第6話 楽しみな昼休み
品川と秘密の約束をした翌日。
早くもお昼ご飯が楽しみで仕方がない。午前中の授業中も口元がニヤけてしまう。今日も母から超自然派弁当を渡されているわけだが、全く憂鬱な気分にならない。
二時限目は英語だった。担任の菅谷晴人が受け持っている。菅谷は四十代前半だったが、普段はスポーツでもやっているのか、背が高く筋肉質で若く見える先生だ。このクラスでも人気で「はるやん」とか「すがちゃん」というあだ名でも親しまれていた。爽やかな好青年がそのままアラフォーになったような教師だった。
「黒澤、今日は珍しく元気そうだな」
授業が終わると、菅谷が席の方までやってきて話しかけられた。
「え、そうですか?」
「なんか目がキラキラしている気が」
茜にはそんな自覚は無いので、戸惑って俯いてしまう。昨日品川と一緒に食べたコンビニのチキンのせいだろうか。確か肉には精神を安定させる作用もあると家庭科の授業で聞いた事がある。そう、肉のそんな栄養素のおかげだと自分に言い聞かせた。
チラりと品川の席の方をも見る。今日も陽キャ達があちらの方で騒いでいたが、彼の姿はない。菅谷だったら品川が授業に出ていない事を知っているのだろうか。思い切って聞いてみた。
「ああ、品川か……」
菅谷は困ったように眉間に皺を寄せていた。
「何かあるんですか?」
「ちょっとな。あいつは意外と成績だけは悪くないんだ。英語だってリスニングやスピーキングもはかなり良いぞ。耳がいいんだろうな」
「え?」
品川の意外な一面に戸惑ってしまう。あんな容姿で授業にも出ていないのに、成績が良かったなんて意外だ。
「勉強については問題ないんだがな。今は保健室登校だ」
「そうですか……」
保健室登校というと、良いイメージはない。いじめられている子の緊急避難先のようなイメージだ。もっとも品川はいじめに合うタイプでなさそうだが、何か事情はあると察する。菅谷も奥歯に物が挟まったような言い方だった。
「ところで黒澤。人の事はいいから、ご両親の事どうにかしてくれんか」
「え、何ですか?」
嫌な予感。
「またワクチン打つなとか、インフルエンザワクチンも発達障害の原因になるとか、変なクレームが入ったんだがな……」
「ああ、先生。ごめんなさい」
申し訳なさと恥ずかしさで、茜は頭を下げた。お昼は楽しみだったが、やはり両親の事の悩みは尽きない。
「まあ、黒澤が悪いわけじゃないが。ちゃんとご両親とも話し合いなさい」
「え、はい……」
みっともなくて茜の頬は真っ赤になってしまった。茜は普段は成績の良い優等生。こんな風に教師から叱られるのは、いつも母の事ばかりで余計に恥だ。
「じゃあ」
話を終えると、菅谷は職員室の方へいく。もうすぐ次の授業が始まるところで。慌ただしくテキストやノートの準備を始めた。
「あれ?」
ふと、誰かから視線を感じ、周囲を見回す。いつもの教室の風景だった。誰も茜の事など見ていない。
「気のせいか……」
チャイムがなり次の授業が始まった。相変わらず品川は、教室にはいない。菅谷の話を聞くと、少し不安もあったが、とにかく今は昼休みが楽しみだ。
初めて真希以外の子と友達ができたのだ。もうぼっちじゃない。それが今の茜の心の支え。菅谷に両親の事を言われても、下駄箱に嫌がらせの手紙があっても、母からの弁当や食事が嫌でも、乗り越えられそうな気がしていた。




