宇宙の尺度
明るい恒星に比較的近い位置に、高度な文明が存在していた。
その星の大気層は厚く、その気候の影響で、空には常に黒い雲が立ち込めている。昼夜の区別はなかった。
ある日、一人がふと疑問を口にした。
「あの黒い雲の向こうは、どうなっているのか」
その問いは口伝えに広がり、やがて星全体へと波及する。
そしてついに、その星のインフラを管理する者の耳に届いた。
「我々は、あの黒い雲の奥へ行かなくてはならない」
極めて強い重力に逆らい、浮かび上がる船が開発された。
彼らは黒い層の奥を目指し、調査を開始する。
その先にあったのは――360度、視界いっぱいに広がる無数の光だった。
赤、黄、青、白。小さな点が、果てしなく広がっている。
その美しさに、誰もが目を奪われた。
「我々は、この明るい世界で生きるべきだ」
彼らは黒い雲の外に居住地を築いた。星の周囲へと広がる新たな生活圏。
そして、新たに地上との連絡手段も確立された。
だが、ある時――自分たちが発したものではない微弱な電波を受信する。
「我々の他にも、光の世界に生きる存在がいる」
その事実は、彼らに恐怖をもたらした。
「この光の世界が奪われる可能性がある。我々以外の存在は、排除する」
電波の発信源を調査した結果、それは最も近い恒星系の星から発せられていることが判明した。
インフラ管理者は、研究と実験を繰り返し、今までに無いほどの完成度を誇った超大型クラスの艦を七隻建造する。さらに、排除対象を分子レベルで分解する超大型細菌兵器を七つ用意した。
その七隻の艦は空間を進むのではなく、空間そのものを飛び越える機能を備えていた。目的の星までは、三度の空間跳躍で到達可能だった。
七隻の艦には兵器と、調査および制圧のための人員百万人が搭乗し、発進した。
やがて、目的の星を目視する。その星は、黒ではなかった。青と白が混ざり合う、鮮やかな星だった。
百万人の誰もが歓喜した。あの星なら、地上から光の世界を見ることができると。
彼らは確実に兵器を使用するため、陸地を目標に最後の空間跳躍を実行した。
そして――彼らは見た。そして、理解した。
この星は、自分たちの想像を遥かに超える存在が生きる星だと。
それは“生物”と呼ぶにはあまりにも巨大で、あまりにも異質だった。
そう認識した瞬間、七つの艦は一瞬で押し潰され、排除計画は失敗に終わった。
「ねぇねぇ、お母さん。何か今、足で踏んじゃったよ」
母親が振り返り、足元の銀色の小さな塊を見る。
「誰かが捨てたお菓子でしょ。こんな所に捨てるなんて悪い子ね。
ミユちゃんは、道路にお菓子を捨てちゃだめですよ」
「はーい」
風船を持った少女の手を引き、親子はその場を後にした。
地球人が決めた基準が通用しない世界もあるかも知れませんね。




