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悼吏の提案

「通例に(のっと)るのなら、朝廷を取り仕切る(かん)(なぎ)家……皇室の方々にこの事を奏上した上で、澪ちゃんは代々国の神事や祭事を取り仕切る(しゃ)()に養子入りして修業を積んで、そのままエスカレーター式に神職へ就く、って流れになるんだけど」

「けど?」

「澪ちゃんの場合、その手段は難しそう……というか、そもそも取れなさそうなんだよね~……何せ、あの大旦那様が保護者なんでしょ?初対面で数十分程度しか接してない僕ですら分かる程の溺愛振りだったし」

「そう……です、ね。身内の私が言うのも何ですが、拾ってくれた当初から、とても可愛がってくれています」


 事ある毎に伴侶の座を狙ってアプローチを繰り返す人々から、私が謂れの無い悪意や恨みを向けられてきたのもあってか、烏梅さんは私に対してかなり……いや、非常に過保護だ。

 ちょっとした怪我や病気で生命の危機に瀕するひ弱な赤ん坊の頃ならまだしも、ある程度身体も丈夫になって自由に動き回れるようになった三~四歳頃になっても尚「路傍の小石に躓いては大変だ」とか「可愛いお前が攫われたらと思うと気が気でないんだ」とか理由を付けて、当時の私がどんなに抗議しても外出時の抱っこ移動を譲らなかった程だ。

 それを聞き付けた白夜さんが「過保護は成長の大敵、この子の為にならないだろう」って、説教がてら懇々と諭してくれたお陰で止めてもらえたから、まだ良かったけどさ。


 ……今回のお使いだって、烏梅さんは最後の最後まで心配だからとメチャメチャごねて私に付き添って来ようとしてたのだ。これも結局、白夜さんにシバかれてようやく諦めてくれたけど。

 私を拾って以来ずっとこんな感じで、可能な限りは私を家から一歩も出さずに自分の近く、目や手の届く範囲に留めておいて守ってやりたいと思っているんだろうな……とは薄々感じている。


 でも、それは曲がりなりにも私を心底大事に想ってくれているからこその言動であるのも分かるので、若干の煩わしさはあれど、烏梅さんの事が嫌になった訳では断じて無いし、距離を置いて暮らしたいとは一ミリも思わない。将来的に一人部屋は絶対欲しいけど、それはまた別の話。

 あの人の選り好みの激しさは今に始まった事じゃないって事は、養育されてきた過程で十分理解しているつもりだ。


「朝廷と軋轢のある大旦那様が澪ちゃんを手放す事は有り得ないだろうし、澪ちゃんだって嫌じゃない?希少な浄化能力の持ち主だからって理由で、保護の為に親元から引き離されて、厳格な神社で修行漬けの日々を送って奉仕する生活送るの」

「普通に嫌です。私は一庶民として平穏無事に過ごしたいんで。術の勉強とかは今後必要になるだろうし興味もあるけど、その力を国や見ず知らずの人の為に人生ごと捧げるっていうのは、ちょっと」


 ラノベでもチート系の特殊能力は定番だったし、オタクとしてワクテカする部分があるのは否定しないが、だからといって窮屈な生活はノーセンキューである。


「だよね。でも、招雨ノ禊を君が発現させた事実を上に報告しないとなると、後々面倒事の種になる。皇族に重大な隠し事をするって時点で、謀反の疑いが掛けられてしまう可能性があるからね。……そこで、これは僕の個人的な事情も含んだ提案になるんだけど」


 そう言葉を区切ると、悼吏さんは姿勢を正して私に向き直り、真っ直ぐと目線を合わせる。


「澪ちゃんが、僕の義妹(いもうと)として比良坂家の養子になる、っていうのはどうだろう」

「…………はい?」


 予想していなかった方向性の提案に、素っ頓狂な声が零れる。


「あの……仰った事の意図が分からないんですけど……」

「そんなに難しく考えなくていいよ。要するに、僕が現世の人間社会における後見人になるって事。君みたいに複雑な事情や、特異な才能を持った子供を養子として迎え入れる事は、この国の呪術・魔術家では大して珍しくない行為なんだよ。だから、君が招雨ノ禊の保有者である事も『訳アリ』の一言で済ませて、さっさと籍を設けてしまえば良い」

「いやいやいや、そんな事が(まか)り通るんですか?というか、招雨ノ禊の存在を『訳アリ』って範疇に含めて良いんですか?」


 黙ってたら国家反逆罪に問われかねない事案じゃなかったのかと突っ込んだ私に対し、「平気平気」と呑気そうな返事を返してくる悼吏さん。


比良坂(ウチ)が訳アリだと言った時点で、大抵は碌な事情じゃないって向こうが勝手に判断してくれるから。そもそも、『狭間の大旦那様の庇護下にある子供』なんて事実がある以上、誰も好き好んで詮索しようとは思わないはずだよ。それこそ、よっぽどの馬鹿じゃない限り。あの人を敵に回すと碌な目に遭わないって、術師魔術師の間では有名な話だしね」

「ええ……」


 ……そんな凄い人だったのか、烏梅さん。まあ確かに、人妖の坩堝な薄明町の総元締めと”願いを叶える薬屋”とも謳われる仙羽堂の店主。重要そうな役職を兼任してるし、明らかにやんごとなき生まれであろう人が店に来るや否やとんでもない大金を積んで薬を求めている場面も時々見てきたから、只者では無いんだろうなとは何となく思っていたけども。まさか国の中枢にまで影響力があったのは流石に予想外。

 さっきの「朝廷と軋轢のある」って発言も然り、どうも私から見た烏梅さんと他人から見た烏梅さんに多大なギャップがある気がしてならない。

 私からすれば、懐に入れた存在には格別に優しい、超絶美形で有能な頼れる保護者なんだけどなあ。


 ……そういえば、悼吏さんの個人的な事情って何なんだろう。

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