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ヤンキーくんと背徳グルメ〜ヤンキーくんと自然派二世の美味しい初恋〜  作者: 地野千塩


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第12話 今日はとりあえず自然派カフェ

 三つ子の魂百まで。


 そんな諺を聞いた事があるが、オーガニックカフェ・ナチュラルハーブの店内に入った途端、茜はホッとため息をついた。水が合うというか、慣れているというか……。


 結局、ファストフードに行く事を中止しる事になった。あの後、茜は腹痛や頭痛症状が出た。品川が気を使い、今日はとりあえずファストフード店に行くのは中止となった。茜は当初の目的地が果たせず悔しかったが、品川に気遣われてしまった事は嬉しく、体調不良もよくなってきた。


 しばらくあの公園で休んだ後、帰ろうとしたが、近くにオーガニックカフェを発見。ちょうど二人とも空腹で飢餓状態。自然とこの店に吸い込まれていった。


 この店は、シンプルでナチュラルなインテリアでまとめられていた。店内は観葉植物や綺麗な花も飾られ、まさに自然派カフェといった雰囲気だ。店は広くは無くコンビニよりも少し狭いぐらいの規模。女性の店長とバイトで運営されているようだ。店名は「ナチュラル・フラワー・ガーデン」というらしい。


 茜達はカウンター席ではなく、窓側の二人がけの席に座る。品川は初めてこんなカフェに入ったと思われる。キョロキョロと様子を見ていた。今の時間は昼時で店は満席。客は全員女性だ。確かに落ち着きはなくなるだろう。一方、茜はよく知った空気の店で、リラックスしてしまう。母の店と違い、反ワクチンなどのチラシが貼っていないのも嬉しい。ここは産地や農家の人のチラシが貼ってあり、穏健派のようだ。


 自然派ママに困っていた茜だったが、やはり三つ子の魂百までだ。このカフェは居心地が良い。水が合う。慣れてる。


「あ、オーガニックのハーブティー美味しそう。ローズヒップやカモミールやパッションフラワーもいいけな。あ、蜜柑のルイボスティーも気になる」


 母の自然派料理が嫌いなだけで、オーガニックなお茶などは嫌いではない。茜はリラックスした笑顔でメニューを見ていた。米粉のパン、全粒穀のパスタ、オーガニック素材のシリアル。それにオートミール入りのクッキーなどのスイーツも美味しそう。


「お、俺は何でもいいぜ。しかし、黒澤は自然派料理は嫌いじゃないんか?」


 確かに品川に疑問を持たれても仕方がないだろう。


「過激派の母の料理が嫌いなだけなんだよね……。あれこれ無理に禁止されるのが嫌ってだけで、オーガニックのお茶自体には罪はないでしょう?」

「なるほど。確かにそうだ」

「というか、品川くんはこの店で良かった? 居心地悪くない?」


 女性客しかいないオーガニックカフェ。しかもその女性達は、品川のように派手なルックスの者はいない。改めてこの店を選んで良かったのか後悔しかけた。


「いや、いいよ。無理矢理ファストフードとか食べさせて具合悪くすんのもなあ……」

「え?」

「徐々にこっちに慣らしてやるから」


 その声は小さく、茜の耳には届かなかった。結局、茜はオーガニックの蜜柑ルイボスティーとサンドイッチのセットを頼んだ。品川は玄米ご飯のおにぎりと塩麹の唐揚げセット。こも店はオーガニックカフェだが、ビーガンやベジタリアンはやっていないようだ。やはり穏健派のようで安心する。


 蜜柑ルイボスティーは、ほんのりと甘酸っぱい。蜜柑のいい香りもし、茜は目を細めていた。


「はあ、リラックスする。美味しい」


 なぜか品川はこんな茜の顔に不満そうだったが、料理が運ばれてきた。


 サンドイッチはポテトサラダがたっぷりと挟まれていた。パンも全粒粉で黒っぽかったが、ほんのりと小麦の良い香り。確かに刺激的な背徳料理ではないが、美味しい。母の自然派料理と違い、妙な圧力も感じず、純粋に素材の味が楽しめる。


