風鈴の音を聞きながら
西陽がうんざりするほどまぶしい。
家の近くの商店街は、にぎやかな声が聞こえる。
その中から元気いっぱいな、夏の声が聞こえた。
夏は私を見つけると、大きな声で叫んで手をふった。
「お姉ちゃん!」
私は、夏が仕事をしている豆腐屋の中に入って行った。
此処は夏の家でもある。
夏は、私の母親の妹の娘。
私の従妹だ。夏と私は、一人っ子。
そのせいか、夏は私のことを「お姉ちゃん」と呼ぶ。
夏は仕事をしながら、私に言った。
「夕飯食べてくでしょ」
「疲れたから、今日は遠慮するよ」
「え~お姉ちゃんらしくない」
「ごめん。また夏の顔見に来るからさ」
「うん。きっとだよ!あ、さっき向さんが、此処に少しだけ寄ったよ」
「向が?わかった。夏、またね」
「ばいばい」
夏の店を出た私は、急いで家に向かった。
向はいつの間にか、私の家の合鍵を作って自由に出入りしている。
料理や掃除などをしてくれるから、怒る理由もない。
家に着き玄関を開けると、台所から良いにおいと共に、向の歌声が聞こえてくる。
「ただいま」
「おかえり~」
そんな大声出さなくても、聞こえるよ。
私は台所に行き、缶ビールを取り出した。
まずは、一杯!うん、うまい!ビールを飲みながら、向の背後からのぞきこむ。今夜は、揚げだし豆腐だ!
「うまそう!」
「もう少しで出来ますから、待っていてくださいね」
ビールを飲みながら、向の後ろ姿を見る。
中肉中背で、今どき珍しい、少し長めの七・三わけのヘアースタイルに黒縁メガネと言った容姿をしている。
ピンクのエプロンをつけて、楽しそうに料理していている姿は、いつ見ても笑える。
缶ビールをもったまま縁側に行き、縁側に腰をおろす。
時折鳴る風鈴の音が、気持ち良い。
私はビールを飲みながら、公園で殴られていた男の子のことをを思い出していた。
警戒心を丸出しにした、あの目が忘れられない。
「ご飯ですよ~」
向の声で、我に返る。
縁側を離れテーブルに着くと、テーブルの上には、向が作った料理が既に並んでいた。
向はテーブルを挟んだ私の目の前に着いた。
「いただきます!」二人そろって、手を合わせた。
「おいしーい!」
「でしょ、でしょ!」
子供みたく喜ぶ向。歳いくつだっけ?確か、四十いくつだっけ?
「ねぇ……」
「はい?」
「今日さ……」
私は、公園での出来事を向に話した。
「なんですか、それは!」
烈火のごとく、向は怒りをあらわにした。
向の中にある、正義の血が騒いだらしい。
向のいじめについてのうんちくが始まった。
夕飯が終わり、後片付けを向に任せた私は、縁側でぼんやりしていた。
「それでは、私は失礼します!」
玄関から、向の声が聞こえてきた。私は縁側に座ったまま言った。
「おつかれ~おやすみ~」
「おやすみなさい!」
向が帰った後、私は二階の部屋に行き、畳の上に布団を敷いた。
軽くシャワーを浴び、布団の中に入ると、また今日のことを思い出す。
殴られたあの男の子の唇には、血が付いていた。
そんな姿を見た男の子の家族は、どう思うだろうか。
そしたら男の子の親だって、黙ってはいないだろう。
私があれこれ考えたって、しょうがない。そう決めると、やっと深い眠りについたのだった。




