閉じゆく森で
幸いなことに、まだ森の中を動ける範囲は広く残されていた。
バリアはじりじりと内側へ迫ってきているが、今のところはまだ森を自由に歩ける。
だからこそ、今のうちに――変身できる生き物を見つける必要があった。
毒を持つ命。両手を使える命。力で押し切れる命。
あいつと互角に渡り合うための駒を。
だが、時間が経つほどに状況は悪くなる。
檻は狭まり、準備のための空間が削られる。
今の余裕は、実のところ砂時計の底に残ったわずかな粒にすぎない。
――ゆとりがあるようで、少ない。
それを実感したのは、湖で逃げ延びた時だった。
水中に飛び込めば一時的に逃げ切れると思った。
だがあいつも魚に変わることができるとしたら、もう水は逃げ道にならない。
むしろ、次に同じ手を使えば、溺れるのは自分のほうかもしれない。
相手は野生動物ではない。
明らかに人間並みの知能を持っている。
いや、自分と同じ――転生者なのだろう。
そう思えば思うほど、胸の奥に重い鉛が沈んでいった。
この三日ほど、森をさまよいながら考え続けた。
だが、何も思い付かない。
どれだけ歩いても、答えは落ちていなかった。
考える時は、地中に潜ることにした。
モグラの体なら、隠れることに関しては最強クラスだ。
地面を掘り進め、狭い空洞に潜り込み、土で蓋をする。
そこなら、少なくとも一時は安全だった。
だが暗闇に閉じこもっても、考えがまとまることはなかった。
ただ、土の中で心臓の音がやけに大きく響くだけ。
時折、地上に出る。
木々の間から空を見上げると、ワシが翼を広げて旋回していることがあった。
――あいつかもしれない。
そのたびに身を低くし、再び地中へ逃げ込んだ。
全く、気が休まらない。
眠る時も耳を澄ませ、土の振動に怯える。
歩く時も影に怯え、風に怯える。
自分の姿が誰かに追われている錯覚から逃れられなかった。
考えがまとまらない。
毒か、鎧か、罠か。
頭の中で何度も巡っては、霧のように消えていく。
あの目が、離れなかった。
森の闇に浮かぶ金色の双眸。
自分を狙い続けるあの視線。
どうすれば勝てるのか。
どうすれば生き残れるのか。
――答えが出ない。
森は静かだった。
しかしその静けさは、嵐の前の静けさにも似ていた。
檻は狭まり続けている。
立ち止まる時間は、もう残されていないのかもしれなかった。




