表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Trick or Treat?~あなたの仮面を外したら~  作者: 五織心十


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/7

Ⅳ.ハロウィン祭当日


『仮装の準備ならこちらで手配します。あなたは、お菓子のことだけを考えていてください』


 あの日、ルドさんはそう言い残し、背を向けた。

 その言葉に甘え、私は試作と仕込みに没頭する。

 そうしないと、余計なことを考えてしまって、作業が進まない気がしたから。


 ――そして、ハロウィン祭まで数日と迫った朝。

 店先に届いた大きな包み。中には仮装用の衣装と置き手紙。

 出店場所や注意事項に混じって、最後の一文だけが異彩を放っていた。


『死神にはお気をつけください』


 冗談か、それとも警告か。意味は掴めない。


 嫌われてしまったのかと、不安になる。

 あの日、情けない姿を見せてしまった私に呆れたのかもしれない……。


 それでも、準備を整えてくれたのは事実。


 ――私はまだ、何ひとつ返せていない。




 ◇ ◇ ◇




 ハロウィン祭当日。

 割り当てられた露店の一画で、子どもたちにお菓子を配る。

 このお菓子は、私自身の子ども時代を思い出して作ったものだ。


 あの頃、もらったお小遣いはわずかで、祭りをまわるのが精一杯だった。欲しかったお菓子を諦めたことも、何度もある。

 それでも私は、まだ恵まれていた方だと思う。お小遣いすらもらえない子だって、きっといる。


 だからこそ、お祭りは、みんなで楽しめるものであってほしい。

 質も大事。だけど、量や経験、思い出も同じくらい大切だ。

 大きくなった時、「楽しかった」「美味しかった」って、そう思い出してもらえるようなお菓子を作りたかった。


 だから、味はもちろん、見た目にもとことんこだわった。


 その思いが届いたのか、子どもたちは笑顔で列を作り、楽しそうにお菓子を受け取ってくれた。

 その噂を聞きつけた親たちも次々と立ち寄ってくれて、売り上げはぐんぐん伸びていく。


 きっとこういうのが、今のデイジーの形なのだと――両親も認めてくれるはずだ。


 ……と、思っていたのも、束の間だった。


「おいおいおい、何勝手に出店してんだぁ?」


 聞き覚えのある声。視線を上げると、そこにいたのは――あの男達だった。


「ちゃんと許可は取っています!」


 慌てて書類を差し出すが、男はそれを鼻で笑った。


「はぁ? そんなもん、偽物に決まってんだろ。お前んとこの店が、ここで商売できるわけねぇだろうが!」


 ぐしゃあああっ!!!


 男が無造作に手を伸ばし、テーブルの上に並んでいたお菓子をめちゃくちゃに潰していく。

 色とりどりのアイシングも、丁寧に結んだリボンも、床に散らばって踏み潰され、甘い香りと粉砂糖が悲鳴のように宙を舞った。


「や、やめてくださいっ!!」


 喉が震える。


 せっかく、みんなが喜んでくれたのに。

 せっかく、ルドさんがくれたチャンスなのに。

 こんな人たちに、踏みにじられて終わりになんてしたくない……!



「――何をしている?」



 低く、冷たい声が空気を裂いた。

 振り向いた先、群衆を割って歩み寄る影。


 黒ずくめのローブ。

 仮面の奥からのぞく鋭い光。

 その姿は、まるで死神――


「なんだテメェ!? 引っ込んでろ!」

「聞いているのはこちらだ。もう一度聞く。貴様らは、そこで何をしている?」


 男達は威勢よく吠えていたが、死神男の威圧感に気圧されたのか、少し狼狽えた様子を見せる。


「ちょ、ちょっと灸を据えてやっただけだ! この嬢ちゃんが勝手に商売してるからよ……」

「なるほど。では、私も“灸”を据えねばならんな」


 風が走った。

 気付けば男達は地に伏していた。


「な、何しやがる!」

「風紀を乱す不届き者を排除したまで」

「くっ……この野郎……!」

「言い分があるなら、牢の中で聞こう。おい、衛兵! 連れていけ」


 衛兵が動き、男達を連行していく。

 その時、死神男が私の前に立ち、静かに口を開いた。


「来るのが遅くなってすみません……怪我はありませんか?」


 一瞬身構えてしまったが、その声を聞いてハッとした。

 さっきまでとはまるで違う、心配を含んだ優しい声色。

 聞き慣れたこの声――間違いない。


「ルド……さん……?」



「これは一体なんの騒ぎだ!」



 怒声が響いた。

 人垣が割れ、この地の領主キャボット伯爵が現れた。


「仮面の貴様か! この混乱を招いたのは!」

「心外ですね。私は市民をお守りしただけです」

「戯言をぬかすな! 無礼者め! そのふざけた面を晒せ!」

「ずいぶんと手荒い物言いだ」

「この俺を誰だと思って……」


 ゆっくりと、仮面が外される。

 露わになった素顔に、伯爵の表情が強張った。


「な、なぜあなたがここに……」

「キャボット領のハロウィン祭は有名ですから。一度、足を運んでみようかと。――まさか、私が来ると“困る”理由でも?」

「そ、そのようなことは……!」


 そこへ、衛兵が駆け寄る。


「隊長、例の物が見つかりました!」

「ご苦労。任務を続けろ」


 ――隊長……?


「どうやら、伯爵とは改めて、込み入った話をせねばなりませんね」

「はい……?」

「とはいえ、今日は祭りです。私も場を乱す気はありません。今日の私は“死神”ですが――あなたの魂を狩るのは、また後日ということで」

「ひ、ひぃっ……!」

「どうぞ。私の部下と共に、最後の晩餐をお楽しみください」


 青ざめた伯爵が後退る。

 私はただ、その光景を見つめることしかできなかった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