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ヤンキーくんと背徳グルメ〜ヤンキーくんと自然派二世の美味しい初恋〜  作者: 地野千塩


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第21話 ラーメンと新しい火種

 中間テストももうあと一日だ。明日の最終日は現代文や古典。茜の得意科目だ。ようやく山は乗り越えたと思い、少しだけ安堵していた。


 品川は保健室で試験を受けているという。品川は現代文や古典は苦手らしく、最終スパートをかけると、早めに帰ってしまった。今日は保健室に前で少し挨拶しただけだった。


「お腹減ったなあ」


 茜はそう呟きながら、学生食堂へ向かっていた。今日は品川も帰ってしまったし、学生食堂に行く必要はないが、今日はここで昼ごはんを食べたい気分だった。


 テスト中と言う事もあり、学生食堂はいつもより空いていた。学生食堂は大学生や教員、事務の人たちが目立っていた。


 食券機に並ぶが、すぐに茜の順番が回ってきた。定食は売れきれ。丼ものと麺があり、ちょっと悩んだ未に麺を選ぶ事にした。今日は醤油ラーメンらしい。お盆とお箸を受け取ると、麺の列に並び、食券を出した。すぐに職員が出来立てのラーメンをお盆に載せてくれる。


 ふわふわとした湯気と一緒に醤油と胡麻油の良い香りがする。わかめ、チャーシュー、煮卵、のりがトッピングされた普通のラーメン。以前品はここのラーメンが普通すぎて好みじゃないと言っていた事があったが、茜のような自然派二世は今から食べるのが楽しもだ。


 一人がけのぼっち席に行き、腰を下ろすと食べ始めた。


 麺はツルツルと柔らかい。スープは濃いめ。少ししょっぱいが、これがいい。昔だったら一人でこんなラーメンを食べる発想にすらならなかっただろう。油も多く、決して健康的な食べ物ではないが、品川から貰った数々の背徳料理のおかげで胃もびっくりしていない。いつの間にか背徳な料理にも身体が慣れてきたらしい。


 テストが終わったら、再び母の超自然派弁当が復活するだろうが、今は自由にこのラーメンを楽しむのも悪くなだろう。


「美味しい」


 ついつい呟いてしまう。


 こうして一人でラーメンを食べているわけだが、昔のようにため息が出ない。寂しいとも思っていなかった。


 確かに品川や真希と一緒に食事した方が楽しいだろうが、今は一人の時間も受け入れられていた。


 美味しいラーメンを食べながら「品川くんだったらどんな顔して食べるかな?」と想像するのも楽しい。


 このラーメンの素材の成り立ち、学生食堂の職員が作っている過程なども頭に浮かべると、それだけでも楽しくなってきた。きっと色々な人の手によって一杯の美味しいラーメンが出来上がる。そんな努力の結晶をたった四百円で楽しめる。贅沢な時間だろう。


「はあ、煮卵も黄身がトロトロで美味しいんですけど……」


 思わず一人で食レポなんてしてしまう。


「おいおい、黒澤。お前、何をぶつぶつ言ってるんだ?」

「菅谷先生!」


 一人で楽しんでいたラーメンだが、担任の菅谷が隣の席に座った。菅谷もラーメンをたべていた。せっかく一人でラーメンを楽しんでいたが、まさか菅谷に邪魔されるとは思わなかったが。


 れんげでラーメンのスープを啜ると、隣にいる菅谷をチラリと見る。意外と丁寧に箸を動かして食べていた。品川だったらもっと豪快に食べそう。なぜか比較してしまい、やっぱり品川の不在を感じてしまった。


「先生はラーメン好きですか?」

「おお。駅前のラーメン屋がおすすめなんだよ。今度行ってみるがいい」

「でも一人でラーメン屋は……」


 さすがに難しいだろう。品川と背徳料理に慣れてきたところだが、ラーメんで屋に一人で乗り込むのは難しそうだ。やはり外食は自然派カフェが一番身体にあっている。幼少期からの刷り込みの業みたいなものを感じてしまう。


「品川と行けばいいじゃないか?」

「は、えええ?」


 驚きで変な声が出てしまった。なぜ担任の菅谷は品川の名前を出したのだろう。さらりと、ごく自然に。


「あれ? お前ら付き合ってなかったのか? 職員室で噂になってるんだが」

「ええっ?」


 再び変な声が出る。品川の事は好きだが、付き合うとか彼氏彼女とかは全く考えてなかったのだ。いつも通りに品川と一緒に昼ごはんを食べ、一緒に下校できればそれで幸せだと思っていたのだが。


