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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

リパーキャットと偽善者

作者: 日賀 巽

 痛々しくよく分からない感じの短編小説。何かが何かに例えてあります。

 流血、怪我の描写がありますのでご注意ください。

 では、どうぞ。

 扉を開けると、幼い少女が立っていた。胸に黒猫を抱えていて、痛々しいくらい痩せた体には大量の生々しい乾いてすらいない傷があった。

 隈に縁取られた大きな瞳でまっすぐに僕を見つめて、

「代わってくれる?」

 と、少女は黒猫を私に差し出した。金と銀の目で私を一瞥して、にゃあ、と鳴いた猫は、少女の腕の上で僅かに身じろぎをした。

 刹那、少女の頬に突然赤い線が走った。傷だ。少女は痛みに幼い顔をゆがめると、小さく、いたい、と呟いた。頬を伝う赤い雫が涙のように見えた。

「ねぇ、代わってくれる?」

 もう一度、少女は私に問うた。涙を含んだ声だった。あまりに辛そうだった。

 だから、私は思わず黒猫に腕を伸ばしてしまった。


「代わってくれるのね」


 低い声で呟くと、少女は少しだけ笑った。何故か嬉しそうには見えなかった。でも私は嬉しかった。彼女が痛い顔をしなくなったから。

 私は、少しだけ誇らしい気持ちで黒猫を受け取った。

 暖かい小さな重みが、私の胸元、腕の中に収まった。なんだ簡単なことだった、そう思って息をついた次の瞬間。

 ずん、と、突然腕の中に鉄の錘を叩き込まれたような感覚。

 黒猫は大きさはそのままなのに突然重みを増し、私は肩が抜けそうになって思わず後ろに体重をかけ、猫を抱えたまま倒れこんで尻餅をついた。

「ぐっ、うぅ」

 倒れこんだ拍子に鳩尾に猫の重みがかかり、私は思わず呻いた。

 少女は、そんなのに気付かないみたいにひどく軽やかに笑みを浮かべて、

「ありがとう」

 そう言った。背を向けて歩いていく彼女の背中はどんどん小さくなっていったが、体のあちこちに目立っていた傷が消えていくのが、私には見えた。

 彼女は、あの華奢な足でこんなものを抱えていたのか。

 感嘆すると同時に、腕に鋭い痛みが走った。見ると、あの少女の頬と同じ、鋭い刃物で切られたような傷口がぱっくりと口を開け、だらだらと血を流していた。


――今からでも少女を追いかけて、もう一度黒猫を渡そう。


 そう思ったが、それが出来るほど私は強くも冷たくもなれなかった。

 にゃああ、と腕の中でひもじそうに猫が鳴く。次の瞬間、私は足に鋭い痛みを感じ、ズボンに赤黒いしみがゆっくり広がっていくのを見る。

 猫が鳴く、切れる。猫が動く、切れる。猫が傷口を舐めるとそこが開いて、更に痛みが走る。

 こいつを殺してしまうのが正しいのか、生かして人を切らないように躾けるべきなのか、私には分からなかった。

 また、猫が鳴いた。ぴきっ、と、頬に引き攣れるような痛み。のち、皮膚を伝う雫の感触。

 片手をやると、血がついた。少女と同じ色の血だった。


 こいつを抱えたままで、私はいつまで一人で耐え続けられるだろう。

 私はいつまで、こいつを人に渡さずにいられるだろう。


――また、どこかの切れる音がした。

 読了いただき、ありがとうございました。多分このまま投げっぱなしだと何の話か分からないような気がするので、作品の背景というか意味というか作者の脳内ワールドを一部ぶちまけようとおもいます。

 そういうのいらない、自分の解釈大事にしたい、って方は、以降を読み飛ばしてください。



 今回出てきたずっしり黒猫は、『ひとが抱える悩みや問題』をキャラクター化したものです。相手の悩みやらなにやらを聞くということは痛みを共有するのに似た行為。安易な気持ちでやると、大怪我したり抱えきれなくなって立てなくなったりします。痛みの共有にも、力量というか痛みを抱えるための腕力は必要なわけで、この主人公はそれを持っていないのに『可哀想だから』ってだけで全部引き受けて潰れてしまったのです。馬鹿で優しい人です。

 少女は振り向きもせずに去っていくわけですが、それは主人公が見ず知らずの他人だったから。少女は多分、身内に痛みを負わせずにぶちまけるだけぶちまけてすっきりしたかったのです。卑怯かもしれません。でも悪人ではないです。とりあえず身内は気遣ってるから。


 こんな感じのイメージで書き上げました。支離滅裂だったかもしれませんが、ここまで読んで下さり、ありがとうございました。批評感想、もしございましたらよろしくお願いします。

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