告白
高木の母親から追い出されるように、私と前田は外に出た。
「迷惑かけてすみません」
前田が私に言った。
「私のほうこそ。先生家庭訪問に行ったのに、ぶち壊してしまって、迷惑かけてすみませんでした」
「誰が話しても、結果は同じですよ。あの、母親相手じゃ」
「本当だ」
私と前田は、顔を見合わせて笑った。
笑いが収まると、前田は言った。
「車で来たので送ります」
「良いんですか?」
「遠慮しないで。どうぞ」
前田はドアロックを解除すると、助手席のドアを開けた。
私は、素直に前田の好意に甘えた。
高木の母親と言い争って、正直疲れた。前田の好意は、ありがたかった。
車が走り出すと、車内は少しずつひんやりして快適になった。
「予定通り家庭訪問をしていたら、高木の母親から無能呼ばわりされていました」
「まさか!」
「わかるんですよ。僕は頼りないから、初めから見下されていました」
「先生は、いつも真剣じゃないですか」
「……二人を見守ってくれて。今日だって、あなたは高木に会おうとしてくれて。ありがとうございます」
「高木と話しをしようと思う気持ちはあったけど、高木が何処に住んでいるか先生から聞いた時、行ってみたくなったんですよ。あの辺高級住宅街だったから。本音は、そこかな」
「そうなんですか!」
「先生が二人のことをしっかり見ていれば、絶対自信につながります!すみません生意気言って」
「いえ、とても励みになります」
やがて車は、私の家の前に着いた。
「此処に、住んでいるんですね」
「省吾も来ましたよ。良かったら、先生も遊びに来てください」
「良いんですか?本気にしますよ」
「是非!」
私と前田は笑いあい、私は車から降りた。
前田と別れた 私は、二階の部屋でパソコンのキーを叩いていた。
いつの間にか 部屋の中は暗くなっていた。
パソコンの電源を落とし 、下の部屋に行ってシャワーを浴びた 。
シャワーを浴び、 夜風を浴びながら 縁側でタバコを吸っていると「こんばんは〜」と、大きな声が聞こえた。
実家が 醤油屋で、夏の家に大豆を入れている 源さんだ。
「縁側にいるよ〜」
そう声を張り上げると、大きな体の源さんが家に上がりこみ、 テーブルの前に座った。
私は 縁側に座ったまま 、新しいタバコに火をつけた。
「此処に来るなんて、珍しいね 。どうしたの?」
「あの……あのですね」
「ん、何?」
「好きです!」
源さんの言葉に 、思わず 火がついたタバコを落としそうになり、 私は 当てて 灰皿にタバコを押しつぶした。
振り返ると テーブルの前で正座をしていた 源さんが、真っ赤になってうつむいていた。
「好きです!言えた……言えた」
うわごとのようにつぶやく 源さんに、私は大きな声で呼んだ。
「源さん!」
「は……はいっ!」
「私に健がいることは、知っているよね?」
「はい!」
「知っていながら、私に告白?」
「はい!……えっ?誰が告白?」
「誰って 。源さんが私に」
「僕が、お姉さんに?にまっさかぁ!」
源さんを問いただすと、 源さんは真っ赤になって白状した。私は思わず、声をあげてしまった。
「夏に、告白〜?」
「ずっと、なっちゃんのことが好きで。でも、なかなか言い出せなくて」
「そうなの?」
「でも、僕はかっこよくない し。なっちゃんとは 、歳も離れてるし」
「残念ながら ……否定できないね」
「なっちゃん 、誰か好きな人いるかなぁ」
「さあ……そういう話は、したことがないから」
「あぁ、お姉さん 相手ならちゃんと言えるのに」
「私は、練習台?」
「はい。あっ、そう言うわけじゃぁ」
「すれば」
「はい……えっ、何を?」
「好きなんでしょ 。じゃ 、夏に告白しちゃいなよ!」
「えぇ〜」
「行くよ!」
「行くって、 何処へ?」
「夏のとこに、決まってるじゃん!」
私は、無理矢理 源さんを立たせた。
商店街は、どの店もシャッターが降りていた。
出かける時 店の前で待っているように、 夏に電話をした。シャッターが降りた 店の前で、言われた通り 夏は待っていた。 私を見た夏は、 不思議そうな顔をして言った。
「突然、?どうしたの」
「源さんが、夏に話があるんだって 。さぁ源さん」
私は、源さんの背中を押した。
夏の目の前に立った源さんは、わざとらしく 咳払いをして両手を後ろで組むと、夜空を見上げた。
私は二人の前からそっと離れ 、背中を向けた。
「……月が綺麗だね」
源さんの言葉に 、夏も夜空を見上げた。
「ほんと」
二人は黙ったまま 、月を眺めていた。
離れて立っていた 私は、先ほどの 源さんのように わざとらしく、 咳払いをした。
私の意図がわかったのか 、源さんは 切り出した。
「……あのね 、なっちゃん」
「ん?」
「僕は、前からなっちゃんが……」
夏は黙ったまま、 源さんを見上げた。
「なっちゃんが、その……」
「私が、何?」
「なっちゃんが、す……すきやきは、美味しいねぇ!」
「すきやき?源さん、そんなにすきやきが好きなの?」
「肉は、もちろん。なっちゃんちの豆腐は最高です!」
「じゃあ、今年の冬はすきやきパーティーしようか!」
「良いですね〜是非!」
それからすきやき談義が始まって、告白はどうなったの?と私は呆れていた。
「本当に源さんは、すきやきが好きなのね」
「はい!好きです。……でもそれ以上に、なっちゃんが大好きです!」
えっ、何この展開。
源さん、今何気に夏に告白したよね?私は、そっと夏を盗み見した。
夏は、大きく目を見開いていた。
「ずっと、なっちゃんを見ていたよ。僕にとってなっちゃんは、妹のような存在だった 。でも気がついたら、一人の女性として見ていたよ。僕はかっこよくないし、 歳だって離れてるし。でもこの気持ちは、ちゃんとなっちゃんに伝えたいんだ 。好きです なっちゃん。僕でよければ、付き合ってください」
源さんは、頭を深く下げた。 夏はしばらく黙っていたが、大きな声で「はい」と返事をしたので、源さんは慌てて言った。
「はいって、 今はいって返事したよね ?付き合ってくれるんですか?」
「はい」
「僕とですよ」
「はい」
「念のために言うけど、買い物に付き合うんじゃないんですよ 。この先の将来を考えての付き合いですよ」
「私も 、源さんが好きです。小さい頃からずっと」
「やっ……たぁ!」
源さんは、夜空 めがけて ガッツポーズをした。
私 は、 源さんに飛びついた。
「良かったね 、源さん!」
「ありがとう!」
「もう、こう言うことだったのね!」
夏が、笑顔で私を睨む 。
私は夏の肩を抱きながら言った。
「よし、 お祝いだ!」
「ちょっと、大げさ よ」
「良いじゃありませんか 。そうだ、 省吾君を呼びましょう !夏休みだから、少しくらい遅くなってもかまいませんよね」
嬉しそうに言う源さんに、夏も負けじと言った。
「それなら 、向さんも呼ぼう!」
「省吾の担任の先生も呼ぼうか?」
私は、思わず提案した。
「省吾君の?迷惑じゃない?」
心配そうに言う夏に、私は言った。
「昼間先生と会って、その時 遊びに来てくださいって言ったんだ。 夜だし 、前田先生も一緒なら省吾も家を出やすいでしょ」
私の言葉に、夏と源さんは納得した。




