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なつのかけら  作者: kagari
21/27

涙も枯れて

 二日目の旅の朝を迎えていた。

 民宿を出る前に女将に、これから行く住所の場所を聞くと、バスで行けることがわかった。 バス停は、民宿の側にあった。 女将にお礼をして、私と省吾は民宿を後にした。

 今日も良く晴れていた。

 バスは待つこともなく、すぐやってきた。

 一番後ろの座席に座ると、省吾はリュックから携帯を出した。

「向さんら、メールが来てる!お祭り、私も行きたい!だって」

 メールを読んで笑う省吾を、私はそっと眺めていた。



 一時間ほどバスに揺られ、私と省吾はバスから降りた。

 景色は、海から山に変わっていた。

 青空の下緑に囲まれた山々は、気持ちが良かった。

 伸びをしてから私は言った。

「ちょっと早いけど、お昼にしようか」

 私の言葉に省吾は頷き、店を探し歩いた。

 二十分程歩いた頃、ようやく〖食事処〗と書いてある店を見つけた。

 店先のガラスケースの中に手巻き寿司やお惣菜等が入っていて、それを買いに来た客が二人いた。

 店の中をのぞき込むと、テーブル席が二つあった。

 壁には、ラーメンと冷やしラーメンと飲み物や酒類等の書かれた張り紙が張ってあった。

 私はお惣菜を買いに来ていた、客の対応をしていた店の女に聞いた。

「中で、食べれますか?」

「どうぞ。何にしますか?」

 私は省吾に聞いてから、「冷やしラーメン二つとビール」と答えた。

 すると店の女は、奥の部屋の厨房に向かって「冷やしラーメン二つ!」と大きな声で言った。

 お箸や手拭き飲み水はテーブルの上に並べられていて、セルフサービスだった。

 私と省吾はそれぞれ、飲水とお箸と手拭きを取りに行ってから丸型のイスに座った。

「凄い店だね。こういうとこ、僕初めて」

「私だって、初めてだよ」

 ビールが運ばれて来て、私はビールをグラスに注いで飲んだ。

 ビールは、冷えていて美味しかった。

 ふと顔を上げると、省吾が私をじっと見つめていた。

「なに?」

「お酒好きだよね。たばこも吸うし。健一さんは、どうなの?」

「たばこは、吸わない。お酒は、付き合い程度かな」

 言われた側で、私はたばこを吸った。

「時々思うんだ。健一さん何で、おばさんと付き合っているのかな?」

「さぁ、どうしてかな」

「健一さんは、たばこを嫌がらない?」

「別に、何も言わないね」

「僕だったら、嫌だなぁ」

「遠回しに、たばこを吸わないでって、言いたいの?」

「そう言うわけじゃないけど、なんでかなぁ?おばさんだったら、なんか許せちゃうんだよなぁ」

「こら、おばさん言うな」



 会計を済ませた後、店の人に住所を書いた紙を見せた。

 店の人は、この近くだと言った。

 更に行き方を詳しく聞いて店を出た。

 電信柱に貼られた地名を見ながら、私と省吾は一軒ずつ探し歩いた。

 どれくらい歩いたのだろう。 手の中にある紙の名前と、表札に書いてある文字を照らし合わせていると、同じ文字と一致した家を見つけた。

「同じだ」

 家を見上げながら言う省吾に、私は言った。

「でも同一人物か、まだはっきり決まったわけじゃない」

 私は、辺りを見回した。近くに、公園がある。

「省吾、あそこで待ってて」

「うん」

 省吾は、公園に向かって歩きだした。

 私は、買い物帰りらしき主婦に話しかけた。

「あの、ちょっとお聞きしたいのですが」

 人の好さそうな主婦は、私の問いに答えてくれた。

 主婦にお礼を言って、その場を離れた私は公園に向かった。 公園には、誰もいなかった。

 屋根がついているテーブルのベンチに、省吾が腰掛けていただけだった。

 私はテーブルを挟んで、省吾の向かいに座った。

「どうだった?」

 省吾が、興奮気味に聞いてきた。

「あの家に、住んでいるって」

「あの家に、お母さんが」

「会う?」

「その為に、来たんだから。こんな所まで」

「ひとりで、大丈夫?」

「うん……大丈夫」

 自分に言い聞かせるように言った省吾は、ゆっくり歩き出した。

 私は省吾の背中を見つめていた。

 しばらくして、省吾が戻ってきた。

 ここへ来て、怖じ気づいたのか。

「どうしたの?」

「表札に描いてある名字と、お母さんの名字が違う」

「名字?きっと、旧姓だよ。離婚したんだし」

「そうだよね」

「省吾、落ち着いて」

「う、うん」

 そんなことを、言っていた時だった。

 玄関のドアが開いた。

 私と省吾は、固まったようにその場から動けなかった。

 ドアから、ショートカットの女性が出てきた。

 その女性は明るい感じで、イメージしていた女性と違っていた。

「お母さん……」

 呪縛から溶けたように、省吾は駆け出した。

 しかし、省吾は公園から出ることなく、その場にたたずんでいた。

 私は、省吾の背後に近づいた。

 省吾の視線を追うと、省吾の母親の側には、小学校一年生くらいの女の子がいた。

 私は、省吾に聞いた。

「あの、女の子誰?」

「知らない。知らない子だよ」

 手をつないだふたりは、車に乗るとあっという間に見えなくなった。

 省吾は黙ったまま歩きだし、先程いたベンチに座った。

 私もベンチの方に歩き出した。

 名字が違い、省吾が見たこともない女の子がいた。

 母親は既に再婚していたのだ。

 私がテーブルを挟んだ省吾の向かいに座ると、省吾は顔を上げ力なく笑った。

「再婚していたんだ。そうだよね。家を出て、もう何年も経っているもんね。当たり前だよね。あぁ、お母さんに会えたら、いつの日かまた三人で暮らせると思っていたのに。そんなこと無理だって、わかっていたのに。バカだなぁ……」

 最後の方は涙声になり、やがて嗚咽をもらして、省吾は泣き出した。

 泣いている省吾を、私は見守ることしかできなかった。

 涙も枯れ、省吾が落ち着いた頃には日も暮れ、辺りはオレンジで染まっていた。

 省吾は、ゆっくり顔を上げた。

「ごめんね」

「帰ろうか」

 頷いた省吾は、ゆっくり立ち上がった。

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