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死んだ英雄  作者:
1章 魔王城脱出
3/63

2.魔王決戦

「...冗談きついぜ、ルイ。」


ひきつった作り笑顔でそう言ってくる金髪男。全然状況が読み込めないが、彼と自分はどうやら知り合い、いや、それよりも濃い関係性なのだろう。しかし、どれだけ頭を捻っても、金髪男の名前も関係も思い出せない。

そもそもルイは18年間自分の村から拠点を変えたことはなく、村も小規模で住民も少ないので住民全員の顔と名前、性格も全て覚えている。ルイと何かしら関係があるのなら村の人?だが、こんな金髪男見た事ない。黙り込んで考えているルイを見て金髪男は苦しそうな顔で


「アイルだ!アイル!アイル・ヴァル!お前と戦ってきた勇者パーティーだろ!」


勇者..パーティー....??????

何を言っている。俺に勇者パーティーなんて無い。勇者なんて、俺が勝手に自称してるだけで、仲間だってまだ...まぁ、これから集めるつもりだったけど......

待て。これ、かなりやばい状況か?


ルイは嫌な予感がした。自分の身体を見ると、服装も随分変わっている。さっきまでは茶色の布を服にしてただけなのに今は、随分立派な黒マントに高そうなブーツ。腰にはベルトが巻かれており大きな剣を持っていた。すると、黒髪の男が顔を覗かせ、


「自分の名前、そして僕の名前、それから今ここがどこか、言ってみれくれませんか。」


彼は落ち着いてルイに対して質問をした。冷や汗をかいているのを見るに、彼もきっとかなり動揺しているだろう。それなのに、今の状況について冷静に対処している。きっと彼はかなり優秀な人材なのだろう。


「...えっと、俺はルイ・レルゼン...。アンタの事は..ごめん。分からない。ここがどこかも...分からない。」


「...記憶喪失...か。自分の名前がまだ分かるのが唯一の救いか..。」


「..記憶...喪失...」


ルイの嫌な予感は的中した。記憶喪失。この状況を見て流石のルイもある程度自分の置かれた立場がようやく分かった。見たところルイはこの2人と勇者パーティーを組んで冒険をしていたのだろう。しかし、何かの拍子で記憶を失い今この状況。正直、自分が勇者パーティーを組んでいたなど想像も出来ない。


ルイに残された最後の記憶は、王都にて魔王軍に向かって突撃しようとした途端世界が歪んだ記憶だ。

あそこで何か魔王軍から魔力攻撃でも受けたのか?

いや、ここで何かが起こって記憶を無くしたと考える方が可能性が高い。ならば、まずは情報収集だ。


「あの、質問なんだけど、俺の記憶が無くなる前、どんな状況だったか教えて欲しい。」


「...あぁ。分かりました。まず、ルイ。君と僕とアイルは仲間です。安心してください。それで僕達は今魔王城に乗り込んでいます。」


「...!?魔王城!?」


「はい。ここは魔王のいる最上階です。そして、僕たちはさっきまで魔王と戦っていた。」


「....マジか。俺そんな段階まで来てたのか...」


「でも、君は魔王に顔面を触れられてその場に倒れ込んだ。」


「...なに?」


「それで、魔王の激しい攻撃から逃れる為、君を連れて何とか空間移動で魔王と離れた部屋に転移したんです。そして、君が目覚めたって訳です。」


黒髪の男の説明は分かりやすく、ルイは静かに情報を頭に叩き込んだ。横を見ると、足を組んで座っているアイルが目に入った。

アイルは今の状況に絶望しているのか、目の焦点がらあっておらず、唖然としていた。


「....なぁ、ルイ...じゃあおめぇ....俺との出会いも!一緒にダーレス倒した思い出も!全部...忘れちまったのか?」


ずっと黙りこくっていたアイルが口を開き、ルイに激しく質問した。


「..あぁ。ごめん...。」


なんで俺が謝らなければいけないのか。1番焦りたいのは俺なのに。1番辛いのは俺なのに。なんでお前がそんな顔をするんだよ。今はどうか待って欲しい。人の気持ちを考えている余裕なんて本当に無いんだ。


ルイの頭は既にキャパオーバーだった。魔王軍襲来。勇気を振り絞って立ち向かおうとするも、店主の言葉でメンタルをやられ、魔王軍に突撃しに行ったら魔王城に居る。訳が分からない。それでも、ルイは状況の整理に頭を必死に使っている。


「...なぁ!ルイ!んじゃぁ!俺とお前の出会いから言っていくから!思い出してみろ!行くぞ!」


「...えっ、ちょっ、、」


「アイル。今は待とう。1番困っているのはルイだ。僕達が助けてあげないと。」


いつでもこの黒髪の人は頼りになる。


「あ、あの、名前聞いてなかった。名前は?」


「あぁ。僕?僕は...」


ボカアアアアアン!!!!!!!


