表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なつのかけら  作者: kagari
16/27

いつもと同じ笑顔

 源さんが夏に告白をしてから、数日が経っていた。

 夏と源さんがつきあうことに、二人の両親は快く承諾し、特に源さんの両親は「早く孫が見たい」と言っていた。

 私は昼間繁華街に出かけ、出かけついでに、遅い夕飯をコーヒーショップで済ませた。

 店を出て夜の街を歩いていると、高木を見かけた。

 私は携帯を出して、時間を確認した。

 携帯の画面には、九時三十分と記されていた。

 高木は時間を持て余すように、歩道の隅にたたずんでいた。

 私は、高木に声をかけた。

「こんばんは」

 高木は黙ったまま顔を上げ、すぐ視線をそらした。

 私は、高木の隣に立った。

 高木は、バックを手にしていた。

「塾の帰り?」

「そうだけど……おばさん何?」

 高木におばさんと言われ、カチンときたけどグッと我慢をした。

「何か用?こっちは、用なんかないんだけど」

「省吾から聞いたよ。省吾が、私たちと親しんでいるのが気に入らないんだよね。だから、省吾を目の敵にしているんだよね」

 高木は、無反応だった。

 そればかりか、軽くチッと舌打ちをした。

 その態度が、私は許せなかった。

 高木の前に立ち、強く高木の両肩を掴んだ。

「省吾は、自ら私たちの中に飛び込んだ。そんな省吾を、私たちは受け止めた。それだけだ!私たちと親しくしているのが気に入らないからって、それだけの理由で省吾を殴ったりして、甘えるのもいい加減にしろ!」

 私は掴んでいた高木の両肩を思い切り突き放し、高木から離れた。


 翌日の昼間、郊外にあるファミレスに、前田に電話で呼び出された。

 前田は私を呼び出したわけを話してくれなかった。

 オーダーした料理を黙々と食べていた。

 前田が切り出したのは、食事が終わって食後のコーヒーを飲んでいる時だった。

「今朝学校に、高木の母親から電話がありました」

「何か、あったのですか?」

「昨夜、高木と会っていましたか?」

 前田の言葉に、昨夜繁華街で高木と会ったことを私は思い出した。

「高木と会っていたんですね」

「偶然高木を見かけて、高木と話しをしたけど、それが何か?」

「高木の家の近所に住んでいる方が、あなたと高木が言い合っているのを目撃してして、高木の家母親に教えたそうです」

 それで高木の母親は、学校に電話をかけたのか。

 おしゃべりで、おせっかいな人がいるものだ。

 そう言う人間は、スピーカーのようにあちこちで喋りまくっているのだろう。

 私は、ため息をついて腕を組んだ。

「学校に電話をするなんて、過保護すぎじゃないですか?」

「あなたは、高木の胸ぐらを掴んでみぞおちを数回蹴り上げたと、高木の母親は言いました」

「高木の肩を掴んだけど、みぞおちを蹴ったり、そんなことしていません!」

「わかっています。あなたが、そんなことをするはずがありません」

 私は、高木の母親に恐怖を感じた。

 これ以上、高木の母親と関わりたくない!

「高木に、言いたいことは言いました。もう、私ができることは何もありません」

「あなたに頼ってばかりですみません。全く、教師のくせに何もできない」

「そんな……先生が一生懸命だってこと、私は知っています!」

「ありがとうございます」

 私は黙ったまま、首を横に振った。

 何気なく店内を見回すと、店内の柱時計は午後一時半を指していた。

「まだ、勤務中なんじゃ。時間大丈夫ですか?」

「早退しましたから、大丈夫です。あの……」

「はい?」

「予定がないなら、この後もつきあってくれませんか?」


 ネオンがきらめく夜の繁華を、私はひとりとぼとぼ歩いていた。

 やがて、健一がいる花屋に着いた。

 私は、そっと店内を眺めた。 店内は健一と健一の父親の二人だけで、客はいなかった。

 しばらくすると、私に気がついた健一が私の方へ駆け寄って来て、いつもと同じ笑顔で私を迎えてくれた。

(どうしたの?早く入りなよ)

 私は健一の腕を掴み、店の裏口に回った。

 裏口は街灯がなく、ひっそりとしていた。

 とまどう健一を、私はきつく抱きしめた。

 健一は、私をそっと包み込んでくれた。

 私は、健一のエプロンに付いている名札に気がついた。

 私は、健一の胸に顔を埋めたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