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奪うことでしか生きられない世界で、命は形を変える  作者: ちひ王


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12/18

水底の籠城

湖の中は、意外にも悪くなかった。

蛇の体は水を滑るように進み、小さな魚を追い立てては捕らえることができた。

泳ぐ姿はぎこちないと思っていたが、意外にも水に馴染んでいた。


――腹を空かせて終わる心配は、今のところない。


それだけでも救いだった。

生き残るには、食べることが第一条件だ。


だが水中で長く息を止めるのは限界がある。

湖底の岩陰に隠れながらも、やがて肺が悲鳴をあげる。

そのたびに水面へ浮かび上がるのは危険だった。

水鳥やワシが影を落とすたび、あの金色の目を思い出す。


そこで体を変えた。

中型の魚へ。

水の抵抗は少なく、呼吸も楽だ。

群れに紛れれば見つかりにくいし、より小さな魚を容易に捕食できた。


湖の中には、自分より大きな脅威はほとんどいなかった。

中型の魚を襲うのは鳥くらいだ。

水底でじっとしていれば、空の影に襲われる心配もない。


そうして時を繋いだ。

小さな命を喰らい、わずかに安堵し、また不安に苛まれる。


――だが、これはただの時間稼ぎだ。


わかっていた。

自分が魚になったなら、あいつも同じことができる。

対策を進めているに違いない。

水に逃げ込んでも、やがて見つかる。


檻は狭まっている。

範囲が縮まれば、いずれ湖も逃げ場ではなくなる。

衝突は避けられない。


胸の奥に、焦燥感が積もっていった。

何をしても一時しのぎに過ぎない。

それでも、出来ることをやるしかなかった。


そんな時。

湖底を泳ぎながら岩の隙間を探っていた時だった。


――あれは......?


暗がりに、岩の隙間にぽっかりと口を開けた横穴があった。

水流が緩やかに出入りし、奥は闇に沈んでいる。

中は狭いが、今の体なら通れなくはない。


奥がどうなっているかはわからない。

浅い隙間で終わっているかもしれない。

けれど、相手は大きい。

仮に追ってきたとしても、この穴を通り抜けるのは難しいはずだ。


――籠城、か。


思考の中でその言葉が浮かんだ。

奥に潜り込み、出入口を土や石で塞ぎ、外を遮断する。

少なくとも時間は稼げる。

その間に檻がどう動くかはわからないが、即座に殺されるよりはマシだ。


だが同時に、別の不安も芽生えた。

穴の奥に進めば、逆に自分が閉じ込められる。

逃げ道を失えば、死ぬのは自分だ。

籠城は最悪の切り札に過ぎない。


それでも、選択肢が一つ増えたことは事実だった。

逃げ道を探して見つからないよりは、まだいい。


湖の中に漂いながら、男は自分の鼓動を数えた。

水面は静かで、空は青い。

けれどその静けさが、かえって恐ろしかった。


刻一刻と、対決の時は迫っている。


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