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ヤンキーくんと背徳グルメ〜ヤンキーくんと自然派二世の美味しい初恋〜  作者: 地野千塩


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第5話 秘密のコンビニチキン

 午後からの授業も落ち着かない。


 真希から品川を誤解させた話を聞いた。その可能性も高く、あのオカメインコのように真っ赤になった品川の顔を思い出すと、恥ずかしいやら気まずいやら。頭を抱えたくなった。


 教室には品川はいなかった。窓際の一番後ろの席だったが、いない。そういえば今日だけでなく、ずっと品川は教室にいなかったが。春ぐらいは来ていたが、夏休みを境に完全に姿を見せなくなった。


 茜は廊下側の一番後ろの席だ。そこから品川の席をチラッと見てみたが、テキストもカバンも何も置いてなく、どう見ても無人だった。窓から秋の日差しを受け、気温は暖かそうな席ではあったが。


 品川の席の側には、陽キャ集団もいた。特に赤川サエという少し派手で、声が大きな女子もいて、茜はギロりと睨まれた。慌ててテキストに視線を落とし授業に集中する。


 品川も席の隣に陽キャ集団がいるのが、苦手になって教室に入れないのだろうか。茜のようなぼっちなら理解できるが、あのルックスの品川が陽キャ集団を怖がるのは不自然か。


 茜はあまり授業に集中できず、落ち着かない。時間だけが流れ、午後の授業が終わると、ホームルーム、掃除の時間と続く。


 陽キャ達は全く掃除などはせず、教室で騒いでいたが、茜はテキパキと箒や雑巾を動かし、あっという間に終わらせた。


 これも品川を探す為だ。


 掃除が終わったら、学生食堂や図書室、空き教室を見て回ったがいない。もう帰ってしまったのだろうか。


 ヤンキーはこんなものかもしれないが。


 茜はもう諦めて帰る事にした。鞄を抱え、教室か一階の下駄箱まで降りる。


 下駄箱の中には嫌がらせの手紙が無く、ホッとしていた。そのまま安心しながら靴を履き替える。放課後だが下駄箱は人がいなくて静かだ。きっと多くの生徒は部活に励んでいるのだろう。グラウンドの方から部活をしている生徒や笛の音が聞こえて来るだけだ。ぼっちの茜は、部活やボランティア活動も何もやっていないので、掃除が終わったら、毎日すぐ帰るようにしていたが。


 ローファーに履き替え、下駄箱から出ようとした時だった。


 ひゃ!


 思わず変な声が出そうになった。寸前のところでようやく飲み込むが、目に前に品川がいる事に気づいた。


 大きな身体で仁王立ちしていた。三白眼で茜を見下ろしているではないか。鳥のような派手な髪型だったが、今はとてもオカメインコには見えない。強くて大きな鷹のよう。一方茜は、小動物のようにカタカタ震えていた。さっきは品川を探し、誤解を解こうとしていたが、これは怖い。


 運が悪い事に下駄箱や玄関には、誰もいない。先生も用務員も事務の人も誰もいなかった。ただヤンキーに睨まれているこの状況は、心臓が嫌な音をたてるだけだったが。


「おまえ、黒澤茜だな?」

「ひ、ひ」

「何か言ったか?」

「いえ……」

「ちょっと来い!」


 顎を突き出し、命令してきた。無力な茜はコクコクと頷くしかなかった。


 こうして放課後、なぜか品川と一緒に帰る事になってしまった。


 隣にヤンキーの品川くん。一緒に校門を出て、通学路でもある学校周辺の住宅街を歩く。この住宅街も運が悪い事に人気はなかった。


 歩きながら隣にいる品川を見上げる。


 茜より三十センチぐらい背が高い。肩幅も広い。喉仏も見える。手も大きい。


 鳥のように派手な頭は、金色。今は夕陽に照らされ、少し別の色にも見えた。相変わらずの三白眼で、無言だった。


 目は確かに鋭いが、綺麗な二重で形は良い。歯並びもよく、唇の形も悪く無い。全体的に怖い顔だが、ブサイクではなさそうだった。


 それに一応車道側を歩いてくれている。歩幅も茜に合わせてくれているようだ。茜がちんたら歩いていると、少し立ち止まってくれる。自転車が来たら庇うように前を歩いてくれている。意外と紳士的というか、根は悪人では無い事が分かる。もしかしたら育ち自体は悪くないのかもしれない。


 それだけに茜をこんな風に呼び出し一緒に帰っているのが解せない。顔も怖いので、当初の目的だった誤解を解くような会話も出来ない。小動物のように大人しくする事しか出来なかった。借りてきた猫状態だ。


 きっとバターブレッドを食べてしまった事に品川は腹を立てているのだろう。子供のように物欲しそうにして、品川のお昼ご飯を奪ってしまった事は、謝罪すべきだった。パンのお金も支払いたい。あんな美味しいバターブレッドだ。クラスメイトに食べられてしまい、品川は腹を立てているのだろう。そうに違いない。食べ物の恨みは怖い。誤解どうこうより、早く謝罪したいと考えた。


 そんな事を思うと、ちょうど目の前にコンビニがあるのが見えた。ここでお詫びにバターブレッドを買うのが良いだろう。


「し、品川くん。このコンビニよらない?」

「コンビニか?」

「うん。ここのコンビニ、イートインスペースあるし、少しお話ししませんか?」


 そう誘うと、品川はこくんと頷いた。意外と素直な反応で茜は胸を撫で下ろし、二人でコンビニに入店した。


 コンビニに入ると、店員が揚げ物を調理しているようだった。レジの奥でジュワジュワと軽やかな音がする。店内にはポップスが流れていたが、この音の方がよっぽど魅力的で、茜はついついレジ横のチキンやホットドック、フレンチフライなどを見てしまう。


