8.裏ボス
ルイと別れた後、フェイは魔王軍の宝庫室に向かった。
今回のルイ勇者団の目的は魔王討伐。魔王軍の宝庫には世界でも希少とされる魔導具が山のようにあると言われている。
「でも、どうせいい魔導具は既に魔王軍が使ってるんだろうなぁ」
宝庫へ走りながらため息と共に呟くフェイ。魔王の討伐が不可能となった今、魔王城に来た意味を作り出す。
1.魔王軍の戦力を削ぐ
2.希少な魔導具の回収
フェイはこの2つに絞った。
「...さて。」
宝庫室の大扉の前で立ち止まるフェイ。
ここに来るまでに幾つもの罠が張り巡らされていたが、フェイは能力で難なくここまで辿り着けた。問題は、
「...やっぱり、簡単には行けないかぁ」
能力で扉を超え部屋の中へ自分を転送しようとしたが、扉には魔法を封じる特殊な細工がされていた為簡単には入れない。だが、フェイはそんな事想定の範囲内だった。
「この扉...だけじゃないな。宝庫を囲っている壁全てに魔法を遮る特殊な材質を使っているな。」
宝庫との座標を照らし合わせ、転移するというフェイの能力を使うことは出来ない。
「面白い」
フェイはニヤリと笑った
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ジリリリリリリリリ....
「なんだ!?」
「!?」
突然顔を顰めだした魔王にアイルは少したじろいでしまう。しかし、無理もない。さっきまで余裕綽々の顔でこちらの攻撃を次々とほとんど動かず捌いていた者がいきなり血相を変えて不満顔になったのだ。こちらの攻撃が効いているとは考えにくいし、一体何が魔王を苛立たせているのか。
「....どうやら、君達の仲間には頭の切れるジョーカーが居るようだ。」
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魔王城の宝庫室。そこは、世界の希少魔導具が山ほどあると言われている。魔法使いや魔導具の職人達からしたら誰もが憧れる神秘な場所だ。
それだけあって、魔王軍は宝庫室への警備はかなり厳重にしている。まず、宝庫室のある階層には、犬型の最強魔獣と言われているガングリオンを置いている。更に、宝庫室への道は複雑でいくつものトラップと魔力探知の術を忍ばせている。
そして、
絶対鉄壁という名の異名を持つ大扉。その扉には魔法を封じる材質を使った石。そこに物理的接触を塞ぐ結界を交互に入れる事で完全に立ち入れることの出来ない部屋の出来上がりだ。
扉が開かれるのは魔王の魔力が探知された時のみで他の者に開けることは魔王軍であってもできない。
それなのに、
----なぜ、
「...なぜ、開かれてる!?」
宝庫室に侵入者が入った場合、 魔王城全体にアラートが発生する。そして、今。アラートが発生している。
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「行かねば...」
「あん?」
クルドは赤髪の勇者、シュレイに背を向け階段へ向かった。
「...なんだよ、お前の方からいなくなるのかよ...」
シュレイは剣をしまい、下へ繋がる階段へ駆けた。
魔王軍7人の大幹部の内の1人であるクルドは誰よりも魔王に対して忠誠心の高い幹部であり、信号を感じた彼は、魔王よりも先に宝庫室に着いた。
「.....開いて...ない?」
クルドが目にしたのは何処も傷ついてない全く綺麗に開かられていない大扉だった。
ここでクルドに2つの疑問が生じた。
なぜ、開いてないのに宝庫室の警報信号が届いたのか。
なぜ、他の幹部達はまだ来ていないのか。
信号を感じたら直ぐに駆けつけるのが幹部達の役割なのだ。自分が早すぎたのもあるかもしれないが、にしても遅い。一体何をしているのか...
