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「叔父様──王は、あなたが犯人だと?」

 ティアスの問いに、メーチは頷いた。

「お気づきでしょうね。あの事態を予期しなかったことと、あの時の私の狼狽ぶりを考えれば、答えは出ます」

「……なのに、何の罰も与えず、城に置いてきたのか?母様は実の姉だろう!」

「──この国のため、でしょうね。王が殺されたなどと、広まれば王宮は疑心暗鬼に襲われます。セレスティ様はそんなことは望まれなかったでしょう」

 ゼイルが、静かな声で答えた。付け加えるように、メーチが続ける。

「罰、だと思います。私の罪を知るあの方に仕え、殺そうとしたシルス様の顔を見ながら、この国のために尽くすこと。……命尽きるまで。それが、私の償いです」

「………」

 それまでじっと聞いていたティアスが、これ見よがしなため息をついた。

「姫様……?」

「ティアス?」

「………ごめんなさい」

 その言葉が誰に向けられたものか、一瞬全員が首をひねった。

「母様は父様を愛してたから、私達を産みたがった。でも、それはあなたにとっては困ることだったんだね。私は母様が大好きだし、あなたを赦すことはできないかもしれない。……けど、母様も王として、譲っちゃいけないものを譲ってしまった。そこは、娘として謝ります」

「……ティアス様」

 しばし呆然としたメーチが、シルスに目を向けてみると、彼女は唇を引き結んでいた。苦しそうな瞳とかち合う。

 ───責められ、憎悪されるとばかり思っていたのに。

「……あなた方は、ほんとうに王家の血を継ぐ方々ですね」

 このふたりは、王家の人間として育てられていない。けれど、ちゃんと広く国を見渡せる目を持っている。まさしく、あの強かった女性ひとの子だ。


 メーチが引き取ると、シルスは帰ろうとする妹を引き止めた。

「ひとつ聞いてもいい?」

「なに?姉様」

 シルスはひとつ息をおいて尋ねた。

「あの時いってた夢、叶ったと思う?」

 ティアスは『あの時』の意味をはかりかねて考え込んでいたが、思い出したのか、「ああ」と小さくつぶやいた。


 それは、まだふたりが何も知らず、王宮で暮らしていたとき。シルスは、妹に聞いたことがあった。

 ──ティアスには、ゆめってある?

 ティアスは少し考え込んだが、笑顔で答えた。

 ──うーん……かあさまとねえさまと、ずーっとこうやって、いっしょにいられたらいいな。

 そして、シルスが相槌を打つまえに、思い出したように付け加えた。

 ──あ、でも、もしかなうなら……。

 ──なに?

 ──『おそと』にでたいな、ねえさまといっしょに。

 そして、照れくさそうに続けた。

 ──どうして『おそと』にでちゃいけないのか、わからないけど。いつか、かあさまとねえさまと、『おそと』をみてみたい。


「叶ったと思う?」

 そうだなぁ、としばし考えたティアスは、なにやら決意したような顔で。

「これから叶えればいいよ」

 はっとしたシルスに、ティアスは続けた。

「私、王宮に入るよ。母様が生きた王宮に戻って、姉様を守れる仕事をする。うちはレージが『ツイスト』だから、他の家よりよくわかるしね。姉様が元気なうちに、自分の力でここに戻ってくるから。待ってて」

「……ティアス……」

 笑うティアス。こんな光景を、何度も夢に見た。自分と同じ年齢のままの妹を。

 けれど、今ここにいるティアスは、成長した姿で笑っている。記憶の中と、寸分違わない笑顔で。


(……。死ねなく、なってしまった)

 頬を流れる涙を感じながら、シルスは独りごちた。

 大切な、たったひとりの妹が、戻ってきてくれると言った。あの頃と同じ笑顔をみせてくれた。これでは、生を諦められるはずがない。



「ティアスー!早く起きないと、また遅刻するわよー!」

 翌朝、いつもと変わらないフレアの声で、ティアスは跳ね起きた。


 あの事件は、結局公表しないことで落ち着いた。母ならそう願うだろうと、フレアたちとも相談した結果だった。

 シルスは相変わらずの軟禁生活だが、メーチの術で、命数はかなりのびたらしい(術の効果を完全に消すことはさすがに不可能だそうだ。『死の呪い』は甘くない)。ティアスも、将来を見越せる猶予期間が増えたし、なによりメーチの協力で、姉妹が会うことは以前より難しくなくなる。

 ───それでも、メーチの罪を忘れることはできないけれど。


 ティアスにとって、大切な当たり前の一日が始まる。これからも、ずっと続いていく日々が。

とりあえず15話で終わりました。というか終わらせました。

ものすごくふわふわしてる(つまり地に足着いてない)話だということは自覚してます。お付き合い下さった貴重な方、ご苦労様でした(汗)


少しでも「面白い」とか思ってもらえたら幸いです。

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