「し、品川くんとは付き合ってませんよ」

「お? そうだったのか? お前らが仲良さそうに下校しているのは見たことあるんだは」


 美味しいラーメンを食べて口の中は幸せだったはずなのに、菅谷の発言で心臓が痛い。さらに菅谷は飄々とし、揶揄っているようにも見えるので、さらにバツが悪い。ここは担任教師として異性交際禁止とでも言ってくれた方が良いのだが。


「まあ、妊娠だけはすんなよ。清く正しく付き合いなさい」

「先生!」


 相手はかなり誤解しているようで、さらに茜は居た堪れない。


「そんな事言わないでくださいよー」


 涙目で訴える。ほんの一瞬だけ品がとそういう関係になってしまったシーンも脳裏によぎり、泣きたくなってきた。


「はは、冗談さ。でもな、品川にも友達ができて良かったと思う」

「え?」


 さっきまでふざけた表情の菅谷だったが、急に目元が真面目になってきた。若く見える菅谷だが、目元に年相応のシワも見えた。やはりこの先生も自分から達と違って大人なのだろう。


「あいつは、家で色々あるから」

「色々?」

「言ってなかったか? あいつの家、病院持ってるぐらいの医者一族だ。この街にある品川総合病院もあいつの家のところだ」

「えええ?」


 また変な声が出てしまう。確かに品川は見かけの割には妙に頭もよかったは、まさか医者一族の息子だったとは……。


 ラーメンはすっかり食べ終えていたが、お腹は別のものでいっぱいになりそうだ。たぶん、それは不安や驚きみたいなもの。


「お兄さんやお姉さんもかなり優秀でな。比べられて育ったもんだから、高校入ってぐれてしまったんだよ」

「そんな。品川くんって頭いいですよね? 速読できるし、英語もペラペラですよ?」


 納得できない。隣にいる菅谷に前のめりで訴えてしまう。


「確かに品川は優秀だが、上には上がいたって事だ」

「そんな……」

「正直俺も医者一族なんて怖いと思うね。しかもご両親がカトリック信者らしくて、かなり厳しく教育していたらしい」


 カトリックはキリスト教徒でも厳しめな宗派と聞いた事がある。洋画ではカトリックの女性が異性と婚前に付き合うのを躊躇しているシーンを見た事があった。確か婚前交渉が禁止とか。


「俺もそんな環境だったら、余計に反発してぐれるよな。他に品川も色々問題あるし」

「問題?」

「おっと、これ以上はプライバシーがあるから言えないが。まあ、品川とは仲良くしてやれよ」

「え……」


 品川の事情を知り、頭が混乱しそうだったが、一呼吸し、心を落ち着かせた。


「はい。私は自分から品川くんを嫌う事は無いです」


 そう宣言してしまう。その茜の目は真っ直ぐに輝き、菅谷も少しのけ反っていた。


「まあ、黒澤は反ワクチンのお母さんを何とかしてくれよ」

「うっ……。そこを突かれると痛いです」

「砂浜タケルの件は、お前の母ちゃんが糸引いてるよな……?」


 かっこいい事を言ってしまった後だが母の話題を持ち出されると、ぐうの音も出ない。色んな意味で恥ずかしくて下を向いてしまう。


「それでも品川の家に比べたら黒澤のところはまだマシかもしれん」

「そうですかね?」

「ああ。言葉の暴力などはないだろ?」

「ないです!」


 茜は首をふる。


 品川は言葉の暴力も受けたりしてたという事だろうか。品川は頭が良いだけでなく、大人で優しい理由が理解できてきた。きっと自分にやられて嫌な事は人にもできないタイプなのだろう。


「あ、もう一時近いです。帰りますね。ご馳走さまでした。菅谷先生、さようなら」

「おお。明日のテストも頑張れよ」

「はい」


 使った食器やトレイを片付け、学生食堂を後にした。


 品川の事情も知ってしまった。次の日、品がとはどんな顔をして会えば良いのかもわからない。


 そんな事を考えつつ、ぼーっと廊下を歩いていたからだろうか。誰かとぶつかってしまった。


 はずみで茜は躓き、床にダイブ。子供のように情け無い姿になっていた。


「きっも!」


 ぶつかった相手は、同じクラスの赤沢サエだった。陽キャで派手なギャルだ。茜は恥ずかしさと膝の痛みで、床から立ち上がるタイミングを失っていた。


 しかもサエは茜をキツい目で見下ろす。悪意が滲んでいるような目だった。


「きっも! 陰キャの陰謀論者のくせに調子のるな」

「そ、陰謀論者で自然派ママで反ワクチンなのは、私じゃくて母です!」


 思わず言い返したが、サエは再び睨みつけると去っていく。


 一人残された茜は呆然としていた。痛い膝をどうにか伸ばして立ち上がるが、サエは普段より当たりがキツいような?


 これはいじめ?


 タケルの事も解決し、反抗期も休戦中だったが、新たな火種が生まれているようだった。

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