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なつのかけら  作者: kagari
11/27

迷いながら

 いつまでも眠っていたかったけど、暑さには勝てずに 私は布団から起き出した 。           

 昨夜 、健一の父親のなじみの店に連れて行ってもらった後、そのまま 健一の家に行った。

 健一の家でお酒を飲み、 家に帰ったのは 日付が変わる頃だった。

 二日酔いとまではいかないが、身体がだるい。

 布団の上でゆっくり 起きながらタバコを吸った。

 今日も、元気よく 蝉が鳴いている 。

 無風なのか 、軒下に吊るした風鈴はならない。

 タバコを吸い終えた私は のっそり 起き上がり、よつんばいの姿勢で机の上の 灰皿を掴み、タバコを消した。

 灰皿を机の上に戻し、布団の上に寝転がった 私は大の字になった。

「お姉ちゃ〜ん」

 外から夏の声が聞こえ 、私は窓から顔を出した。

 夏が、私を見上げていた。

 私は急いで部屋を出て、階段を降り 玄関の鍵を開けた。

「もしかして、今まで寝てた?」

 夏の問いに答えず 、私は黙ったまま 階段を上がった。

 靴を脱いで家に上がり込んだ 夏は、私の後についてきた。

  二階の部屋に入った夏は、 敷きっぱなしの布団を見て呆れた声で言った。

「本当に、今まで寝てたんだ」

 夏は、窓の側に置いてある ロッキングチェアに腰掛け 静かに 揺れた。

 私は布団をたたみ、窓枠に布団を干した。

 座椅子に腰掛け 、ゆっくりとタバコを吸う。

 タバコを吸いながら、 ロッキング チェアに揺れている夏に聞いた。

「仕事は?」

「お姉ちゃんのとこに、行ってくるって言って出てきた」

「さぼり?よく叔父さん、許してくれたね」

「いつも、真面目に仕事してるから 。それより、省吾君 怪我したんだって ?」

「なんで知っているの?」

「朝、向さんから電話があってそれで」

「それで、此処に来たんだ」

「どうするの?」

「どうする って?」

「省吾君、怪我したんだよ!」

「大げさな。怪我って言っても、 命に関わる怪我じゃないよ」

「気にならないの?」

「気になるけど 、私に何ができるっていうの?」

「省吾君 怪我した時、お姉ちゃんに電話したでしょ。 省吾君、 お姉ちゃん しか頼る人がいないんだよ。それなのに、お姉ちゃん 黙って見過ごす 気?」

 ゆっくりタバコを吸って、 タバコを灰皿に押し付けていると、突然 夏は ロッキングチェから立ち上がった。

「ん、どうした?トイレ?」

「帰る」

 そう言った夏は 、足早に二階の部屋から出て行った。


 その日の夕方 、省吾はいつものように家を出て塾に出かけた 。

 公園を横切ろうとした時 、公園には 高木がいた 。

 省吾は 高木を無視して、高木の目の前を通り過ぎた 。

 高木は、数メートル間をとって 省吾の後ろを歩いた 。

 高木が離れて歩いているとは言うものの、省吾は高木の視線が気になって仕方がない。

 我慢できなくなった省吾は、声を上げた。

「なんで、ついてくるんだよ!」

「行く場所が、同じなだけだろ!」

 小ばかにしたように 、高木は言い返した。省吾はむっとした表情で、歩き続けた 。しかし すぐ立ち止まり 、高木に背を向けたまま 言った。

「……なんでだよ。 なんで、僕を殴ったんだよ?」

 いつもは何も言わず、 無抵抗な省吾が初めて自分の気持ちを口にしたので、高木は目を見開いて驚いていた。

「……万引きしたんだって?聞いたよ」

「うるさい !お前なんか何も知らないくせに!」

「僕が、何も知らない……?」

「大人にちやほやされて、調子こいているんじゃねえよ!」

 そう叫んだ 高木は、突然走り出した 。

 省吾は動けず、しばらくその場に立ち尽くしていた。


 夏が帰った後 、私は二階の部屋でパソコンのキーを叩いて一日を過ごしていた。

 西日が落ち辺りが暗くなった頃、向と夏がやってきた 。

 向は台所に行くと、夕飯を作り始めた 。

 私は冷蔵庫から缶ビールを二本取り出し、 縁側に行って腰を下ろした。

 夏も同じように私の隣に座った 。

 私は、夏にビールを差し出した。

 無言のまま 、夏はビールを受け取った。 縁側に夏と横並びに座り 、黙ったままビールを飲んだ。

 その沈黙を、夏がやぶった。

「お姉ちゃんに、無理な注文をしていることはわかっている 。でも、省吾君が心配なの」

「そんなに心配?」

「お姉ちゃんは、心配じゃないの?」

「心配だよ」

「省吾君が、なんだか 弟に思えて。お姉ちゃんもそうでしょ?」

「うん」

「だから、なんとかしたい。 そう思うんだ それと……」

「それと?」

「省吾君、お姉ちゃんに助けを求めたでしょ 。ちょっと、お姉ちゃんが羨ましかった」

「省吾のことは、気になるよ 。でも、正直どうしたらいいかわからないんだ」

「そうだったんだ。 昼間は、きつくあたっちゃってごめんね」

「気にしていないよ」

「向さんに言ったら、お姉ちゃんとちゃんと話し合った方が良いって。 それで 、向さんも付き合ってくれて」

「そっか 。本当にどうしていいかわからないから、今は黙って省吾を見守ろうと思う」

「うん、 わかった」

「夏さ〜ん。お願いします!」

「は〜い」

 向に呼ばれた夏は 、足早に台所に行った。

 