「おいおい、そんな物欲しそうにレジ横見るなよ」

「だって美味しそう……」


 茜は肉も禁止されていた。コンビニのチキンも食べた事がないが、店員が「骨無しチキン揚げたてでーす! いかがですか?」と茜達に営業してくるではないか。


 ああ、食べたい。きっと大豆ミートなどと違い、ジューシーなお肉なんだろう。口の中で肉汁が弾けるんだろう。衣はザクザクしているんだろう。匂いも香ばしいんだろう。


 思わずレジ横のチキンを眺めながら、唾を飲み込んでしまう。食べたい。ダメだってわかってる。わかっているのに、物欲しそうに揚げたてのチキンを眺めてしまう。


「ああ、そんな物欲しそうに見るなよ」

「食べたいよ、品川くんは食べたくないの?」

「わかったよ! 店員さん、このチキン二個ください!」


 品川は頭をかくと、ポケットの中から小銭にを取り出し、チキンを購入してまった。あっという間に。


「品川くん! いいの?」


 茜は慌てて財布を取り出し、五百円玉を渡そうとしたが、品川に止められた。大きな手で止められてしまい、さすがの茜もバツが悪くなる。


「奢ってやる。ただ、事情は全部話せよ」


 再び鋭く睨まれ、もう茜は反論できず、イートインコーナーに連行された。


 イートインコーナーの二人かけの席に向き合って座る。


 夕方のコンビニは、客も少ないよう。イートインスペースも茜と品川だけだった。店内にゆるくポップスが流れているが、二人に会話はなく、チキンを食べ始めた。


 白い紙袋にチキンが入っていたが、さすが揚げたてだ。紙越しにも熱が伝わる。温かい。湯気は出ていなかったが、油と肉、そして衣の良い匂いがした。


 品川は無言で齧り付いていたが、茜はこれの食べ方はわからない。平べったい骨無しチキンだが、このまま齧りついてよいのか。骨付きのチキンだったら、何となく食べ方がわかるが。


「齧っていいの?」

「そのまま齧れよ。箸もフォークもナイフも何もないぞ」


 茜は品川を見様見真似してチキンを齧った。


 ザク!


 前歯で少しずつ齧っただけなのに、素晴らしい食感がした。衣がザクザクだ。色もちょうど良い茶色。スパイスや胡椒も見えたが、今はそれはどうでもいい。とにかく目の前にいる品川の真似をしながら、チキンを齧る。衣から肉へ。口の中にジュワジュワと肉汁が溢れて、夢中で齧り続けた。


「ああ、美味しい。お肉ってこんなに美味しかったんだね。大豆ミートと全然違う!」


 涙目になりながら、コンビニのチキンを讃えた。


「美味しい。品川くん、どうもありがとう。こんな美味しいもの初めて食べたよ」


 感動で本当に涙が出そう。真希には誤解させるような事は言わない方が良いと言われたは、胸がいっぱいになり、感謝の言葉を今すぐ表現したかった。


 品川は再びオカメインコのように顔を真っ赤にしていた。もう怖い鷹に見えない。可愛いオカメインコに見える。茜の警戒心もゆるゆるになってしまった。


「お前、なんでコンビニのチキンやバターブレッドをそんなに美味そうに食べるんだ? ダイエット中か?」


 品川は首を傾げていた。確かにチキンやバターブレッドでこんなに感動しているのは、不自然だ。


 茜はチキンを食べ終えると、母の事情を全て説明してしまった。


 意外な事に品川は茜の事情をちゃんと聞いてくれた。母が自然派ママで困っているなんて、不快な話題かもしれないのに。


「そうか。それは大変だったな」


 しかも共感まで示してくれた。その声は優しい。低い声だったが、優しは隠しきれていないようだった。


「ごめんね。チキンもバターブレッドのお金も払うから」

「いや、お金はいいよ」

「本当?」


 一応五百円玉を出したが、品川は頑なに受け取ろうとはしなかった。仕方がない。財布に小銭を戻した。


「そうか。だったらさ、昼メシは俺と交換すればいいか?」

「え?」


 驚きで変な声が出る。


「一緒に弁当食えばオッケーな話じゃんか」

「あ、でもうちの母の弁当は超自然派ですごい不味いけど……」

「俺は食えれば何でもいいわ」

「いいの?」

「健康にいいやつなんだろ? 俺みたいな馬鹿が食った方がいい」

「馬鹿なんて、そんな自分で自分の事悪く言わないでよ」

「そうか?」

「こんな自然派ママの話なんてちゃんと聞いてくれる人は馬鹿じゃないよ」

「そうか?」


 ここで品川は、苦笑していた。完全な笑顔でもなかったが、もう怖くない。本当は人の話をちゃんと聞ける優しい人だとわかり、茜もホッとする。


 こうして翌日から品川とお昼ご飯を食べる事に決まった。


 その事も嬉しくなり、茜は思わず笑顔になってしまう。


 また品川は顔を真っ赤にさせていたが、その理由はわからない。それに今日、こうしてチキンを食べた事も秘密だと言っていた。その理由も全く分からないが、明日からの昼休みが楽しみで仕方がなかった。


 こうして真希以外の友達が初めてできた。もう一人ぼっちじゃない。

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