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ヤンキーくんと背徳グルメ〜ヤンキーくんと自然派二世の美味しい初恋〜  作者: 地野千塩


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第14話 裏庭でカレーパン

 午前前中の授業も乗り越えた。母やチラシの事を考えたら気が滅入りそうだったが、お昼には品川と一緒に食事ができると思えば、苦手な体育や難しい数学も乗り越えられた。担任の菅谷からは「自然派ママの母ちゃん何とかして」と釘をさされたが、どうにか乗り越えられた。


 授業が終わるとランチバックを持ち、学生食堂へ直行した。今日の弁当は父が作ったので、量が多い。スープジャーに味噌汁、フルーツが入ったタッパーもある。母の弁当よりは比較的普通。単なる自然派弁当だったが、品川に会う事の方が楽しみだ。


「品川くん!」


 学生食堂のぼっち席へ行こうとしたが、今日は人が多く混み合っていた。食券機の前は長蛇の列。今日はスペシャルな鰻丼が提供されているようで混んでいるらしい。


 学生食堂の入り口で品川と落ち合うが、こんなに混み合っていると落ち着きがない。そもそも席に座れるかどうかもわからない。


「どうするか? 今日はやめるか?」


 品川はそう言っていたが、それだけは絶対に嫌だった。こういう時もちゃんと言葉にしたい。


「それは嫌だよ。真希ちゃんとこの部室行かない?」

「栗田が見つからないんだよ。一応連絡しているんだが」


 品川は頭をかきながらスマートフォンを凝視していた。真希は交友関係が広い。おそらく他の友達と食事をしているのだろう。


「だったら裏庭にでも行く?」


 そういえば旧校舎のさらに裏に庭があった事を思い出す。確か木製のテーブルや椅子、ベンチなどもあった。


「いや、あそこは人少なくね?」

「うーん。でもここにいるよりは良くない?」

「そうだな」


 という事で裏庭でお昼ご飯をする事に決まった。学生食堂から下駄箱へ行き、靴を履き替える。


「ああ、また手紙が入ってる……」


 これから楽しみなお昼のはずだったが、下駄箱には再び手紙が入っている事に気づく。今回の文面は「自然派ママってキモイ!」だった。どうも犯人の語彙力は貧困そうだが、これだけでは誰なのか特定できない。


「何だよ、この手紙。また手紙入ってるのかよ!」


 品川は手紙に怒り、周囲を睨みつけていた。下駄箱には何人か生徒がいたが、さーっと人は引いていく。モーセが海を割ったみたい。


「ちょ、品川くん! そんな怒らないで! とりあえず、裏庭行ってお昼食べよ!」


 怒っている品川を宥め、無理矢理裏庭に向かった。


 こんな手紙をもらってはいたが、茜の口角は上がりそうになっている。自分の為にこんな怒ってくれる人がいると思えば、ぼっちじゃないと思う。単なる正義感で怒ってくれているだけ。そう冷静にもなってしまうが、嬉しいものは嬉しかった。確かに手紙自体は嫌だし、気持ち悪いが、少し前よりは受け止め方が違っていた。


 裏庭は枯れ葉がたくさん落ちていた。黄色や赤の鮮やかな色の絨毯みたいだ。もう木々は冬に向けて寂しくなっていたが。


 空はよく晴れ、小鳥の呑気な鳴き声もする。人も他にいない。牧歌的で平和な裏庭で、品川もようやく落ち着いていた。


 二人はベンチに座る。カサカサと枯れ葉が揺れる音がする。少し風はあるが、日差しはポカポカとし、全く寒くはなかった。まだまだ冬は来ていないと思わされる。


「今日はパンだぜ。前、黒澤はサンドイッチ食べてただろ。それとカレーパン。すっごいカリカリでうまそうだ」

「本当?」


 茜は品川から紙袋を受け取る。中身はハムのサンドイッチ。それにゲンコツサイズのカレーパンがある。品川の手と同じぐらいのサイズのカレーパンだ。こんがりとキツネ色。思わず唾を飲み込む。


「美味しそう……」


 ほんのりとカレーの匂いもするではないか。期待値は爆上がり。早く食べたい。


「で、こっちが自然派弁当ね。玄米のおにぎりと煮物、あとスープジャーに具沢山の味噌汁、フルーツもあるよ」

「おお。今日は多いな。楽しみだ」

「私も楽しみ!」


 二人とも笑顔になる。妙にこの場の空気が甘いような気がした。品川の鳥のような派手な頭からは、ほんのりと香料の匂いもする。ちょっと今日は距離が近い?