「ッ!!!なんだぁ!!!」


後ろの壁がぶち破られ、吹っ飛ばされた身体が対角の壁にぶつかり脳が震える。瓦礫が無数に飛んでくるが、黒髪の仲間がルイの前で結界の様なモノを展開させ、金髪の男もルイの前に飛んでくる瓦礫を拳で打ち砕く。


「チッィ!もう来やがったか!テメェ!ルイに何しやがった!!!」


アイルから怒りの感情がルイにも伝わってくる。顔に血管が浮き上がり、拳からは血が出るのではないかと思うくらい強く握り締められている。


「落ち着け、アイル...落ち着け...。」


黒髪の男は相変わらず冷静だが、目は完全に殺意を向けている。


「ふはは。もう、見るからに雑魚になっちゃってんじゃ。おかしいねぇ。魔力とか身体的動作に異常は無いはずなんだけどね。」


ぶち抜かれた壁の奥からそう言いながら歩いてくる白髪の長髪男。デコに禍々しい角が生えており、漆黒のローブを纏い胸元に光る金色の紋章が何だか神々しい。その男はまるで闇を飼い慣らし自由に操る異様な雰囲気を漂わせていた。


「魔王...」


アイルが歯をギリギリさせながらそう呟く。そして、

ルイの直感が言う。---コイツだ。俺の記憶喪失の原因は。


「...お前だな。俺をこうさせたのは。」


「はは。結構飲み込み早いね。まぁ、そこのヒーラー君が優秀そうだし、色々説明してくれたのかな?大変だったね。自分の名前すらも分からんない奴相手にするなんて。」


「...ん?名前は別に分かってたぞ。」


「...え?」


ここで魔王側に何か手違いがあるとルイは予測する。その一瞬の空気の歪みに誰よりも早く反応したのはやはり黒髪のこの男だった---


「アイル!」


黒髪男と魔王の位置が交換されている。あまりにも一瞬の出来事過ぎて何が起きたのかまだ理解出来ていない。男は何をする訳でもなく、突撃その場から消え、魔王が現れた。


「...これって、魔法??」


「くらぇええぇえ!!!!」


魔法に見とれている間にアイルは黒髪男の指示に即座に連携し、電撃を纏った拳を既に渾身の力を込めて、魔王に向かい放っていた。


「ッ!!!..いったいなぁ...」


魔王は少しよろめき、腹の部分をさする。口から少量の血が吐きでていることからダメージはしっかりと効いているのだろう。ひとまず、何かしら面倒な能力で攻撃の効かない魔王という訳ではなさそうだ。これなら、何とか攻略できるか?と、考えていた次の瞬間-----


魔王の身体から6本の触手が現れアイルとルイを薙ぎ払った。2人は勢いよく逆方向に飛ばされ、壁に思いっきり頭をぶつけた。


「調子にのんなよ。人間風情が。」



「...あっ...あぁ..」


頭から血が出てくる。穴という穴から溢れ出る血をまともに止められない。腕の骨が衝撃で完全に折れているのが分かる。動かそうとしたらとんでもない激痛がくるだろう。それに、脳が震えて視界がぼやける。たったの一撃でこの威力。一体、記憶喪失前の俺はどうやってここまで辿りついたのだろう。こんな非力な男が魔王城にまでやってこれる訳が無い。それとも、何か特殊な能力があるのか?それを使わないとダメなのか?


痛さが全身を襲いつつもルイは状況の打開策を模索し続けていた。


「で、どういうこと?名前は覚えてたって。」


近づいてくる魔王がルイに向かって問いかける。魔王はどこか不機嫌そうな顔をして睨んでいる。


「...知らねぇよ....覚えてたもんは覚えてたんだよ....」


「....本来なら完全に記憶が消されるはずなんだけど....意味わからん。」


「...ってめぇ....さっきから!調子にのんなよ!!!!」


さっきからどこか飄々としている彼の態度に我慢の限界が来た。痛いはずなのに何故か立って、動かないはずの腕を動かし魔王に向かい拳を振るう。しかし、そんな拳は簡単に止められ、思いっきり身体ごと拗られ、ルイは宙を舞う。そして、空中に捨てられたルイは重力に引っ張られ思いっきり地面に叩きつけられた。

あぁ。終わった。全部壊れた。

多分もう殆どの骨が折れた。治るかどうかも分からない方向に腕も曲がってしまっている。ルイは自分の死が近いことを悟りゆっくりと目をつぶる。


「ディメンションゲート」


「貴様!」


黒髪の男が魔法陣を展開させ、謎の扉を出現させていた。その扉に向かい、3人が引っ張られた。


「ルイ!手を離すなよ!」


黒髪男に手を引っ張られ、片方の手でアイルを掴んでいる。よって、魔王のみが扉に飲み込まれていく。

扉の吸引力は凄まじく、腕を引っ張られていても、腕が引きちぎれるのではないかと思うくらい強い。それに、魔法の影響からか壁に手をのばしても壁に手が当たることはなく、すり抜ける。この空間全てを黒髪男が牛耳っているのがルイにも分かる。


「くっ...せめてぇ、お前の記憶も貰おうかぁ!」


そう言い扉に引き寄せられる魔王はアイルに手を伸ばす。


「アイル!!!」


「んだァ!クッソが!フェイ!ルイを頼んだぞ!」


アイルはそう言い残し魔王の手をはじき飛ばし、魔王と絡み合い扉に一緒に飲まれて行った。2人を飲み込んだ扉はバタン!と勢いよく閉まり、粒子物質となり数秒で灰となった。


「...僕のミスだ。」


「...えっ...あ、そん........」


項垂れる黒髪男、フェイ・ハイルにかける言葉がルイは見つからなかった。

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