番外編短編・自然派二世と誕生日ケーキ
その日、品川は自宅のキッチンに立っていた。焼き上がったスポンジケーキを覚ます。ケーキクーラーの上のそれは、甘い香りを漂わせていた。一口食べたくなるが、我慢だ。
今日は彼女である茜の誕生日だ。誕生日ケーキを作り、昼から茜の家でパーティーを開く予定だった。
付き合っているといっても両親公認の清い付き合いである。茜も品川の両親に挨拶もしており、その点については品川は真面目で古風な男だった。両親は戒律の厳しいカトリック教徒という影響もあるのだろう。今日の誕生パーティーも茜の両親も出る。その点については不満が無いとは言えない。それでも学生という子供の分際で大人のような事は、できない。茜を大事だと思うからこそ、責任の取れない行動は無理だった。
熱冷ましたスポンジケーキにクリームを塗り、最後に綺麗にデコレーションをしていく。白いクリームのシンプルなイチゴケーキ。故にクリームも丁寧に塗っていかないと、汚く見えてしまう。こうして丁寧にデコレーションした後、最後に「3月29日 ハッピーバースデー!」とチョコペンで描き、完成した。我ながら綺麗にできたんじゃないか。作りながら茜が喜ぶ顔を想像し、気合いが入りすぎたかもしれない。
クリスマスの時もバタークリームのケーキを作ったが、我ながら気合いを入れすぎた。実際のケーキの甘さ以上に甘く出来上がってしまった。恥ずかしいケーキだったが、あの時も茜は喜んでくれたものだ。
こんな品川はもうヤンキーはやめた。ルックスも大人しめの好青年路線へ変更し、授業にも戻りつつあった。確かに特性で困った事もあるが、茜と付き合い初めてから何故か落ち着いてしまった部分もあった。科学的には全く証明できず、医者である親も首を傾げていたが、品川自身もよく分からなかったが。茜の親戚の亜子は、「愛は全てを解決する」等と言っていたが、分からない。
こうしてケーキの出来に満足した品川は、それを箱の中に入れ、茜の家の向かった。その途中も茜の笑顔を想像し、口元がにやけてしまう。
ところが、家につくと予想外のことが起きていた。茜の両親は急に仕事が入り、出掛けていた。
「という事で、母も父もいないんだけど」
つまりこの家で二人きり。品川は内心非常事態だと慌てていたが、涼しい顔を作っていた。「俺は紳士で真面目な男だ」と何度も言い聞かせたが、淡い水色のセーターにジーンズ姿というシンプルな服装の茜も可愛らしく、修行のように自制心を働かせた。
リビングのテーブルで料理やケーキを広げ、二人で祝う。どうしても二人きりなので、ピンク色のムードが漂ってしまうのだが。
品川は頭を抱えそうになるが、何とか堪えた。まさに修行。
「このケーキ、すっごい美味しい! 甘い!」
無邪気にケーキを楽しんでいる茜は、赤ちゃんのような笑顔を見せる。
「品川くん、天才じゃない? 大好き〜!」
人の気も知らないで、煽ってきてるような?
いや、それは勘違いか。あの茜に限ってそんな事はしないだろうと思った時、チャイムがなった。友達の真希、サエ、タケル達がやってきた。どうやら茜の誕生日という事で祝いに来たらしい。
「あ、お邪魔しちゃった?」
察しのいいサエはバツが悪そうだが、品川は胸を撫で下ろす。
「いやいや、別に」
「うん? 品川って変な人だね」
サエには不審がられたが、これで良いだろう。本当に甘くて美味しいデザートは、大人になってからでも遅くない。きっとその方がもっと美味しく感じられるだろうから。この誕生日ケーキもキッチンでつまみ食いをするより、ちゃんとテーブルの上でフォークで食べた方が美味しいのだ。その代わり、大人になってからは容赦はしないつもり。
無邪気に笑っている茜を見つめながら、未来に胸を高鳴らせていた。




