2 日常
───キィン、ガッ!──カッ、ガキッ!
高い金属音が響く。時には、わずかな火花と共に。2人を中心にやや遠巻きの人垣ができているが、もはや2人の脳裏にはない。
幾度かの鍔迫り合いのあと、ティアスはいなした剣の勢いそのままに相手の側面に回りこんだ。
「──っ!?」
そのまま相手の手元から剣を弾きとばし、ティアスはその喉元に切っ先を突きつけた。相手の少年──プロードは一瞬だけ呆気にとられたが、すぐに身体から力を抜いた。
「───降参」
その言葉に、ティアスの顔からも真剣さ幾分か消えた。ギャラリーとなっていたクラスメイトたちから、歓声や声援が送られる。その中に親友のロイリーの姿を確認したティアスは、満面の笑みを送った。
「……お前って、ほんとに剣さばき上手いよな。俺だって毎日練習してるのに」
「私だって練習してるわよ。1週間前の腕前と同じだと思ってるから負けるのよ」
負け惜しみにしては清々しい台詞を、ティアスは朗らかに返す。実際、同じ学年でティアスに剣術で勝てる人間はそうそういなかった。
そのとき、クラス終了の鐘が、丁度良いタイミングで鳴り響いた。
「ほんと、ティーは剣術はピカイチだな。さっすが、おばさんと姉さんが『ツイスト』だけあるな」
「ありがと」
お昼時。ティアスはロイリーと昼食をとっていた。この学校には食堂もあるのだが、芝生の上に持ってきたランチボックスを広げるのがティアスは好きだった。
「あ、でもロイのご両親も王宮勤めはしてたんだよね?」
瞬間、ロイリーの顔が心なしか強張ったように見えた。
「知らねぇよ。顔も覚えてねーんだから。いいよ、今の生活でオレは満足してっから」
付け加えておくが、ロイリーの性別は女だ。
王宮勤めをしていたロイリーの両親は、彼女が生まれてすぐに亡くなったらしく、今は親戚筋の人と暮らしているんだそうだ。……ロイリーが傍から見れば男としか思えない言葉遣いであることとの関連は、ティアスにとっては永遠の謎だが。
食事を終えたのは、2人ほぼ同時だった。
「──さて、じゃあ約束な」
「え?…ああ、どっち先にする?」
「先に教えてやるよ。ティーは記憶するってのがほんとに苦手だもんな?後で、ゆっくり剣教えてくれよ」
運動神経の鈍いロイリーが得意の歴史を、暗記が苦手なティアスが自慢の剣術をお互い教えあうのは、ふたりの日常だった。
「……そういやさ」
「何?」
「ティーは、そんなに剣術鍛えてどうすんだ?」
ランチボックスを行儀悪く肩に抱えたロイリーが尋ねる。
「うーん……レージみたいに『ツイスト』とまではいかないけど、王宮の関係で剣が使えるところに入りたいな」
「そっか。ティーは筋もいいみてーだし、お姉さんみたいに優秀な剣士になれそうだよな」
「ありがと」
ティアスははにかみつつ微笑んだ。
次の話は午後に投稿できる・・・と思います。
謎の言葉の意味はその話の中で。