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なつのかけら  作者: kagari
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出会い

 この日も暑い夏だった。

 商店街から少し外れた静かな住宅街に、私は暮らしていた。

 家は二階建ての、木造一軒屋。一階の部屋には、狭いながらも縁側があり、二階の部屋にはロッキングチェアが置いてある。

 

 出かける支度を終えた私は、玄関の鍵をかけ、青空を見上げた。

 夏の青空が頭上に広がっている。

 耳障りなセミの鳴き声が、風鈴の音色で少しだけ忘れられた。

 いつもと同じ夏。

 変わらない風景。

 私は、ゆっくり歩きだした。



 繁華街近くの場所にある小学校。

 その中の五年二組。

 今日は、一学期最後の日とあり、夏休みを目の前にした生徒たちは、いつもより落ち着きがない。

 新米教師の前田(まえだ)は、成績表を生徒達に配り終えると声をはりあげた。「明日から夏休みに入るが、規則正しい生活を送ること!」しかし生徒達は、明日から始まる夏休みに早くも浮かれている。

 やがてホームルームが終わり、生徒達が楽しげに教室から出て行く。

 数人の生徒しか残っていない教室に、省吾(しょうご)も残っていた。

 省吾はやる気のなさそうに、教科書をランドセルの中にしまいこんだ。そんな姿を見た前田は、省吾に声をかけた。「省吾」前田の声に、省吾は顔を上げた。

 前田は省吾に声をかけたものの、そのあとが続かない。

 とまどっている前田をチラリと見た省吾は、素っ気なく「さよなら」とひとこと言い、教室を出て行った。

 騒がしい廊下の中を、省吾は独りで歩いた。

 昇降口で靴を履いていると、後ろから学年一身体が大きな同じクラスの高木(たかぎ)に、おもいきり背中を蹴られた。

 痛みに耐えながら顔を上げると、既に高木は遠ざかっていた。

 くやしいが、何も言うことが出来ない。

 いつものことだ……そう自分に言い聞かせ、省吾は歩き出した。



 用事を終えた私は、疲れて公園のベンチに腰をおろしてタバコを吸った。       

 タバコを吸いながら公園の中を見渡すと、小学生らしき男の子がブランコに腰掛けていた。

 その男の子の目の前に、身体の大きな男の子が立っていた。

 何気なくそのふたりを見ていたら、携帯が鳴った。

 携帯の相手と話をしながらも、私はふたりを見ていた。

 ブランコに腰掛けていた男の子が、立ち上がりかけた時だった。

 いきなり大きい身体の男の子が、男の子を殴った。

 殴られた男の子は、勢いよくブランコから落ちた。

 殴った男の子はそのまま立ち去り、殴られた男の子はうずくまっていた。

 携帯の相手と話を終えた私は、うずくまっている男の子の側に行った。

 男の子は少しだけ顔を上げ、凄い警戒心の目で私をみつめた。

 唇の隅についていた、赤い血が痛々しい。 私は無言のまま、ハンカチを差し出した。

 しかし、ハンカチを受け取ってはくれなかった。

 私は押し付けるように、男の子の手にハンカチを渡して立ち上がった。

 男の子から離れた私は、そっと振り返った。「またね」そう言って、私は公園を出た。

 「またね」何故、そんな言葉を口にしたのだろう。

 私と省吾……初めての出会いだった。


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