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Trick or Treat?~あなたの仮面を外したら~  作者: 五織心十


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6/7

エピローグ


 ハロウィン祭から数日が過ぎた朝のことだった。

 キャボット領に激震が走る。


『領主の不正発覚、爵位剥奪』

『脱税に関与、多数店舗廃業へ』


 新聞の大きな見出しが、町中を揺らしていた。

 あの日――領主が衛兵に連れて行かれたのは、このためだったのだ。


 町の急成長も、人の出入りの活発さも、すべては裏で不正が働いていた結果。

 ライバル店もそのひとつで、脱税によって安く仕入れた材料で商売をしていたという。


 そんな悪事にデイジーが押し潰されかけたのかと思うと、腹立たしく、やりきれない。

 けれど取り返しがつかなくなる前に明るみに出て、本当によかった。



 そして、もう一つの見出しに目が留まる。


『事件解決の裏に、王弟殿下あり』



 ――王弟、アーノルド・フォン・アルステッド殿下。

 キャボット領の不審を察知し、密かに調査を進め、真相を暴いた。

 新聞は彼を『領地を救った英雄』と讃えていた。


 ……胸の奥で小さな違和感が膨らんでいく。


「まさか、この王弟殿下って……」


 あの日、領主はルドさんを見るなり態度を変えた。

 衛兵が彼を“隊長”と呼んでいたことも忘れられない。


 普通の人ではないとは思っていた。けれど、まさか――


「ルドさん……?」

「呼びましたか?」

「っ!?」


 顔を上げると、そこに本人が立っていた。

 驚きに息が詰まり、言葉が出ない。


「新聞を見たようですね。それなら話は早い。――あなたに、お願いがあって来ました」


 広げた新聞を横目に、彼は真っ直ぐこちらを見据える。

 私は心の準備もないまま、その視線を受け止めるしかなかった。


「今、この地は不安定です。立て直すには象徴が必要になる。だから私は……あなたの店『デイジー』に、その大役を任せたい」

「えっ……た、大役……?」

「復興の看板として、この町の“甘さ”を取り戻す旗印に。デイジーこそふさわしいと、私は確信しています」


 嬉しさと戸惑いが一度に押し寄せ、胸が落ち着かない。


 その響きには、ただの応援ではなく“決定権を持つ者”の重みがあった。


「ルドさん……やっぱり、あなたは……」

「……できれば、もう少し隠しておきたかったのですが」

「どうして……?」

「身分を知れば、あなたが遠ざかってしまう気がしたからです」


 真剣な瞳に射抜かれ、視線を逸らすこともできない。


「私は王弟である前に、一人の男です。――そして、この男の心は、すべてあなたに預けています」


 胸の奥が熱くなり、甘い蜜のような言葉が沁み込んでいく。

 どうしてこんなに簡単に、心臓を掴まれてしまうのだろう。


「なんで……私なんですか……?」

「理由なんて、うまく言葉にできません。気付けば目で追っていて、気付けば心が向かっていた。……それをきっと“運命”って言うんでしょうね」


 不意に照れたように笑うルドさんに、胸の奥がくすぐったくなる。

 真剣さの中に見えるその素直さが、どうしようもなく愛おしい。


 ――まるで、私まで運命に巻き込まれてしまったみたいに。




 秋の空は高く澄み渡り、町には少しずつ日常が戻り始めていた。

 けれど私の鼓動は、祭りの夜の花火のようにまだ鎮まりそうになかった。


 高貴な方の隣に並ぶ自信なんてない。

 けれど――ルドさんのいない未来は、もう考えられそうになかった。


 差し出された手を取ると、彼はふっと微笑んだ。


「……あなたのケーキは、世界一ですから」


 デイジーの再建と、私たちの新しい物語は――今、始まろうとしている。



挿絵(By みてみん)

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