オレンジの夕日
「う~ん今日もいい天気!」
ホテルを出た私は、思いっきり伸びをした。
「省吾。眠くない?」
昨日は話し込んで、寝るのが大分遅くなってしまった。
「ちょっと眠いけど、大丈夫。電車の中で寝ちゃえば、いいもんね」
「よし、じゃあ、行こうか!」
私と省吾は、海辺の町を後にした。
電車に揺られながら、私と省吾は眠ってしまった。
電車を降り、新幹線に乗り換える前に、駅ビルの中で昼食をとった。
食事を終えると、新幹線の時間までまだ余裕があったから、おみやげを買うことにした。
向と夏親子と源さんのお土産は、ハズレのない食べ物にした。
省吾が手にしていた買い物カゴの中身を見て、私は言った。
「それ、高木のおみやげ?」
「うん」
「高木のお土産、私も買おうかな」
私は悩んだあげく、高木にはキーホルダーを選んだ。
「それ、高木君のお土産?」
「うん。省吾が手にしているお土産は、誰のお土産?」
「前田先生のお土産。おばさんは、先生に買わないの?」
「私は……」
そう言いながら、またあの時の記憶がよみがえる。
前田を突き放した時、土下座をしそうな勢いで「すみません!」と、前田は頭を下げた。
思いを巡らしていると、省吾は不思議そうな顔をしていた。
その時、小さなクマのぬいぐるみに目がとまった。
私は、その商品を二つ手にした。
見慣れた町に着いた頃、西日が傾いていた。
大きな河が流れている橋の上で、省吾は立ち止まり。
声を上げた。
「わ~凄い夕焼け!」
「小さい頃は、夕焼けは嫌いだったな」
「どうして?」
「陽が落ちると、それまで一緒に遊んでいた友達が一人、また一人って、家に帰っちゃうんだ。気が付くと、私一人だけになって。……家に帰りたくなかった」
「今も、夕焼け嫌い?」
「ううん。そんなことは、もうない。綺麗だよ、夕焼け」
しばらく黙ったまま、私と省吾は夕焼けを眺めていた。
私は思い出したように、駅ビルの土産店で買ったクマのぬいぐるみを、カバンから出した。
「これ、前田先生に渡して」
「先生のおみやげ?」
「うん」
「おばさんから、直接先生に渡さなくてもいいの?」
「忙しいから、省吾が渡して」
「わかった。渡しておくよ」
「ありがとう」
前田のお土産をリュックの中に入れた省吾は、私に唐突に聞いてきた。
「健一さんと、結婚するよね?」
「うん」
「本当に?」
「省吾と一緒に旅が出来て、良かった。健一と結婚したい」
言った言葉に、嘘はなかった。
省吾は笑顔で、はしゃぐように言った。
「僕、手話を覚えるよ!おばさんが大変な時は、僕が健一さんの力になるよ!なんでも言ってよ!」
「おばさん言うな」
私がそう言うと、省吾は声を出して笑った。
そして笑いを収めると、真顔になって言った。
「本当にありがとう。お母さんには会えなかったけど、今回の旅は決して無駄じゃなかった。おばさんと旅行ができて、楽しかった。おばさんが、健一さんと結婚する気持ちになってくれて僕は嬉しい」
「私も、楽しかったよ」
「じゃあ、僕行くね」
そう言った省吾は走りだした。
しかし、すぐ立ち止まり振り返った。
「一つ、聞くの忘れてた!」
「ん、何?」
「名前、何て言うの?」
「アイカ」
「あいか?」
「母親がね、名前だけは譲れないって、母親が考えた名前なんだ。母親は、夏が好きで「愛する夏」って、意味なんだ。漢字じゃ堅苦しいから、カタカナにしたんだって」
「へ~そうなんだ!もしかして、夏さんも?」
「うん。叔母さんも、夏が好きだったから、私の名前の最後の「カ」の文字を取って、「夏」にしたんだって!」
「そんな、名前の由来があったんだ!あのさ……」
「何?」
少しだけとまどった省吾は、大きな声で言った。
「ばいばい、アイカ!またね!」
そう叫んだ省吾は、走って行ってしまった。
小さくなっていく省吾の背中に、私はそっとつぶやいた。
「ばいばい省吾。またね」




