第22話 初めてのスーパーと試食のソーセージ
両親は反ワクチン活動や自給自足の計画の為、多忙らしい。
中間テストが終わった後も超自然派弁当は、しばらく中止という連絡を母から受け取り、心の中でガッツポーズした。母の過激派な活動は全く賛成はできないが、今はワクチンを売ってから病気になった人の介護なども手伝っているらしい。そのようなボランティア活動に集中し、自然派料理熱は冷めて欲しいと願う。
困った点は一つ。夕飯の準備だった。昼ごはんは品川と好きなものを食べたい。その為には夕飯は健康的でバランスの良いものを食べたかった。母の自然派料理が好きではない茜だったが、美容や健康には気をつけたいものだ。
今日は母の作り置き料理を夕食にしたが、この先母がずっとそうしてくれるかはわからない。
茜はこの夕飯を食べ終え、食器を片付けた後、自炊の情報を調べていた。スマートフォンでインターネット検索していたが、料理の過程は文字だけ見るとイメージしにくい。
「あ、動画サイト見よう」
そのことに気づき、動画サイトに行く。すると、オススメに砂浜美羽の動画が多く出てきた。これを見ることにした。
あのタケルの母親という事が信じられないぐらい可愛らしい女性だった。年齢はアラフォーぐらいだが、ベビーフェイスで朗らかな雰囲気。タケルがマザコンになってしまう理由も少しは察した。茜の過激自然派な母とは正反対のタイプだった。砂浜美羽は母のように口で人を言いくるめる事もしないだろう。
美羽の動画はカット野菜を使った炒め物やサバカレーなどの作り方が紹介されていた。サバカレーはレンジで簡単にできるが、茜の家にはこれが無い事を思い出し、少々ガッカリするが、レンジを使わないレシピも簡単そう。
確かに添加物調味料・美味しさの素を多く使っていたが、茜の料理へのハードルをぐっと下げていた。たぶん美羽のメインターゲットは料理初心者。自然派など全く相手にしていない。美羽に文句をつける母のような自然派は、たぶんターゲット層という言葉がわかっていないのだろう。動画サイトには自然派向けのレシピ動画もあるようで、茜の表情は引き攣る。動画サイト視聴もほどほどにしておこう。
「それにしても赤沢サエさんって、なんであんな酷い事言ってきたんだろ……」
美羽の動画を見ながらも今日のサエの事を思い出してしまう。いきなり強い口調で悪口を言われ、睨まれた。
向こうは典型的な陽キャ。髪も茶色に染め、アイメイクもバッチリ。外見も派手でも声も大きく、クラスの太陽のような存在。
一方、茜は自然派二世で陰気な優等生タイプ。確かに品川や真希のおかげで明るくなってきたが、サエとは水と油のよう。気が合う事は無いだろうが、まさかこんなに敵意を向けられるとは。
いじめとは違う気がする。本人に直接敵意を向けているので、陰湿さはない。陰でコソコソ無視したりする事もない。母のおかげで色々と悪く言われるのは慣れていたが、良い気分はしない。
「はあ」
またため息が出そうになってくるが、明日は中間テスト最終日だ。明日は得意科目なので気が抜けていたが、油断大敵。美羽の動画を見終えると、机に向かって最終スパートをかけていた。
こうして翌日。
中間テストは終わった。勉強し過ぎてで右手は痛いし、頭も冴えていたが、これで義務は全部終わった。開放感で気が抜けそうだ。
こんな時でもすぐに品川の顔が浮かぶ。品川もテスト最後まで頑張れただろうか。逆に頑張りすぎていないかとか。気になってしまう。
この後は先生達も採点作業に入り、生徒達もすぐに下校することになっている。茜はすぐに品川に会いたくなり、速攻で保健室に前まで向かった。
「品川くん! テスト終わった?」
すぐに保険室から品川は出てきた。茜は開放感に満ちた表情だったが、品川は浮かない顔だ。心なしか鳥のように派手な頭も萎んで見える。
「ああ、ダメだったかも。俺は国語系は苦手だ。赤点かもな」
「えー? そう?」
「結果が返ってくるまで油断ならないわー」
いつになく自信がない品川に新鮮だ。こんな弱気な表情も見せるのか、と。好きな人の新しい一面を知り、この品川の表情を見るのも楽しい。