 テーブルの上には、向と夏が作った天ぷらがずらりと並んだ。

「ん?これ」

 天ぷらの他に、焼いた厚揚げに私は気がついた。厚揚げには 、ネギがたくさん乗っていた。

「夏んとこの、 豆腐で作ったの?」

 向が、嬉しそうに説明する。

「そうなんですよ 。夏さんのお父様から 水切りした豆腐を、頂いたんですよ」

「お姉ちゃんの好物でしょ」

「うん 。揚げたて、が最高なんだよね。 ビール ともよく合うし」

「じゃ 、乾杯しましょうか」

 そう言いながら向は、麦茶が入ったグラスを持ち上げた。

  乾杯をした後は、向が作った料理に箸を伸ばす。

 私は真っ先に、厚揚げに手を伸ばした。

「うん 、美味しい !夏んとこの 豆腐 最高!」

「天ぷらも、サクサクして美味しい。 さすが向さん!」

 夏が 向を褒めると、向は照れくさそうに笑った 。

 楽しく食事をしていると、玄関が開く音が聞こえた。

「どなたか、いらしたんでしょうか?」

 向は、玄関の方へ行った。

 しばらくすると 、向の大きな声が聞こえた。

「省吾君!」

 向の声に、 思わず 夏と顔をを 見合わせた 私は、慌てて立ち上がり玄関へ急いだ 。

 玄関には、省吾が恥ずかしそうにうつむいていた 。

 そんな省吾に、私は声をかけた。

「何しているの?早くおいで」

「……お邪魔します」

 省吾は、ゆっくり 靴を脱いだ。

 部屋に上がり込んだ 省吾の腕を、 夏は優しく つかんだ。

「省吾君、 こっちこっち!」

 夏は省吾を、自分の隣に座らせた。

「お腹が空いているんじゃありませんか? 遠慮しないでくださいね。 ご飯よそってきます」

 台所に行った 向は、ご飯と麦茶をお盆に乗せて戻ってきた 。  省吾は 、テーブルの上の 料理を見て小さく 驚いた。

「この料理 、みんな 向さんが作ったの?」

「はい。あっ夏さんも、手伝ってくれたんですよ。 それから、 この厚揚げは夏さんのお店の豆腐で作りました」

 省吾は黙ったまま 、厚揚げを見つめているだけだった。

 私は、省吾に声をかけた。

「少し冷めちゃったけど、美味しいよ 。たくさん食べると、向 が喜ぶよ」

「そうですよ。 遠慮せず 、たくさん召し上がってください」

「……いただきます」

 小さな声で言った省吾は、一気に麦茶を飲み干し 厚揚げを食べた。

「美味しい!」

「向が作った料理 だもん 。美味しいのに決まってるよ」

 しばらく 料理を食べていた 省吾だったが、突然箸が止まった。

「……僕、今日塾さぼっちゃった」

 省吾の言葉が信じられなくて、 私も 夏も向も 誰もが しばらくの間 黙り込んだ。その沈黙を、夏が破った。

「省吾君、塾をサボるのはいけないことだよ 。その塾の月謝は、省吾 君のお父さんが働いて払っているんだから」

「うん」

「でもね 。行きたくないんだったら、休むことも必要だよ」

「そうそう。 嫌だったら、やめちゃえばいいんだよ」

 私がそう言うと、夏は目くじらを立てた。

「ちょっとお姉ちゃん !変なこと 省吾君に、吹き込まないの!」

「そうですよ。 真面目に生きている 省吾 君に対して失礼です!」

 向の言葉に 、私はむっとして 言った。

「何それ? まるで私は、すごい不真面目な人みたいじゃん」

「だって、その通り じゃん」

 済まして言う 夏に、向は大笑いをした。

 笑いが収まると、真面目な表情で向は省吾に聞いた。

「塾の方には何も言わず 、此処へ来たのですか?」

「お腹が痛いから、今日は休むって電話した」

「そうですか 。じゃあ今夜は 、思い切り 私の料理を堪能してください」


 食事が終わり 夏と向が 後片付けをしている時 、私と 省吾は縁側に座って夜空を眺めていた 。

 私はタバコを吸いながら、省吾に聞いた。

「何かあった?」

「えっ?」

「何かあったから 、塾をさぼったんでしょ」

「わかっちゃった?」

「塾さぼるなんて 、省吾らしくない。 何かあったって、すぐわかるよ」

「そうだよね 。塾に行く時 、高木君に会ったんだ。多分僕を待っていたんだと思う」

「高木が?また、 高木に何かされた?」

「何もされなかったよ」

 それを聞いた 私は、ほっと胸をなで おろし、吸っていたタバコを灰皿にもみ消した。

「僕ね 高木君に、 なんで 殴るのか 思い切って聞いたんだ」

「高木、なんて?」

「何も言わなかった。ただ……」

「ただ?」

「僕がおばさんと……皆と親しくしているのが、気に入らないって言った」

「気に入らない……省吾に嫉妬をしているのか」

「高木君に、何も知らないくせにって、言われちゃった。 そうだよ 高木君の言う通りだよ。 僕は高木君のことを、何も知らない」

 私は、新しいタバコに火をつけた。

 黙り込んだままタバコを吸い続け 、タバコを吸い終えた時 省吾に言った。

「省吾、 私に何ができる ?何もできないだろうな。 でも 、省吾が此処に来てくれて嬉しかった」

「本当?」

「うん。いつでもおいで 。私は、省吾を待っているから」

「ありがとう!」

 省吾と 夜空の星を眺めていると、静かに 風鈴が鳴った。


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