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4 邂逅

 初めて目にする王宮の城門を前に、ティアスもフォーセットも少しばかり緊張していた。

 ただの、姉たちへの慰労を兼ねたパーティーではあるが、やっぱり滅多に拝めない王族とじかに対面するというのは、いささか緊張するものである。

 そんな子供たちの様子を視界の端にとらえながら、フレアは「行くわよ」と簡単に声をかけると、ひとつ息をついた。


 衛兵に、フレアは青いビー玉を差し出した。玉が淡く光ったかと思うと、次の瞬間には玉に封印されていたセディが姿を現した。その精霊をとっくりと見つめ、衛兵の表情が少しゆるんだ。

「──結構です」

 この精霊が、入場できる証となる。

 『ツイスト』は任命されると同時に、各自精霊を与えられる。そして、パーティーの通知を受け取った者の精霊だけが、「正規招待者とその同伴者であること」を証明することができる。

 この方式は昔から適用されているようで、シティもかつてはオレンジ色のビー玉を使ったらしい。

 小物入れにはそのほかに、古そうな別のビー玉もあったような気がしたが、フレアが話題にしないので、気のせいだったらしい。

 ───実際、ティアスはよく知らなかった。精霊が与えられるのは、『ツイスト』だけではない事を。


 会場には、すでに招待者のほとんどが集まっているようだった。おそらく『ツイスト』本人の人数こそ大したものではないが、その大半が連れている同伴者を含めると、結構な人数だ。誰も彼もが思い思いの正装に身を包み、立食パーティーを楽しんでいる。

「……うっわー。これじゃ、『ツイスト』本人が誰かも、よくわかんないね」

「…だな。レージだって、よっぽど親しい奴じゃないとわからないんじゃねーか?」

 感嘆の声をあげる妹と弟に、レージは苦笑しつつ無言を通した。


 パーティーに決まったプログラムはないようだった。司会もおらず、優雅なBGMと上品な料理が雰囲気を演出していた。そして、ティアスたちが到着して少しすると、会場内が一気に沸いた。

 ───王家の登場だ。

「王子!」

「ヘルド様ー!」

「王子、おめでとうございます!」

 歓声や賛辞の言葉が、あちこちから沸きあがる。両親に連れられて現れたその少年は、まだ幼さの残る顔をわずかに染めて、はにかむように笑った。

 口を開いたのは、王妃だった。

「皆さん、今日はよくいらっしゃいました。将来この国を背負って立つべきわが息子も、今日で9つとなりました。皆さんの、日頃の活躍のお陰です。これからも、わが王家を引き立てていって下さいね」

 彼女の挨拶のあいだ、傍らの王は穏やかに会場内を眺めていた。挨拶はそれだけで、あとはパーティーを楽しむ参加者のもとへ、王家の面々が訪ねていた。


「……あれ?ねえレージ、お母さんは?」

「ん?そういえば、さっきからいないわね。まあ、多分トイレでしょ」

 ティアスの言葉に一瞬だけ怪訝そうな顔をしたレージだが、すぐに友人との歓談に戻ってしまった。薄情にも見えるが、レージは母を信頼しているのだ。人格面でも護身の面でも。

 一応探してみようと会場を離れ、喧騒が届かなくなった通路を歩いていたティアスは、窓際に何かいることに気付いた。

 ウェーブがかった長い黒髪の頭の部分を結い、上品なドレスに身を包んだ少女。

 まさか───と、ティアスは内心でつぶやいた。

(……『シルス様』?)

 彼女は壁にもたれて眠っている様子だった。少し濃い眉、標準的な体つき。とりあえず「可愛らしい」範疇に入るだろう少女。

「あの、……どうしたんですか?」

 声をかけながら肩に手を置く。すると、弾かれたように少女は唸りだした。

「……う…ううっ……」

「え?あ、あのっ……具合悪いんですか?誰か……」

「大丈夫……ウィルトン、いつもの…だ、から……」

 喋ってくれたと思ったら、どうも人違いされているらしい。しかし──顔を上げてティアスと認めた彼女は、そのまま凍りついたように言葉を失った。

「………」

「……え?」

 ティアス自身、どう反応しようか困っていると、どこからか別の声が飛んできた。

「姫様!また発作ですか?お部屋に……!」

 クリーム色のショートカットの精霊だった。しかしその精霊も、ティアスの顔を見るなり声を失った。

「……えーっと、何か?」

 ティアスがおずおずと声をかけると、両者とも我に返ったらしく、少女はばっとうつむくと無言で踵を返し、精霊はあわてて後を追った。

「……何なんだろ、一体」


 早足で回廊を歩きながら、彼女はみずからの精霊に尋ねた。

「ウィルトン。私は……何か言ったかな?」

 その声が震えていることには、気付かないふりをして。その様子に痛々しく顔を曇らせた精霊は、一息ついて答えた。

「いいえ。私の記憶の限りは…。驚いてしまって、声が出なかったようです」

「そう………」

 それだけをつぶやいて、シルスはふいに口許を緩めた。そして目を閉じる。

 ───元気で、いてくれた。生きていてくれた。私の大切な、たった一人の───。

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