「とりあえずお昼食べに行かない?」
「おお。でも今は落ち込んでるからなあ。派手なところ行く気はしねぇ」
「そっか……。あ、だったらスーパー行かない? 私、あのスーパーの中に入った事ないんだ」
「まじか、だったら行こう、行こう!」
落ち込んでいた品川だったが、学校の近くのスーパーに行く事が決まると、無邪気な表情を見せてきた。
こうして二人で下駄箱で靴を履き替え、校門を出る。もうテストも終わったので下校中の生徒達の表情も明るく、開放感にあふれていた。
二人で下校するのは、周りの目も気にはなるが、それよりも品川の隣を歩ける事の方が楽しかった。
そういえば昨日、菅谷は職員室で噂になっていると言っていたが、気にしても仕方ないかもしれない。品川の家庭環境も知ってしまったが、親と彼は別人格だ。茜とあの自然派ママとは別人格のように。品川も前にそう言っていた事も思い出す。テスト後の開放感のせいもあるが、品川の家庭環境や親の事などは聞かなかったことにした。
そんな事も考えながらスーパーに入る。
昼過ぎのスーパーは、駐車場にも車や自転車も多く、混んでそうだった。実際、入口からは主婦や老人が入店しているのが見える。
「なんか昼間にスーパー行くのって背徳感あるよな?」
品川はスーパーに入ると、カゴを持ち、そんな事を呟いていた。
「今日は試験だから昼で学校が終わったが、ちょっとサボっている気分だわな」
「確かに……」
それは茜も同感だが、初めて入店するスーパーは想像以上に賑やかだった。テンションが高い音楽が流れ、野菜や肉コーナーでは店員達がおすすめの放送や試食をしている。
確かに売っている野菜は小さく、無農薬のものより元気はないが、このスーパーは明るく活気に溢れている。野菜の小ささなど全く気にならない。自然派スーパーのような意識高さもなく、庶民の憩い場という雰囲気だ。何の変哲もないスーパーのはずだが、茜にとっては未知の場所だ。ここにいるだけで楽しい。
「みて、品川くん。お肉コーナーでソーセージの試食やってるよ。いい香りがする」
茜は目をキラキラさせながら、試食のコーナーを指差した。そこにはホットプレートの上で熱々のソーセージが踊っていた。
「おお、確かにいい匂いだな」
「行こうよ」
「黒澤、楽しくしすぎじゃない?」
品川は呆れていたが、試食コーナーでソーセージをもらう。爪楊枝に刺された小さなソーセージだったが、表面が綺麗に焦げ良い色合いだった。それに油の匂い。背徳な匂い。
母はソーセージを特に忌み嫌っていた。確か危険な添加物をいっぱい使っていると言っていたが、この見た目や匂いには抗えない。
それに母が作った自然派ソーセージが美味しくなかった記憶があった。母はソーセージ添加物陰謀論を調べ、「こんな悪魔崇拝な食べ物絶対だめ! 自分で作るしかない!」と吠えていた。
それでも家でソーセージを作るのは、かなり大変だったらしい。出来は失敗。茜も食べたが、ハーブの匂いがきつく、肉もゆるゆるとし、ハンバーグの出来損ないになっていた。以来、母はソーセージを二度と作らなかった。
「俺も食べるか。店員さん、ありがとう」
品川も試食のソーセージを貰い、一緒に食べた。
「あ、これがソーセージ? コリコリとパリっとして美味しい……。これはお肉の至宝かな? ジューシーな肉汁が溢れ、口いっぱいに広がる。それにこの肉の匂いが最高……」
茜は顔を真っ赤にし、目をウルウルとさせて初めて食べるソーセージの美味しさを力説していた。完全に食レポになってしまった。この茜の食レポを見た客達は、ソーセージを次々とカゴに入れていた。
「お客さん、ありがとう!」
試食の店員にはお礼も言われてしまうぐらいだった。
これを見た品川は、腹を抱えて爆笑していた。「うちの子のリアクション最高だろ?」とドヤ顔も見せていた。
品川のそんな顔を見ながら、茜の顔はさら真っ赤に染まる。
初めて食べたソーセージ。試食だったが、この味も忘れてられそうになかった。




