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カーテンの隙間から射し込む気怠い西陽を見ながら、ふいに思いついた。
「着物、買ってやるよ」
鴇巣デニー遅志はそう言って煙草に火をつけた。
布団の上で女が肩を使って息をしている。その女の腹部で白いジャムが震えていた。
デニー遅志が煙を吹きかけてみたが、白いジャムが脇腹へ垂れる事は無かった。
「着物、いくらするか知っているの」
女は気怠そうに上半身を起こして畳に転がっているトイレットペーパーを引き寄せた。
「知らんよ、調べた事もない」
デニー遅志はコーヒーの空き缶に吸い殻を押し込むと、ぶっきらぼうに答えた。
お前には買えない、と言われた気がしてムカついた。それくらいやれるさ、多分な。
女を睨んでいたが、女の方は腹を拭っていてデニー遅志を見ていなかった。
自分の女に着物を買ってやる。
それが大人になると言うことだ。
ローンを組んで一軒家を買うとか、スポーツカーを売ってミニバンを買うとか、そういうちゃんとした大人になると言う事の一環に着物を買ってやる、と言うのがある。
少なくともデニー遅志はそう思っていた。
そうでもしないと大人になれる気がしない。
少年から青年へのイニシエーションがセックスであるとするならば、デニー遅志にとって青年から大人へのイニシエーションは連れ添う女に着物を買ってやることだった。
もしかしたら、そうする事で覚悟を決めるのかも知れない。
この女と連れ添う覚悟を決める。
その為に着物を買う。
それでいい。じゃあこの女にはどんな柄の着物が似合うだろう。
女が座っている布団は白いシーツに若草色が透けて見えていた。
若草色は似合うだろうか。
薄桜色はどうだろうか。
金糸銀糸の爛漫なのも良いかも知れない。
デニー遅志はこの女が普段どんな色の洋服を着ていたか思い出そうとして、自分が再び勃起している事に気づいた。
女は少し笑うと「ねぇ、次は付けてみない?」と言って鏡台の引き出しからコンドームの箱を取り出して言った。
「なんだ、それ」
デニー遅志は顔をしかめた。
「虫でも見るかの様な目をするのね」
笑う女をデニー遅志は瞬間的に蹴り飛ばしそうになった。
「そんなもん、付けた事ねーよ」
そんなものを付けるセックスはイニシエーションじゃない。
コンドームを付けるセックスは弱者のするセックスだ。肯定される為のセックスだ。
俺は俺を肯定させる為にセックスをする強者だ。
冗談じゃない。
「似合うと思うんだけどな」
女はデニー遅志の目つきに少し怯えた様子で媚びた笑いを浮かべた。
「似合うコンドームってなんだよ」
デニー遅志は鼻で嗤ったが、女はそれに構わず袋を破ってひとつのコンドームを取り出した。
それは金色に光るコンドームだった。
薄いゴム状のだらりとした物が、カーテンの隙間から射しこむ西日を受けてキラキラと金色に光り輝いている




