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ヤンキーくんと背徳グルメ〜ヤンキーくんと自然派二世の美味しい初恋〜  作者: 地野千塩


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第20話 最低限のコロッケパン

 いよいよ中間テストに入った。茜も勉強に追われてしまい、母と呑気に反抗期をやっている暇もなくなった。


 母も母で反ワクチン活動が過激化していた。ワクチンの解毒の研究、打ってしまった人や遺族へのケアに奔走し、カフェの仕事も忙しいらしかった。父は自給自足に興味があるようで、田舎の土地を探しだし始めていた。こういった背景もあり、茜の反抗期も有耶無耶になり、母との関係もいつも通りに戻っていった。


 中間テスト中は午前中で終わるが、昼も学生食堂に行かずに家に帰って昼ごはんを食べていた。本当は品川と背徳な料理を食べたいものだったが、勉強も大事だ。義務を無視して楽しい事をする気にもなれない。そもそも品川も案外真面目のようで図書館の行って勉強しているらしい。そんな彼がなぜ保健室登校をしているのか疑問ではあるが、今は目の前の事をするべきだろう。


「品川くん!」


 そうは言っても帰り道、品川を見かけてしまった。ついつい声をかけてしまう。


「おお、黒澤か。目の下真っ黒?」

「勉強しすぎたよ。今日は英語だったでしょ。もう単語覚えるだけで、胃がキリキリしちゃうよ」

「そうか。ま、俺は英語は余裕だけどな」

「羨ましいなあ」


 久々に品がに会えた事が嬉しくて、茜はついつい笑顔になってしまう。


 いつもの住宅街。一軒家やコンビニが並ぶ普通の道。時々犬を連れた老人とすれ違うだけの長閑な道。今日は天気も良くはなく、空は厚めの雲で覆われている。手も勉強しすぎて痛いのに、いつもの景色も綺麗に見えてしまう。品川自体も光ってみえる。いつものようにヤンキースタイルなのに、キラキラして見えた。これは恋の病が重症かもしれない。


「そういえばもう昼か。腹減ったな。どっか行くか?」

「いいの?」

「そんな熱心に勉強しても壊れるだろ。たまには息抜きした方がいい」

「そうかな?」

「黒澤は真面目だな。きっと母ちゃん譲りだ」


 ここで品川は茜より早く歩いてしまっていたが、歩幅を小さくしていた。茜に合わせてくれているのだろう。


「そう?」

「あんな自然派弁当を作っているなんて超真面目な人だろうよ。普通はもっと冷凍食品入れたり手抜きするだろ?」

「そうか……」

「あんまり母ちゃん責めたりするなよ。たぶん悪意はない。むしろ逆だろ」


 そんな事を諭されてしまうと、もう子供っぽい反抗期をしているのが恥ずかしくなってきた。品川は思った以上に大人だった。やはりこの人の隣を一緒に歩くためには、いつまでも雛鳥のままではいけなのかもしれない。巣立ちは難しいが、少しぐらいは成長したい。品川に恋しているだけなのに、心は前向きになってきた。勉強も逃げ出さずに頑張りたいとも思う。


「お昼はどこ行く?」

「そうだな。パン屋行かない?」

「パン屋?」

「 外に食べるベンチとかあるし、美味しいぞ」


 ここで品川はドヤ顔。茜のお腹も鳴る。という事で品川と一緒にパン屋に行く事になった。


 住宅街から県道沿いの道に入り、歩いて数分。飲食店やメガネ屋、中古の本屋の並びにパン屋があった。


 この県道沿いの道は人通りが多い。自転車や親子連れなどとよくすれ違う。その度に品川は茜と歩幅を合わせてくれた。さりげなく紳士で優しい品川に、茜の心臓はドキドキしてしまう。


 パン屋は本格石窯工房がある店らしく、可愛い三角屋根がトレードマークのようだった。中に入ると広々とした店内には、何種類ものパンが並んでいた。季節柄、パンプキンや栗を使ったパンも店頭で推されていたが、ここでは惣菜パンが人気上位らしい。カレーパンやコロッケパン、サンドイッチなどが飛ぶように売れていた。


 茜達もこの争奪戦に参加し、どうにかトレイにコロッケパンやサンドイッチを入手した。店内は広いが、客が多くかなり混み合っていた。会計へ列もできていた。大手チェーン店ではないようだが、地元で愛されているパン屋らしい。いつも品川が昼に持ってきているパンは、ここのもののようだ。パンやサンドイッチに見覚えがある。


 茜はこういったパン屋にはほとんど行って事がない。母の知り合いの米粉パンの店や国産小麦にこだわったパン屋にはよく行っていたが。今まで行った事があるパン屋と違い、見た目だけでも美味しそうなパンに涎が出そう。米粉パンなども不味くはなかったが、見た目に関してはここのパンの方が美味しそうに見えた。パンってこんなに色があってキラキラと美味しいそうなものだったとは知らなかった。


 会計を終えると無料の紙コップも貰う。セルフコーヒーが一杯無料で飲めるらしい。


「品川くん、コーヒーが無料ってすごいね!」


 思わず目がキラキラになって喜んでしまう。なぜかわからないが、こんな茜に品川は噴き出していた。


 店の外にはベンチやテーブル席があった。ここで買ったものを食べられるらしく、主婦の集団などが陣取っていた。品川は先に行って場所を取ってくれていたため、ベンチに腰を降ろす事ができた。