 いや、気のせいだ。品川から貰ったカレーパンは、スパイシーで舌に残る味だ。衣はさっくりとしていたが、中のカレーはトロり。そして濃厚だ。パン生地もふわりと軽く、この辛さを優しく包み込んでいる。今までも品川から餌付けされていたはずだが、これも背徳な味。たまらなく美味しい。


「美味しいよ。すごい美味しい!」


 自分もあの手紙の犯人と同様に語彙力は無さそう。「美味しい」意外の言葉が見つからなかった。


「よかったよ。そんなに喜んでくれたら」


 さっきまで怒っていた品川だったが、目尻を下げていた。今日は眉毛は剃っていないみたい。品川のルックスは自由で良いと思うが、やっぱり眉毛はナチュラルな方が良いかも。よく見るとまつ毛も長く、二重のラインも綺麗だ。茜はカレーパンを食べながらも、品川の横顔を見てしまう。


「お、俺の顔に何かついてるか?」

「あ、ごめん。何もついてないよ」

「そ、そうだよな。っていうか今日の弁当はちょっと雰囲気違ってないか?」

「うん。今日のは父が作ったものだから」

「は!?」


 品川は噴き出しそうになっていた。


「うん。うちの両親は自然派過激思想だけど、オーガニックカフェを経営しているんだ。父もそこで料理人として働いているから、時々弁当も作ってくれるよ」

「そ、そうか……」


 品川は玄米おにぎりをまじまじと見つめていた。


「やっぱり俺みたいな悪い虫つけたらダメだよな……」

「え? 何か言った?」


 ちょうど風が吹く。枯れ葉がガサガサと音をたてたので、品川の声が聞こえない。


「いや、何でもないよ。この味噌汁やフルーツは黒澤が食べろよ」

「え、いいの?」

「ニキビできるぞ」

「あー!」


 確かにニキビはできていた。品川と背徳な料理を一緒に食べる事は楽しみ。一方で女としては、ニキビができるのも嫌だ。背徳料理が自然派のように美容に良ければ良いのに。そんな都合の良い料理は無いだろう。虫のいい話は無いものだ。


「う、味噌汁だけは飲むよ。フルーツはシェアしよう」

「そうだな。一緒に食おう」


 品川は笑顔。ちょっと変な空気になりそうな悪寒もしたが、品川は笑顔で安心した。


「それにしても、黒澤に変な手紙を押し付けている奴はムカつくな」

「あんまり気にしてないから。そんな怒らないで」

「他に何かやられてないか? 俺がぶっ飛ばす!」


 こんな事を言われたら、本心は嬉しくて仕方ない。それでも今は嫌がらせの犯人に感謝などはできない。やはり辞めてほしい。できれば謝っても欲しいものだが、難しいだろうか。


「別に他には何もされてないよ?」

「でも心配だな。今の世の中、変なヤツが多いから。ネットでも有名人を誹謗中傷したりさ。自分とちょっと違うだけで叩いたりするのっていじめだろ? というか犯罪だ」

「そ、そうだね……」


 意外にも品川は熱く語っていた。単なる優しい人というよりは、正義感も強いのかもしれない。そうじゃなかったら、自然派ママに悩む茜を助けたりもしないだろうが。


「なんか心配だな。帰りも一緒に行くか?」

「えっ!?」

「送ってやるよ」


 そこまでする? 優しすぎない? というか過保護???


 茜は混乱しそうになるが、嬉しさの方が勝ってしまう。これで品川と一緒にいる時間が増えるなどと打算的な事も考えてしまう。


「本当? 一緒に帰ってくれる?」

「おお」


 品川は子供のようにドヤ顔。そして胸も張っていた。これ以上頼りになるヒーローは思いつかない。


「品川くん、よろしくお願いします!」

「おお!」


 本心では品川といる時間を増やしてくれた犯人は全く恨んでいない。本当は嬉しいと思っている事などは決して言えなかった。

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