「..!クルド...」
「魔王様!」
廊下の方から歩いてくる魔王を前に咄嗟に膝まづくクルド。混乱状態の中でも魔王への忠誠心だけは忘れない。
「他の者達がまだ到着していないこと...代わってお詫び申し上げます....」
「....いや、おかしい。アイツらがこんなに遅いわけないし....開いてない扉.....一体何が起こって...」
「..まさか、もう既に中にいる?」
クルドの発言に魔王は顔を顰めた。先程までルイの記憶を奪い上機嫌だった魔王はどこへやら。
「...待て。敵の思惑かもしれない。」
「と、言うと?」
「5年前の事を忘れたわけでないだろうな。」
「..なるほど。」
5年前、魔王城で魔導具が盗まれる事件があった。世間を騒がせていた大泥棒が魔王城に侵入し、最高級の魔導具を盗んで行った。その時と手口として、大泥棒は宝庫室に侵入したと見せかけ、何らかの方法でアラートを発生させた。そして、宝庫室前に集まる魔王軍。扉は開いておらず、おかしいと思いつつも中を確認した瞬間爆煙によって混乱させられ魔導具を盗まれてしまった。
「今回もそういう作戦で何者かが来ているのかもしれない。」
「...なるほど。ですが、どうやってアラートを...」
「...」
クルドと魔王は大扉の前で頭を悩ませ続けている。
だが、部屋の中にも外にもフェイはもういない。
目的を済ませた彼は既に1階を目指し階段に向かっている。
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魔法を封じられているため、転送魔法は使えない。かと言って扉や壁を壊そうとしても結界によって物理的に触れない。部屋の中に入るのは普通の冒険者ならば無理だ。だが、フェイ・ハイルという男は勇者団のリーダーではないにも関わらず恐ろしい力を持つ。
扉に手を当てて静かに見上げる。自分がおよそ3人分の高さを誇る大扉を前にフェイは身体が武者震いした。
「一応、やってみるか。」
ダメ元の転送魔法。自身の座標を縦にずらし部屋の中への侵入を試みる。
座標を定めるため意識を集中させていたら、突然何かに意識そのものが何かにぶつかり現実世界に返されたような感覚になる。
やはり、魔法での突破は厳しい。
「...って、訳でもないかもだけどな。」
ここからがフェイの本領発揮の時間だ。
「ディメンションゲート」
フェイは扉から少し離れ、扉と対面するように自身の魔力による黒い扉をつくった。
その扉は先程魔王とアイルを飲み込んだ物と同じ、対象の相手を異空間を通じて別の場所に移動させる能力。
フェイが目をつけたのは"異空間"ということ。
魔法が封じられているのはこの世界の宝庫室への扉。中には魔法封印はされていない。と思う。異空間を通じることで転送ができるかもしれない。
しかし、この魔法の欠点として移動場所がその地点からランダムな距離の場所になるということ。
異空間にはありとあらゆる場所に現実世界へのゲートが存在し、対象者はどこかのゲートに勝手に放り込まれる。つまり、
「宝庫室に行けるかは"運"だな。」
運。完全なる運ゲーにフェイは挑んだ。
「まずは、1回目!」
開かれた黒い扉の中にフェイは身を投じた。
時間は無い。早めに頼む。----
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------24回目。
「っ!?」
ゲートから出ると、そこにはどこもかしこもとんでもない魔力を放つ魔導具だらけの場所。そして、
ジリリリリリ.....
「やばっ!」
警報が鳴り響き、フェイは大慌てで辺りを探った。
近くにあったのは大きな兜。男心を擽られるその兜は金の角を生やし、黒の紋章が額に埋め込まれている。20歳になるフェイだが、手が勝手に兜を撫でていた。
しかし、ここであることに気づく
「...これ、1回被ったら頭と同化して二度と取れなくなるやつだ...」
フェイの知識がフェイを救った。宝庫だからといって魔族の捉える宝と人間にとっての宝では違うこともある。
「てか!時間ないんだ!今、僕達に最も必要なものはぁ...」
立ち上がり辺りの魔導具を軽く見渡す。時間も無く、恐らく追手も迫っている為早く何か盗んで早く抜け出したい。
「..なにか、なにか....なにか....!これだ!!!!」
魔導具を手に取っては捨て、手に取っては捨てを繰り返しているとある魔導具を見つけ出す。
それは、長さがおよそ10センチ程で先端の太さは1センチと、デカめの針。これに魅力を感じれるのは勇者団の中でもフェイぐらいだ。
「..見つけたぞ...神アイテム...!!!」
その魔導具の名は、魔喰い針。
効果---対象者の魔力を吸い取る。
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「魔力でしか構成されてない貴方はこの魔導具の餌食となりますね!」
高らかな声でフェイは闇に落ちていくロイドに言う。
針は影に落ちていくロイドの身体を貪り続け、徐々に下へ行くロイドの身体が地面に着いたらようやく身体から離れる。
フェイは、一体どこまで優秀なのだろう。ヒーラーという役割にも関わらず、どこまで功績を上げれば気が済む。
眩しい。
フェイという勇者が輝いていてとても眩しい。
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「っ!!」
「どうしました!?魔王様!」
「...っはは.!!やってくれたなぁ!ヒーラー!」
魔王は扉の前で髪をかきあげ、久しぶりに怒りを露わにする。歯がギリギリと魔王の怒りがクルドにも伝わってきていた。
「...本当に厄介だ。フェイ・ハイル。奴がルイ勇者団の...."裏ボス"だな!」
腹から出た怒りの声はそびえ立つ扉と先が真っ暗な廊下の中で静かに響いた。