朝の風景
豆腐屋の朝は早く、夏の父親は既に店の準備に精を出していた。
そこへ、一台の軽自動車のバンが止まった。
軽自動車の中から、三十代半ばの男が出て来た。
男は車の後ろのドアを開けると、大きなコンテナを抱えて豆腐屋の中に入って行った。
「おはようございます」
「おはよう」
顔を上げず、夏の父親が答える。
男は、コンテナを抱えたまま、店の奥へ入って行った。
店の奥には、夏が豆腐作りの準備をしていた。男が、夏に声をかけた。
「おはよう、なっちゃん」
源さん、おはよう」
夏に、源さんと呼ばれた男は、コンテナを台の上に置いた。
コンテナの中には、大豆がびっしり入っている。
夏は大豆を取り出し、豆腐作りを始めた。
源さんの家は、醤油屋。
大豆を、夏の豆腐屋に出荷していた。源さんは、夏が小さい頃から出入りしているので、家族も同然だ。
大きな体で笑顔の絶えない源さんは、夏と話をしながら豆腐作りの手伝いをした。
「ありがと、源さん。もう、良いよ」
「じゃ、なっちゃん。またね」
源さんは、店の準備をしている夏の父親に挨拶をして、帰っていった。
豆腐屋の朝。いつもと同じ風景。
夏の一日の始まり。
家にいる時の私は、ほとんど二階の部屋にいる。
座椅子に座り、朝からパソコンのキーボードを叩いていた。
私の背後で、小さな扇風機がまわっている。
エアコンなんて、そんな洒落た物はこの家には置いていない。
やっと一区切りつき、おもいっきり伸びをする。
時計を見ると、既に正午になっていた。
すっかり、汗だくになってしまった。
パソコンを閉じ、シャワーを浴びに下の部屋に行く。
シャワーを浴び終えると、お腹がすいてきた。朝から何も食べていないから、当たり前か。
私は、出かける支度をして外に出た。
今日も暑く、うんざりするほどのセミの声。
私は広い通りを出て、繁華街へ歩いて行った。
三十分程暑い中を歩き、にぎやかな繁華街へ出る。
私が住んでいる下町的な場所とは違い、此処は人の出や車が多い。
その中に、花屋がある。
私は、花屋の中に入って行った。
花屋には客の姿はなく、店の主人しかいなかった。
店の主人は色黒で、気難しい顔をしている。
しかし外見と違い、面白い男だ。
私は、主人のことを「おじさん」と、呼んでいる。
「おじさん、こんにちは」
「おう、奥にいる。呼ぶから待ってな」
おじさんは、店の奥に入って行った。
しばらくすると店の奥から、背の高いひょろっとした青年が出てきた。
青年は私を見ると、にっこりしながら軽く手を上げた。
青年の後に続き、おじさんも出てきた。
「おじさん、出かけてきてもいいかな?」
「昼飯、まだなんだ。ちょうど良かった」
「じゃあ、行ってくるね」
「おう。ゆっくりしといで」
「ありがとう」
私は、隣に立っていた青年に「行くよ」と一言声をかけ、青年の手を握った。
青年は、しばらく私をみつめていたが、やがておじさんに向かって軽く手を上げ、私と一緒に店の外に出た。