 何より品川と一緒に食べられるのが嬉しい。品川はあっという間に完食してしまったが、茜は目の前に好きな人がいる事を噛み締めていた。


 好きな人なんて。改めて自覚すると恥ずかしくなってきたが、その気持ちは限りなくナチュラルで全く違和感もなかった。


 それより品川の事をもっとよく知りたい。恥ずかしさより好奇心の方が勝っていたりする。


「品川くんは、嫌いな食べ物ないの?」

「俺は何でもいけるぜ」

「そっか。好きな食べ物は?」

「肉だよ。焼肉」

「焼肉なんて食べた事ない」

「だったら今度行こうぜ。まあ、肉食はもうちょっと具合が良い時に行こう。その前にファストフードの店もリベンジするぞ」


 品川は笑顔だ。しかも次の機会もある事を示していた。こんな自然派の料理を食べているのに、胸はワクワクと弾んでしまう。


「本当に嫌いな食べ物ないの?」


 やや前のめりになって品川に聞く。今は何でも良いので品川の事が知りたかった。


「私はこういうお茶が好き。嫌いなのは母の料理」

「はっきり言うなー」


 品川は苦笑していたが、今は全く怖くない顔だ。むしろ年相応の顔に見える。今まで怖がっていた事に恥ずかしくもなってきた。


「俺は黒澤の母ちゃんの飯は嫌いでもないぞ」

「嘘……」

「なんか食べてからニキビ治ったし。健康に良いのは確かだ」

「そ、そう……」

「しかも手間かかってるぜ。あんまり嫌うのもな……。悪意があって黒澤に料理作ってるわけじゃないだろう」


 心臓はさっきとは別の意味でドキドキしてきた。品川が言う事に一理あったからだ。


「人はそんな綺麗な善悪では割り切れない。人それぞれだし。黒澤も母ちゃんだって、完全に根っから悪人じゃないだろ」

「確かにそうだけど……」


 恥ずかしくなってきて茜は下を向く。やはり品川は自分より大人に見えた。一方的に母の作った料理を嫌っている今の状態は、子供っぽい。文句を言うだけで、特に自分から何も改善もせず、言いなりになっていたのは、自分のせいだったのかもしれない。そう思うと恥ずかしくもある。品川と一緒に食事して良い仲なのだろうかと考えてしまう。今の段階ではとても釣り合わない関係。だとしたら自分が大人になって成長するしか無い。


「人それぞれだよ。うん、そうだ」

「そうだね……」


 茜は頷き、再びルイボスティーを口に含んだ時だった。


「そうですよ。人それぞれ色々ありますよ」


 なぜか隣の席の人が話しかけてきた。さっきまでは隣の席には女性の二人組が座っていたが、入れ替わったらしい。今は若い男性が一人で座っていた。


 年齢は大学生ぐらいか。オーガニックコットンのシャツを着ていた。この人もいわゆる自然派かと身構えてしまったが、笑顔は人懐っこく、好青年系だ。人によってはイケメンにも見えるかもしれない。どうやら過激派ではなさそう。品川もこの店で同性がいる事自体が嬉しいらしく、笑っていた。


「いや、私もね。いわゆる反ワクチン派ってやつなんですが、別に都市伝説とか、陰謀論が好きなわけでもないです。添加物入った料理も好きですしね。実はその副反応で死にかけたのがきっかけでね」


 この男は聞いてもいない情報をペラペラ話してきた。


「なんか反ワクチンは一概にこういう人みたいに言うのってナンセンスだよね。ステレオタイプだよね。レッテル張りだよね。私も人それぞれだと思うんだ」


 なぜか話題がこんな方向へ。この男にこの場の主導権を握られ、品川も微妙な顔つきだ。この男は空気が読めないタイプなのだろうか。


「あ、すみません。私、発達障害もありまして、ちょっと空気読めずに話すんです。ごめんなさい」

「発達障害?」


 なぜかここで品川の表情が変わった。さっきまでは笑っていたのに、目が険しい。この男を嫌っているというより、その言葉に何かありそうだったが。


「君達もしかしてデート中だった? ごめんね。あ、君は男だったら奢ってあげた方がいいよ。ネットで奢る奢らないは論争になるからね。デートだったら、男が奢ってあげなよ」


 この男が空気を読めないというには、本当かもしれない。「デート」という言葉に、茜も品川も爆破しそうなぐらい顔が真っ赤になってしまった。


「で、デートじゃない!」

「そ、そうです。お友達です!」

「おいおい、二人揃って顔真っ赤にして否定しないでくれよ。うん? デートじゃないのになぜ君達は二人で食事してるんだ? 友達同士で二人きりで食事なんてしないだろう?」


 この男が空気が読めないというのは本当だろう。それが特性からくるものなのかは不明だが、茜も品川も顔が林檎のように変色していた。


「まあ、デート楽しんで!」


 さらに男はこんな発言をしていた。


 結局、ここでの食事代は割り勘になった。お互いに恥ずかしさで気まずく、デートなんかじゃない事を主張したかったのかもしれない。


「デートじゃないから!」


 恥ずかしかったが、必死に否定している品川を見ていると、少しだけ寂しい。本当にデートだったら良いのに。そう思いながら、茜は自分の気持ちを再び自覚していた。


 品川が好き。


 この気持ちは、いくら恥ずかしくても否定する事は出来なかった。

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