第25話 片思いとフルーツサンド
中間テストも終わり、続々と結果も返ってきや。数学や英語は思ったより伸びなかったが、平均点は高くはなかったので、善戦といったところか。
「お前ら、テスト終わったからといって気を抜くなよ。もう期末も近いんだからな」
担任の菅谷は授業中、さくっと釘を刺してきた。目を閉じ、菅谷の声だけを聞いてみたが、確かに良い声だ。あの声優の翠野シュリの声にそっくり。もっとも品川の方が全体的に良い声だと思うが。茜は品川に惚れた弱みで声も声優より上なんじゃないかと考えてしまう。
目を開けてチラチラとサエの方を見てみた。相変わらず派手な茶髪、濃いアイメイク。今日は髪をアイロンで巻いているし、どう見ても陽キャだ。ヲタクで声優好きに見えないが。ただサエの持っているカバンには、アニメキャラクターのマスコットがあった。意外だ。ヲタクなのは間違いないだろう。
父によると昔はヲタクも迫害されていたらしいが、今はだいぶカジュアルになっているらしい。父もヲタクだったらしく、現代の若者は恵まれているとぼやいていたが。
そんな事を考えていたらサエを見ていたら、睨み返された。明らかに茜に悪意があるような視線だ。茜は慌ててテキストに齧り付いたが、サエとの問題は何も変わっていないようだった。
こうして午前中の授業も終わり、チャイムがなる。今日は品川と真希と三人で約束していた。漫画研究会での昼食。
チャイムがなると急いでランチバックだけ持ち、漫画研究会の部室がある旧校舎へ向かう。ちなみに今日の弁当は昨日作った野菜炒めと玄米ご飯のおにぎり。母の反ワクチン活動が過激化しているのでしばらく超自然派弁当はお休みだ。今朝、家にある玄米を炊いてみたが、手間がかかる。とても面倒だった。
こんな手間がかる料理を毎日している母に感謝。とはならなかった。最初は少しは母にそんな思いも持ったものだが、逆に怖い。こんな手間暇かけて毎日超自然派弁当を作っていたと思うと、その執着心というか粘り強さに背筋が凍りそうになる。
「品川くん、真希ちゃん!」
漫画研究会の部室につくと、二人はもう既に来ていた。テーブルを囲み、漫画をめくりながら茜を待っていたようだ。
品川は相変わらずの派手なヤンキールックス。真希も明るい茶髪の髪を編み込み、アイメイクもしていた。サエほど派手ではないが、真希もオシャレだ。真希の明るく天真爛漫なキャラクターとルックスはピタリと一致している。
なぜか心がちくちくしてきた。一緒に昼ごはんはが食べられて楽しみなはずなのに、なぜだろう。品川と真希のルックスがよく似合い、一瞬お似合いに見えてしまったからか。これは嫉妬なのだろうか。いや、こんなぼっちだった自分にも仲良くしてくれた真希に嫉妬なんてできない。茜は無理矢理そんな思考を追い出し、皆と同じようにテーブルを囲んだ。
テーブルの上には真希が持ってきたというサンドイッチがあった。ハムやきゅうりのサンドイッチだけでなく、いちごやキウイのフルーツサンドもある。見た目も鮮やか。断面が綺麗。まるでフルーツが宝石のようにキラキラして見える。真希によると彼女の母親の手作りサンドイッチらしい。テストも終わったという事でご馳走のようなサンドイッチを作ってくれたという。
見た目も鮮やかなサンドイッチに茜の目は奪われる。さっき感じた嫉妬心みたいなものは、あっさり消えた。我ながら単純だと思う。
「茜は弁当は何持ってきたの?」
真希に問われ、慌ててランチバックから弁当を出す。
「野菜炒めと玄米おにぎり。実は母が反ワクチン活動で忙しいので、自分で作らないといけないというか」
「え、マジで? これ、茜が作ったの? まあ、いつものお母さんのと違って野菜もざっくり切ってる感じ?」
真希にじろじろと弁当箱を覗かれ、恥ずかしくなってきた。やはり出来栄えは母のに劣る。添加物入りの美味しさの素も入れて、味も誤魔化しているし。
「お、俺はけっこう上手くできていると思うが?」