「こんなパン屋があったんだね。母とは米粉パンの店とか行った事あるけれど、こんな種類豊富じゃなかったし、無料のコーヒーなんてなかったよ」

「おお、よっぽどここが気に入ったのか。鼻息荒いぞ」

「だってこんな美味しそうなパン屋さん、初めてだよ。こういうコーヒーも母に禁止されていたからね。コーヒーフレッシュ入れちゃおう」

「コーヒーフレッシュも禁止だったのか?」

「うん。実はミルクじゃなくて添加物入りも油なんだって。でもいいか。美味しそうだよ」


 いつになくテンションが高く喜んでいる茜に品川はずっと苦笑していた。たぶん、テスト中だった事もあり、余計に今の時間が楽しいのだろう。これが毎日同じように品川とパン屋に来ていたら、さほど楽しくもなかったのかもしれない。勉強は面白くない。母は相変わらずだが、今の楽しい気持ちも、義務や嫌な事のおかげかもしれない。


「お前ら、デートかよ?」


 ちょうどコロッケパンを食べている時だった。あの嫌がらせの犯人・砂浜タケルが目の前にいた。


「違うから!」

「昼メシ食ってるだけだよ!」


 タケルがからかってきたので、二人は顔を真っ赤にして否定していた。そういえば状況的には誤解されてもおかしくはない。その事を自覚すると、余計に顔が真っ赤になってしまう。


 タケルもここで昼ごはんを食べるつもりか、品川の右隣の腰をおろした。左隣に座っている茜。タケルが座ったせいで、品川との距離が近くなってしまった。整髪剤の香料の匂いを近くに感じ、さらに茜の顔は赤くなる。この状況はかなり心臓に悪い。タケルの事なんて全く興味はないが、話かけて心臓の音を誤魔化す事にした。


「ところでタケルくん。母のカフェに最近通ってるんだよね? 反ワクチン工作員になったの?」

「工作員とか言うなよ〜」

「そんな展開になってるのかよ……。やっぱり黒澤の母ちゃん、口達者だわな……」


 品川は今のタケルの状況を全く知らなかったようだ。さっきまで顔を赤くしていた品川だったが、このタケルには引いていた。正確にはタケルというより、茜の母に引いているのだろうが。


 そうは言ってもタケルは以前より明るくなったようだ。前はいかにも性格が悪そうな陰キャだったが、ワクチンで病気になった人の世話をしながら、人の役に立つのが楽しいとも語っていた。あの嫌がらせの手紙は迷惑ではあったが、結果的には良かったかもしれない。


「お、黒澤はコロッケパンか。炭水化物しかねえじゃん。よくそんなおかしなパン食ってられるな」


 もっとも根本の正確はそう簡単には変わりないようだ。さりげなく茜が食べているパンを下げてきた。


「海外ではコロッケパンとか焼きそばパンとか頭おかしいって言われてるらしいぜ。確かに炭水化物しかないもんな」


 口の中はコロッケやパンで幸せになっていたのに、タケルのせいで台無しになった。思わず顔を顰めてしまう。


「お前、人がもの食ってる時に悪く言うな。お前だって反ワクチン派に寝返った癖に、なんでマロンのタルト食ってるんだ? そこは無添加な米粉パンとかだろう?」


 品川は冷静にツッコミを入れてくれた。タケルには悪く言われたが、結果的には守ってくれた形になる。思わず胸はきゅんとしてしまう。


「そ、それはいいんだよ! 俺はステレオタイプの反ワクチンじゃないし。母の添加物入りのレシピなんかも支持してるぞ!」

「単に自己都合だろうよ……。まあ、そう言った活動をしている人もそれぞれだと思うがな」


 冷静な品川に諭され、タケルは居た堪れないようだ。マロンのタルトを食べると、猛ダッシュで帰っていってしまった。これから母のカフェに行き、色々な活動をするとは言っていたが……。


「このコロッケパンってそんなに正しくないのかな?」


 タケルが帰ってしまった後、茜は手に持っているコロッケパンを見つめた。確かに栄養素的には間違いだらけ。背徳なパン。このまま食べ続けても良いものか。


「いや、コロッケパンとかに正しいも正しくないもないだろ?」

「そう?」

「最低限、賞味期限や衛生面などの食べ物としての正しさを守っていれば、良くね? 食べ物の正しさもそういうもんじゃないか?」

「どういう事?」

「最低限のルール守っていれば、あとは自由なんじゃないか?」


 品川の言っている事は難しくてよく分からない。それでも再びコロッケパンを口に入れる。


 炭水化物しかない。栄養素的には正しくないコロッケパン。でもこのコロッケパンが悪いわけでもない。確かに品川の言うとおり、最低限の正しさは守られている。このパンを食べてお腹を壊したりする事はないだろう。


「そうか、そうかも……。母との関係も最低限のことは守っていればいいのかな?」

「そうだよ。どうせ明確な答えなんて簡単に出ないし。ま、今は中間テスト頑張ることが最低限の正しさなんだろうよ……」


 結局学生は試験や勉強からは逃げられないようだ。最低限やるべき事はやらないと。


「そ、そうだね。これ食べたら勉強しなきゃ」

「おお。図書館一緒に行くか?」

「大丈夫。家帰って一人で頑張るよ。動画サイトで勉強もしたいし」

「そうか。ま、今は勉強だな」


 そうだ。今は目の前の事からは逃げられないようだ。


「テスト終わったらさ」


 なぜか品川は言いにくそうに言葉にしていた。


「うまいもん食いに行こうぜ? したら勉強のやる気も出そうじゃん?」


 その上、疑問系でもあったが。


「うん!」


 茜は笑顔で頷く。今は勉強が大変だが、その後で食べる美味しいものを想像していたら、それも悪くない。


「よし! まあ、勉強頑張るか」


 品川も珍しく無邪気な笑顔を見せていた。茜と一緒にいて毒気が抜かれてきたのかもしれない。


 とりあえず今は勉強を頑張る時だ。最低限の正しさを守れば、後は自由だ。このコロッケパンのように。

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