第9話 玄米ご飯とデートのお誘い!?
茜は嬉しい気持ちを抱えたまま、自宅へ帰った。いつもは特に楽しくない放課後だったが、今日は品川と真希と一緒に昼ごはんを食べられた。しかも品川と連絡交換もできた。これはどう見ても新しい友達ができたと言える。その事実を噛み締めると、心はフワフワと浮き立っていく。
かと言って勉強や日常生活は疎かにしたくない。茜は家に帰ると宿題を片付け、予習も着手した。
今日は終末なので両親も店で忙しいらしい。しかも反ワクチンの人達と会ってくるという置き手紙もあった。たぶん帰ってくるのは翌日という。置き手紙を見ながら余計に機嫌は良くなってくるが、勉強はしないといけない。中間テストも近い。茜は一人、部屋で勉強をし続けた。
気づくと、夕方も終わり、夜になっていた。お腹もすく。
再び今日品川達と一緒に食べたカップ焼きそばの味を思い出し、ニヤニヤ笑いたくなってきたが、家では超自然派の食事をしなければ。
勉強を終えた茜は、一階のキッチンへ直行し、冷蔵庫の中を開けてみた。
冷蔵庫の中は無農薬の野菜が目立つ。白菜やほうれん草などを見てみたが、虫はついていないよう。そこは気になったが冷蔵庫はすぐに閉めないと。作り置きのタッパーを取り出すと、すぐに冷蔵庫の扉を閉めた。
母の置き手紙によると、冷蔵庫の中には作り置きがあり、これを夕食にしなさいという。正直、背徳な味を覚えてしまった今は、母の作り置きなど食べたくはなかったが、空腹には勝てない。
食卓にタッパーや箸を持っていき、食べ始めた。
タッパーの中見は玄米ご飯、それに大根の煮物が入っていた。本当は温めたかったが、この家には電子レンジはない。数年前まではあったのだが、母が電子は電磁波攻撃する科学兵器だと言い張り、処分してしまったのだ。本当はタッパーも良くないもので使いたくないらしいが、便利さには負けて妥協しているよう。
母は自然派ママだったが、少しは妥協しているところもある。そんな微妙なところは人間らしいのだが、付き合わされている娘の立場からすると徹底的にやってくれたら、もっと母を憎めて割り切れるのにとも思う。たまに人間らしい所を見せらると、複雑だ。
「そうだ。品川くんから貰ったふりかけ使おう」
冷たくパサパサになった玄米ご飯の上に、品川に貰ったふりかけをかける。
悪い事をしている自覚はあり、思わず周囲を見渡す。いつも通りのリビングで食卓だ。誰もいない。ぼっちだったが、今はふりかけを玄米ご飯の上にかけながら、ワクワクと心が躍る。ふりかけはキラキラして見えてきた。星屑のよう。
黒っぽい玄米ご飯の上にのり玉のふりかけ。いつもよりご飯が華やかだ。
「品川くん、ありがとう」
一応お礼を述べつつ、玄米ご飯を食べてみた。いつもは硬い、黒い、冷たい、不味いと不満や文句がでそうなところだが、このふりかけのお陰でニコニコしながら食べられた。
確かにカップ焼きそばやコンビニのチキン、バターブレッドのように美味しいとは言えないが、ふりかけの甘さやザクザクした食感が楽しい。いつもは箸が進まないご飯だったが、笑顔で食べられていた。
独りぼっちでも品川や真希と一緒に食べた時間を思う出していると、寂しい気持ちも薄れていた。そう、自分はもうぼっちじゃない。友達ができた。それだけでも幸せな事だと思い、胸がじんわりと熱くなる。
今は大嫌いだった母の料理も少しは許せそうだった。子供の声の事などを思う出すと、完全に許す事はできないだろうが、今は一グラムぐらいは寛容になっていた。別に母も茜を不幸にする為にこんな事をしているのではない。むしろ逆だ。どこかでボタンが掛け違った。ただそれだけの事。茜は母の事を毒親だと表現していた事は、辞めようと決めた。
品川も毒親に理解があるのは、疑問だったが。もしかしたら彼も毒親の被害者なのだろうか。
もっと品川の事が知りたい。食事を終えた後も頭の中には、品川の顔が浮かんでしまい、茜も頬が真っ赤になってしまう。
この感情は何なのかよく分からない。親に刷り込まれた雛鳥のようなものか。初めて背徳なご飯を貰い、脳もそんな感じになった。無理矢理そう納得していたところ、トークアプリに品川から連絡が来ている事に気づく。
急いで確認すると、この街の駅に近くに新しくファストフードの店ができたので一緒に遊びに行かないかというお誘いだった。
絵文字やキャラクターのスタンプなども使ってない。シンプルな文面がすっと胸に入り、反射的にOKの返事をしてしまった。とんとん拍子に待ち合わせの時間や場所も決まっていく。明日のお昼前、駅の北口改札の前で待ち合わせが決まった。
連絡が終えた後、茜の頬はさらに真っ赤に変色した。完全に林檎ほっぺだ。これでは品川の事は笑えない。
「これって何?」
デートというもの!?
茜は初めてだった。こんな風に休日に男の子と出かけるのは。
心臓はドキドキと響く。うるさいほどに響いていた。