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ヤンキーくんと背徳グルメ〜ヤンキーくんと自然派二世の美味しい初恋〜  作者: 地野千塩


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番外編短編・料理研究家と自然派ママ

 砂浜美羽は人気料理研究家だった。


 現代の女性は忙しい。家事、育児、仕事、介護などやる事がいっぱい。そんな中でも簡単でお美味しい手料理を食べて貰いたいという熱い想いの元、日々新しいレシピ開発に取り組んでいた。


 主なターゲット層は料理初心者の新米ママ、自炊が苦手な主婦など。あとは料理が苦手な独身男性や初老の男性なども視野に入れていたが、自然派ママなどはターゲット外。昭和風の言葉で言えばアウトオブ眼中というもの。なのに何故か自然派ママや陰謀論界隈の因縁をつけられ、常に炎上に巻き込まれていた。挙句に添加物にまつわる本も書くことになってしまい、より忙しくなってしまった。


 そんな中でも一番の問題は高校生になる息子だ。マザコン気味の陰キャでどうしようかと悩んでいたところ、息子が何故か反ワクチン派になり、自然派カフェに通うようになってしまった。


 とても心配だ。今は忙しいが、どうにか時間を作って例の自然派カフェに足を運ぶ。


 市内の北の方にあるカフェだった。市役所や図書館、公民館などの公共施設が立ち並ぶ地域の近くにあった。あまり交通の便はよくなく、カフェの周りは森や雑木林。昔話にでてくる不気味な家を連想させた。


 確かに木造の古民家で一見はオシャレだが、中に入りると反ワクチンのチラシやスピリチュアルのチラシが貼ってあり、客層もいかにもな感じ。美羽はサングラスをかけて変装してきたが、身バレしない事を祈る。その界隈では鬼のように嫌われていたから。もっとも美羽は界隈の人はターゲット層じゃないので興味はない。おそらく界隈の人達は、脳内にいる仮想の敵と戦っているのだろう。ご苦労な事だ。


 カフェは夫婦で経営しているらしい。一番隅の席に座った美羽は米粉のスイーツを適当に注文した。夫の方がオーダーをとってくれた。いかにも尻に敷かれてそうな夫で、美羽のことも気づかなかった。


 この夫が米粉のスコーンやシフォンケーキ、それにオーガニックコーヒーを持ってきた。


 スコーンの見た目は歪。たぶん自然派らしくわざとやっているのだろう。味はサクサクといい感じ。まあ、悪くはない。


 コーヒーはオーガニックコーヒーらしいが、酸味が強めだ。これは普通。正直オーガニックでも普通のでも変わらない。


 ただ、シフォンケーキはふわふわだ。抹茶味だったが、この苦味とケーキのふわふわ食感がよく合う。甘すぎず、大人にはちょうど良い塩梅だ。このシフォンケーキだけは、レシピが知りたくなり、妻の方に聞いていた。ちょうどカウンターの方でグラスを磨いていた。


 妻の方は典型的な自然派ママという雰囲気だった。全体的にナチュラルな服装で、エプロンや三角巾は麻だろうか。メイクも薄いが、肌だけは異様にツルピカ。ただ目もとは鋭く、頑固そう。年齢は美羽と同世代。おそらく氷河期世代だ。その世代を生きぬいた険しい目。なんとなくこの妻は嫌いになれなくなってきた。レシピも丁寧に教えてくれたし。


 その上、美羽の正体がバレると頭を下げてきた。ネットではついつい過激な発言をしてしまい、炎上キャラである事も詫びてきた。


 拍子抜けする。ネットのキャラと全く違うではないか。モニター上の文字だけでは、人柄や個人の想いは正確に伝えられないのかもしれない。ネットだけを見て全てを判断するのは危険かもしれない。木を見て森を見ずという言葉が頭に浮かぶ。


「そうですよね。自然派とか反ワクチン派でも色々な人がいますよね。すみません」


 美羽の方も頭を下げていた。自分を叩くアンチ=陰謀論者や自然派ママと決めつけていたが、案外そうでもない人も多いという。ここの客でも自分のファンがいるらしく目から鱗が落ちそうだ。


 息子の事は大丈夫だろう。しばらくは放っておくのも悪くないし。可愛い子ほど旅をさせた方がいいかもしれない。


 家に帰ったらこのシフォンケーキでも作ってみるか。目から鱗が落ちた記念のケーキ。息子が食べたらどんな顔をするだろう。それを想像すると、ちょっと楽しい。

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