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変身の森 〜奪うことでしか生きられない世界で、命は形を変える〜  作者: ちひ王
変身の森

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16/31

迫りくる脅威

心を整える暇もないまま、時は無情に過ぎていった。

見えない檻の境界は日に日に狭まり、森の奥へ奥へと追いやられる。気づけば、自由に動き回れる範囲は手のひらほどに縮んでいた。


男はそれでも罠を作り続けた。落ち葉を薄くかぶせた溝、崩れやすい枝、岩陰に仕込んだ不安定な石。すべてはほんのわずかな時間稼ぎにすぎないと分かっていても、掘り返し、仕掛け、汗のように土をまとって動いた。


その時だった。


――かさり。


背後で微かな音。

風かと思った。だが違う。もっと重く、意思を帯びた音だった。


胸が凍りつく。

罠が作動したのか?


恐る恐る離れた位置へ回り込み、視線だけを伸ばす。

......いた。


狼。

黒い毛並みと金色の目。

地面に鼻を近づけ、土を嗅いでいる。


「っ......」


息を殺す。心臓が耳の奥で暴れた。

完全に位置を割られたわけではない――それが唯一の救いだった。

だが、匂いの線は確実にこちらへ伸びている。


先に気づけたのは僥倖だ。

しかし、音を立てればすぐに感づかれる。

かといって、このまま動かずにいても、匂いで追いつかれるのは時間の問題。


体は石のように固まった。恐怖で動かない。


そして――目が合った。


金色の光がこちらを射抜いた瞬間、全身の金縛りが解ける。

考えるより先に脚が動いた。


走る。

草を蹴り、枝を裂き、森を裂いて駆けた。

仕掛けた罠の脇をかすめ、己が網を掻い潜るようにして逃げる。


背後。

狼も走った。だが、罠を避けている。確かに罠にかかる位置を外して追ってきていた。

まるでこちらの意図を読んでいるかのように。


「......っ!」


耳が風に鳴り、肺が焼けるように熱い。

それでも走り続ける。


うさぎと狼。

本来なら決定的な差がある。

少しの足止めが生死を分けるが、追う側のほうが圧倒的に有利だ。


なのに――追いつかない。


振り返ると、一定の距離を保っている。

いつでも追いつけるはずなのに、あえて近づかず、ただ獲物の逃げる姿を見ているように。


「......なぜ......?」


疑問が喉を焼いた。

だがその答えを考える前に、森の空気が急に重くなった。


気づいた時には、もう遅かった。


地面の匂いが変わる。

木々の配置が不自然だ。

――囲まれている。


足が止まる。

遅れて、背後から風が走る。


檻が狭まったのではない。

いや、それ以上に。


「待ち構えていた......!」


喉の奥で声にならない悲鳴が漏れた。


次の瞬間、影が前後から迫った。



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