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ヤンキーくんと背徳グルメ〜ヤンキーくんと自然派二世の美味しい初恋〜  作者: 地野千塩


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第11話 好転反応と美味しい水

 休日の朝は、よく晴れていた。空は澄み、秋らしく高い。風も心地よく、少し暑いぐらいだった。


 茜はなんとか身支度を整え、品川との待ち合わせ場所に向かった。メイクはどうしようかなと思ったが、うちには自然派コスメしかない。母が作った自然派化粧水で肌を整え、ワセリンをつける。その上に軽く粉をたたき、唇にはリップクリームだけにしておいた。このリップクリームも母の手作りだ。天然のハチミツの良い匂いがする。


 髪の毛も母のお手製の寝癖直しでまとめるだけにした。真希のように編み込んだりしてみたかったが、茜は黒髪ボブ。長さも中途半端なので、いつものようにした。


 こうして髪や肌も整え、オーガニックコットンのシャツ、ジーンズに着替えて準備完了。靴は全くヒールのないぺたんこ靴。ダサい靴だが、歩きやすさの面では悪くないだろう。


 こんな身支度に時間をかけてしまった。急いで待ち合わせ場所へ向かう。


 家から二十分ほどにある駅だ。ここは糖水市という地方都市。北の方は田んぼも残っているような土地だが、中心部はそこそこ栄えていた。電車を使えば一時間程度で都心にもいける。


 駅の方は商業施設も多い。休日のせいか、いつもより人が賑わっているように見えた。女性同士のグループや親子連れも目立っていた。さっそく駅に入り、北口改札前に向かう。


 時計を見ると、早く来てしまったようだ。まだ品川の姿は見えない。ほんの少しだけがっかりしてしまう。自分だけがワクワクと楽しみにしているみたい。


「あ、品川くん!」


 がっかりしてしまったのも一瞬。品川の姿がみえた。いつものように鳥のように派手な髪の毛。制服ではなく、黒いパーカーにジーンズ姿だった。体格もいいので、パーカーもよく似合っていたが、彼は茜の方に来る前に外国人に捕まっていた。どうやら観光客のようで道に迷っていた。英語で品川に話しかけていたが、彼も堂々と英語でコミュニケーションをとっていた。


 意外な一面だ。担任の菅谷は品川の英語スキルを褒めていたが、事実だったようだ。外国人も品川に道を教えてもらい、笑顔で去っていった。こうして学校の外にいる品川は、大して怖くも見えないし、ヤンキーにも見えない。おそらく小さな世界で「異質」にされてしまっただけで、広い世界では普通の高校生なのかもしれない。茜の通う高校は進学校でもまり、余計に品川のようなルックスは目立っているのかもしれないと気づく。


「黒澤。悪い。なんかアメリカの人は道に迷ってたから、案内してた」


 すぐに品川の元にやってきた。なんだか少し恥ずかしそうに頭をかいていたが、今の頬は普通の色だ。


「英語喋れるんだね」

「いや。うちの親から無理矢理習わされただけだから。本当は勉強も英語も好きじゃない」


 ぶっきらぼうに言っていた。なぜかこの話題は触れてはいけない気がして、茜はこれ以上何も聞かなかった。


「腹減ったな。ファストフードの店行くか」

「うん。楽しみ!」

「よし、行くぞ」


 品川が前を歩き、茜が後ろをついて行くような形であるきはじめた。駅の周辺は人が多いので、こんな歩き方が一番良いのかもしれない。横になって歩くと人にぶつかりそう。品川は背が高く、茜とかなり体格差がある。親鳥の後をよちよち歩く雛鳥のような気分になってきた。今日は品川も少し早く歩いていたので、ついて行くのに必死だ。


 駅から出て商業施設が立ち並ぶ広い道へ。今日は歩行者天国をやっているようで、車は見えない。フードトラックや屋台なども出ていて賑やか。休日の開放感やワクワク感が溢れているような道だ。


「品川くん。新しくできたファストフードのお店ってどこにあるの?」

「おお。これがチラシだ」


 品川は立ち止まってチラシを見せてくれた。表面には大きなチーズバーガーの画像が。とろとろのチーズやジューシーな肉が挟まれたハンバーガー。思わず唾をゴクと飲みこむ。そういえば今日はまだ朝ごはんを食べていなかった。頭の中はハンバーガーでいっぱいだ。UFOのようの茜の頭の中をふわふわと駆け巡る。


「お、美味しそう……」

「そう言うと思ったぜ!」


 なぜか品川はドヤ顔。今日も眉毛がなく、顔は若干怖いはずなのに、無邪気な子供のようなドヤ顔だった。


「食べたい!」

「ファストフードも初めてか?」

「もちろん。こんなには添加物入りの悪魔崇拝の食べ物だって母に禁止されていたから」

「お前の母ちゃん、なかなか激しいな……」

「確かに言っている事は過激派だけどね……」


 だからといって母の全てを嫌う事はできない。そもそも自分も自然派の恩恵をたっぷりと受けている。


 そしてこんな風に品川と出かけて背徳な料理を食べようとしている。母からしてみれば裏切り行為だ。自分は裏切り者のユダにでもなった気がして、頭の中にいるハンバーガーは、少し陰が薄くなってきた。代わりに母の顔がバーンと頭に浮かぶ。


