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奪うことでしか生きられない世界で、命は形を変える  作者: ちひ王


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5/12

殻の中と牙の外

雛鳥の体を捨てた男は、またうさぎの姿に戻った。

今はそれが、最も使い慣れた身体だった。


死は重い。


命を奪うのは、思ったよりもずっと後を引く。

飛べない雛鳥。

ただの、弱い肉の塊だった。


次は、意味のある変身をしなければ。

勝ちを見込める、確かな変化。

そうでなければ、ただ命を重ねていくだけになる。


森の中を進む。

日が高くなっていた。

陽だまりの中で、一匹のカメが歩いていた。

甲羅は黒く、ゆっくりと動く。

動作は鈍く、反応は乏しい。


うさぎの体では正面から押し切れない。

だが、倒せる可能性はある。


男は周囲を見渡した。

都合のいい場所を探す。斜面。そこに大きな石があった。


旋回するように動き、カメを誘導する。ゆっくりと石のある場所へと導く。

カメはのろのろとそこに近づいてくる。


石の手前、わずかに窪んだ地面を通過する瞬間。

男は全力で駆け、カメの背後に回り込んだ。

後ろ脚で思い切り蹴り上げる。

甲羅が浮き、バランスを崩す。

重い体が傾き、そのまま背中を下にして転がった。


じたばたと脚を動かすが、甲羅が重く、起き上がれない。

男はそのまま見つめていた。

カメは、しばらくして動かなくなった。


変身はすぐに起きた。

重い体。頑丈な外殻。短い脚。

防御力はあるが、攻撃も逃走にも向かない。


やがて、慣れてきた頃。

男は意識を集中し、かつてのうさぎの体に戻った。

柔らかい毛。軽い脚。耳を伝う風。


池の近くに戻ってみると、水辺に小さなカエルがいた。

緑色の体。ぴょんと跳ね、舌を伸ばして虫を捕らえている。

動きは速い。


だが、今のうさぎの体なら、追いつける。

男は静かに近づいた。

カエルは気づかず、水面を見つめている。


一気に跳躍。


前脚でカエルの体を押さえつけ、地面に叩きつけた。

ぬめりとした感触。

カエルが一度痙攣し、動かなくなった。


男は意識を集中した。

変身が起きた。

視界が低くなり、体が冷たくぬめり、脚が跳ねる準備をする。

カエルになった。

水辺の感触。舌の長さ。


だが、その瞬間――

巨大な口が迫ってきた。

一瞬だけ、蛇の接近する口が見えた。

牙が光り、喉の奥が黒く開いている。


「......!?」

動揺が走る。

避ける間もなく、体が丸呑みにされた。


暗闇。

ぬるぬるとした腹の中。

圧迫感。消化液の臭い。

体が溶け始めそうな痛み。


――死ぬ。

また死ぬ。


呑まれる直前、意識を切り替える。

カメを思い出す。

あの重く、硬い殻。


意識を注ぎ、形を変える。

中で、カメになる。

蛇の腹が膨れ上がる。


内部から無理に押し広げられ、きしむ。

皮膚が裂け、筋肉が音を立てる。

逃げようと暴れても、もう遅い。

ばしゅ、と音がして、蛇の腹が裂けた。

血と粘液が飛び散る。


男は、カメのまま、ゆっくりと這い出た。

草が濡れていた。

蛇の体はびくびくと痙攣し、やがて動かなくなった。

助かった。


男は、静かに変身した。

長い体。なめらかな鱗。

筋肉に力がこもる。視線が地を這う。

蛇になった。


生きている。

だが、心臓のようなものが、まだ激しく鳴っていた。

この世界は、容赦ない。

一瞬の油断が、死を呼ぶ。


男はその場にじっと伏せ、地熱を感じた。



小説を作って、

しばらく寝かせて、

せっかく作ったのだし、

と思って今に至ります。


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