ところが、誤算が生じた。
C氏が銀行強盗に入る前に、別の強盗に撃ち殺されてしまったのだ。
植物は困惑した。今まで届いていた脳からのシグナルが急に途絶え、何をすべきか分からなくなったのだ。
植物は、強盗を追い払った後ある結論に達した。
すなわち、世界征服。
なぜその結論に至ったのかは不明だが、とにかく植物は、それを実行に移した。
まず植物は、ある程度売れていた仲間の植物たちに、C氏が大量に開発していた人工知能をばら撒いた。各地の植物たちはそれを受け取り、人工知能を搭載したスーパー植物となった。
植物たちは一夜にして人類を滅ぼし、植物たちの世界を築き上げた。
ある時、植物界の大企業の社長が、知り合いの博士を呼んで言った。
「昔、『人間』なるものが存在していただろう。あれを作ってみてくれ……」