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10 見つけた2人

 薄暗い建物の中をうろうろしながら、ティアスはさっきのことを反芻はんすうしていた。

 あまりに腑に落ちなくて、パーティーに戻る気にはなれず、かといって、どこに行きたいのかもはっきりせず、ただ何となく、足を動かしていた。

 気付けば、まったく見覚えのない一角に入り込んでしまっていた。

 立ち止まったのは、声が聞こえてきたからだ。しかも、ついさっき聞いたような声。──間違いない、シルスの声だった。

「会場にいらっしゃらなくて、よろしのですか?」

 会話の相手は女性らしい。ティアスは声の出所を探した。

「私ひとり消えたところで、痛くも痒くもないだろう。王にとっても、あの客達にとっても」

 ───見つけた。あのシルスが、女性に詰め寄っている。ベージュの長い髪を一部だけ後頭部でまとめた、物静かそうな淑女然とした人だ。

「というより、単に私を殺しそこねただけのお前に心配される筋合いはない。……10年も前に、すでに見捨てていたくせに」

 女性が、少し笑ったようだった。自嘲とも苦笑ともつかない笑みを浮かべ、しかし口を開くことはなかった。

「それで?わざわざここまでいらっしゃった理由は、そのことで私を責めることではないのでしょう?」

「わかりきった事を聞くな」

 シルスが、吐き捨てるように答えた。

「私がこんなところに来る理由なんて、お前なら考えるまでもないだろう。それも、城内の者がパーティーのために出払うこの日に来たことでわかったはずだ。今日こそ教えてもらうぞ。……母様を殺した奴の正体を」

 ティアスは声を出すことを危うくこらえた。お母さんを殺された?というか、お母さんって誰?


「……お教えしたところで、どうなりましょう?まあ、私がすでにその犯人を突き止めていると思うまでに、信頼して頂けていることには感謝しますが」

「はぐらかすな。でなければ、そんな無能な術師をあのひとが、王の専属にしているわけがない」

「しかし、あなたがその後にされることはわかりきっておりますし、王は復讐・・など望んでおられません。確か、当時も申し上げたと思いますが?」

 シルスの顔に、赤みがさしたような気がした。

「……ああ、だから10年間口をつぐんできた。しかし、それを知らなければ私は死ぬに死ねないんだ。この意味がわかるだろう。ただの心境の変化で、問いつめにきた訳じゃない。私には、知る権利があるはずだ。あの幸せな生活を壊した元凶をな」

 言っている間にも、シルスの興奮は増しているようで、怒りと苦しみがないまぜになったような表情で声を荒げる様子は、少し大人びてはいるものの、「1人の少女」の顔だった。


 ───これ以上、聞いてはいけない。

 そう思った。さっきの話は、恐らく彼女の聖域。私のような、無関係な第三者が聞いてしまっていいものではない。

(……?無関係…?)

 自分で思ったことになぜか違和感を感じながら、ティアスは2人に気付かれないようにそこを離れた。そして、なんとか2人が見えない位置まで行ったとき、別の声がティアスを呼んだ。

「ティー、どこ行ってたの?もうパーティー終わるよ?」

 呆れ顔のレージに数瞬だけ言葉が詰まったが、なんとか返す。

「あ、うん……ちょっと。もう戻るよ」

 怪訝そうなレージが歩き出すのに従って歩きながら、ティアスは新たな違和感を咀嚼そしゃくしていた。


 ───会場に戻るのにかかった時間は、あの2人を見つけるまでにかかった時間より、かなり短かった気がした。

間が空いた割に、同じ日の話だったという・・・。

あと5話・・ぐらいで終わります。ひたすら種明かし始まります。

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