「まあ、行くぞ」

「あ、うん……」


 こうして品川の後をついて行き、ファストフードの店についた。二階建てのまだ新しい店だった。開店したばかりで店頭には大きな花も飾られ、行列もできていたが。


「我々は肉食を禁止します! 今すぐこの街から撤退しろ!」


 店からは油の臭いがし、茜の食欲も刺激されていたが、だんだんと失せてきた。店の前ではビーガンの団体が抗議活動を行なっていた。参加者は数人程度だが、茜と似たようなオーガニックコットンの服を着ていた。彼らは母と同類という臭いしかなく、身が固まってしまう。


 店の客や街の人達は、ビーガン団体に白い目を向けていた。


「何あれ、陰謀論系?」

「自然派ってやつじゃない?」

「うける、キモい」

「ねえ、キモいよね。添加物使ってる料理研究家を炎上させているのもそれ系だっけ?」


 側にいた女性グループは明らかにこの団体を笑い物にしていた。


 茜に直接言われたわけでも無いのに、気分が悪くなってきた。頭の中にいるハンバーガーは完全に消えた。母の顔。それに毎日のように下駄箱に入る嫌がらせの手紙を思い出してしまう。


 自然派の母は嫌い。毒親だとも思っていた。こんな状況に立たされると恥も感じる。この場所から一刻も早く消えたくなってしまう。自分の事ではない。母への直接的な攻撃でも無いのに、ビーガン団体を見ていると居た堪れない。この人達にも子供がいるのだろうか。だとしたら一刻も早くこんな活動はやめてほしい。子供の気持ちだけはよく分かってしまう。


「黒澤、大丈夫火? 顔が真っ青……」


 身体は動かなくなってしまった茜に品川が顔を覗き込んできた。


「な、なんかこの人達見てたら、恥ずかし……」


 次の言葉も出てこない。喉もかわき、汗もでてきた。秋の割には暖かい日。その事もあって余計に気持ち悪い。


「行くの辞めるか?」


 残念そうな品川の顔。ここで「YES」とも言えず、さらに気分が悪い。


 バターブレッド。コンビニのチキン。カップ焼きそば。


 突然背徳な料理を食べて身体もびっくりしてしまったのだろうか。そういえばアトピーが治りかけの時も症状がひどくなった。好転反応というものだった。今も背徳グルメに身体が慣れてきた好転反応というものだろうか。そう思っても身体は石みたい。


「あー、もう分かったよ。とりあえず、人が少ない所行くか?」

「う、うん……」

「悪い。無理させた」

「そんな、謝らないで……」


 二人の空気は最悪なものに変わる。二人とも無言で移動し、駅の近くに公園に入った。都市開発された公園なので、植えてある木々や花壇も若干不自然な空気がある。それでも人は少なく、喧騒から離れているので、茜はここに足を踏み入れるとホッとした。


 とりあえず木陰にあるベンチに腰を下ろす。品川は近くの自動販売機でペットボトルを買ってきてくれた。ミネラルウォーターだった。天然水のミネラルウォーターで母も絶賛しているものだった事を思う出す。そんな事は全く知らないだろうが、わざわざこれを選んでくれたのは、品川の気遣いを感じた。その優しさが、今は居た堪れない。思わず下を向いてしまう。


 品川も茜の隣に腰を下ろす。そして小さくため息。


 こんな状況になって怒っているのだろうか。思わずビクビクしてしまうが。


「俺ってエスパーでも占い師でも無いんだわ」


 その言葉は意味がわからない。茜は首を傾げる。

 弱い風がふき、公園の葉を揺らす。その音が静かに響いていた。


「どういうこと?」

「つまり、我慢するなって事だよ。不満があったら具合悪くなったらすぐ言え。俺は超能力者じゃないんだ。はっきり言葉にしろよ」


 叱られてしまった。ぶっきらぼうな口調は、いつもより怖く感じたが、その目は優しげ。心配して怒っているという事が伝わってきた。思わず胸がじんわり暖かくなってきた。このペットボトルの水を口に含むと、もう気分の悪さもほとんど解消されていた。


「なか不満があったらすぐ言うんだぞ。黒澤、お前は日本語使えるよな?」


 怖い顔。でもそれは照れ隠しのようにわざとやっているようにも見えた。


 茜はコクコクと頷く。自分の悪い所を叱ってくれた。たぶん、こんな事は言いにくいだろうに。ただ単に優しい人でも無いようだ。


「わかった。今度からはちゃんと言う」

「わかればいい。本当にすぐ言うんだぞ。何も言わないとこっちは心配する。迷惑だ」

「うん」


 再びペットボトルに水を口に含む。もう気分はすっかり良くなった。代わりに胸がキュンと音をたてているのは、何故だろう。


 好きになってしまったのかもしれない。品川の事を。これは茜にとって初恋。初めて感じる気持ちなのに、すんなりと腑に落ちていた。

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