なぜか品川は顔を赤くさせながら、弁当を褒めてくれた。
「今日も俺も弁当作ってみたんだよ」
しかも品川はちょっと恥ずかしがりながら、弁当箱を見せてきた。
白米にミートボール、漬物の弁当だった。いかにも冷蔵庫の中にあるものを適当に突っ込んだ雰囲気の弁当だ。母や茜も弁当と全く雰囲気が違う。いかにも男の子の弁当といういう雰囲気だ。
「えー? 品川くんもお弁当作ったの? お家の人は?」
真希はそこに一番食いついていた。
「いや、うちの親も忙しいし。ほぼ一人暮らし状態」
「そ、そうなの?」
品川の家族の話は初めて聞き、茜も食いつく。この表情からは、親と特に関係が悪そうには見えなかった。以前菅谷が語っていた事は、深刻に捉えすぎていたのかもしれない。
「じゃあ、いつもみたいの弁当交換したら? あれだよ、カップルみたいだよね!」
「違う!」
「真希ちゃん、カップルじゃないから!」
真希がからかってくるので、お互いに必死に否定してしまう。とてもこんな状況で弁当交換なんて出来ない。カップルなんかじゃない。茜の頬は昨日以上に爆発しそうだった。
「ところで赤沢サエのことはなんかわかったか?」
弁当やサンドイッチを食べ始めると、品川が真希に聞く。品川はあの弁当はあっという間に食べてしまっていた。
「さあ。私、あの子よく知らないんだよね。陽キャだけど、ちょっと壁があるというか。意外とコミュ障っていうか」
真希のその評価は意外だ。玄米おにぎりを咀嚼しながら、首を傾げたくなる。
結局サエの事は三人で話し合っても答えは出ず、「もし酷いいじめに発展したら菅谷に報告。それでも止まらなかったら警察に相談」という事で話がまとまった。ここではいじめ=犯罪という共通認識が形成されていて茜も心強い。
「みんな、ママの自信作のフルーツサンドも食べて。美味しいんだから」
真希に促され、茜も品川もフルーツサンドを齧る。品川は一瞬でフルーツサンドを食べてしまったが、茜は綺麗なイチゴやキウイの断面を眺めつつ、ゆっくりと齧る。
ふわふわのパンに甘酸っぱいクリーム、それに甘い果実の味が絡み合う。確か母はフルーツサンドは胃腸に悪いとかクリームと果実の食べ合わせは最悪と嫌っていたが、味は最高ではないか。ふわふわと柔らかく、ほとんど噛まずに一瞬で胃の中に落ちていきそうだ。
「美味しい」
茜は目元をうるうるとさせながら、背徳の味に感動していた。
「おお、確かにこれは美味しいな」
珍しく品川もフルーツサンドの味を褒めている。そういえば彼が「美味しい」というのは、珍しかった。
再び嫉妬心のようなものが出てきた。
品川の事を勝手に好きでそれで良いと思っていたはずなのに、欲みたいなものが芽生えていた。例えば真希のようにもっと軽やかに話してみたいとか、美味しくて甘いものを品川に作ってみたいとか……。これが片思いというものなのかもしれない。好き以上に求める気持ちがあるというか。
だからといって一方的に嫉妬しているのも恥ずかしい。品川の隣を歩いても恥ずかしくない女の子になりたい。大人になりたい。成長したい。いつまでも雛鳥のままでいたくない。
美味しいフルーツサンドを食べながら、その為に出来る事を考える。勉強ももっと頑張ろう…次は九十点以上を目指す。あとは母やサエの事も自分が変わる事で解決できる事もあるかもしれない。
いつまでも子供ではいられない。ため息ついているだけでは、きっと何も変わらない。茜は今、変わる事を決意していた。
「茜、なんか前より目がキラキラして見えるよ? そんなにフルーツサンド美味しかった?」
真希にそう指摘された。
「うん、なんか昔と雰囲気は変わったか?」
品川にも言われてしまい、少し恥ずかしい。でも今は変わりたいと思っていた。品川に相応しい人になりたい。そんな願いを持ってしまっていた。
今は片思い。ちゃんと頭では理解しているが、それ以上を望んでしまっていた。




