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なつのかけら  作者: kagari
13/27

好奇心

 正人の店を後にした私は、 高木の家に行く前に健一に会うことにした 。

 何だか健一に会いたくなってしまった。

 店の中を覗くと 健一 は、ほうきで床を掃いていた。

 健一の父親の姿はなく 、健一 ひとりだった。

  私はそっと 店の中に入り、 健一 の背中を思いっきり 両手で叩いた 。

 健一は嬉しくなるくらいの、予想以上のリアクションをしてくれた 。

(びっくりした……なんだよ)

  健一は、包み込むようにそっと私を抱きしめた 。

(会いたくなっちゃった)

  健一は 、満面の笑みを浮かべながら言った 。

(高木君のところには、もう行ったの ?) 

 私は黙ったまま、首を横に振った 。

(気が進まないなら、無理しなくていいんだよ)

( 私が何もできないことは、わかっている。 でもね、好奇心には勝てないな )

 健一は、笑いながら私の頭を撫でた。

「あ〜 入って良いかなぁ。 見せつけるのは、その辺にしてくれませんかねぇ」

 健一の父親が、店の奥からやってきた。

 私は、ゆっくり 健一 から離れて言った。

「あっ、おじさん 。この前は、ごちそうさまでした」

「良い店だっただろ?」

「うん。料理も美味しかったし、 マスター も正人君も良い人たちだし。 あっ、さっき 正人 君に会って、 コーヒーを ごちそうになったよ」

「そうか 。じゃあ、 正人のこと……」

「聞いた。正人君凄いね」

「マスターは……正人の父親は、女にだらしない男だったけど、正人のことに関しては真剣だ」

「そのこと、正人君もわかっているよ」

 そう言った私は、健一を見上げた。

(ね っ、今度 三人で正人君の店に行こう 。健は正人君の店に、行ったことがないんでしょ)

 健一は、黙ったまま うなづいた。

「おまえ……俺の財布をあてにしているな」

 私 と健一はみつめあい、 笑顔で大きくうなづいた。


 その家は静かな住宅街にあり、空を突き抜けそうな大きな家だった。

 どの家よりひときわ目立っていて、私は思わず見入ってしまった。

 ……此処が高木の家。

 高木って良いとこのお坊ちゃんだったんだ。

 高木と会ったって、何を話して良いかわからない。

 だいたい高木が、私と会ってくれるかそれすらわからない。 今日は立派な家を見た!それで充分。

 私は、そう納得した。

「どなたですか?」

 背後で声がして、私は飛び上がりそうになった。

 恐る恐る振り返ると、神経質そうなやせ細った婦人がいた。

「何か、用ですの?」

「えっと……高木君に、会えるかな〜と……」

「息子に?あなた息子と何か関係があるの?」

 婦人は、高木の母親だった。高木の母親にヒステリックに叫ばれ戸惑っていると、一台の車が家の前に止まり、車から前田が出てきた。

「いらっしゃいませ、お待ちしていましたわ」

「こんにちは、お邪魔します」

 高木の母親と前田のやりとりを見ていたら、前田は私に気づき「あっ」と、小さく声を上げた。

「先生、お知り合いですの?」

「ええ、まぁ」

「あの……お取り込み中のようなので、私は失礼します」

 そう言った私に、高木の母親が言った。

「あなた、息子に会いに来たのよね」

「いや……会いにきたってほどでも」

「いいわ。今日は先生も来てくれたことだし、じっくり話しを聞きましょう。さぁ、どうぞ」

 高木の母親は、強引に私を家の中に押し込んだ。


 私と前田は、リビングに通された。

 リビングは明るく広かったが、そんなことを楽しむ余裕なんてない。

 前田と並んでソファーに座った私は、小さな声で前田に聞いた。

「先生、今日ここには?」

「家庭訪問です。もう一度、高木君のお母さんとちゃんと話そうと思って。今日なら会えると言っていたので。あなたは?」

「高木と、話しをしようかなと思って。でも、会わずに帰ろうとしたら」

「そう言うことでしたか。気を使わせて、すみません」

「ちょっとした好奇心から、出かけただけです」

 そう言った後に前田の母親が現れて、テーブルを挟んだ私と前田の目の前のソファーに座った。

「先生、今日はどう言ったお話でしょうか?」

「高木君の、いじめについてです」

「それは、学校に呼び出された時にも聞きましたわ。この際はっきり申し上げておきますが、息子がいじめをした証拠はあるのかしら」

「証拠?」

「誰かと、間違えているのじゃありませんか?」

 高木の母親の言葉に、思わず私は割って入った。

「高木君が公園で、同じクラスの男の子を殴っているところを、私は見ました。それだけでは、ありません。塾の帰り道、同じ子を高木君は殴りました。いつにも増して酷く殴られ、殴られた子は電話で私に助けを求めました」

 睨みつけるように、私を見ていた高木の母親は、少しだけ肩の力を抜いてフッと笑った。

「それが本当の話だとしても、息子を殴ったと言う映像があるのかしら?」

「映像?高木君が殴っているとこ、私は見たんですよ!」

「口なら、なんとでも言えるわ。公園で殴ったのは、単なる子供のケンカでしょ。塾の帰りに殴った?あなた、それを目撃したの?」

「いえ……」

「何処かの酔っぱらいか不良が、殴ったんじゃないの?なんでも息子のせいにするのは、やめて頂きたいわ」

 呆れた私は、高木の母親に当てつけるように、わざと大きなため息をついた。

「高木君は?」

「部屋で、勉強をしているわ」

「高木君と、話がしたいんですけど」

「息子の勉強の邪魔ををしないでください!あなた一体なんなの?」

「高木君から、いじめをうけている子の友人です」

「そう。それで、息子を悪者にしているのね。そのお友達に言ってちょうだい。被害妄想は、やめてください!って」

その時、それまで黙っていた前田が口を開いた。

「そんな言い方は、失礼じゃないですか?彼女は、高木君を心配して来てくれたんですよ」

「息子を心配?だったら、今後一切関わらないで下さい。偽善者ぶって、いい迷惑だわ!」

「偽善者……」

「先生。子供たちを心配するのは、よくわかります。でも、息子はしっかりしているので、問題ありませんわ。お暑い中、ご足労ありがとうございます」

 高木の母親はにこやかに言いながらも、目は「早く帰れ!」と、言っていた。

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