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同志の出会いとこれからの話



「…………は、」


 一瞬、言葉の処理が出来なかった。が、即座に前世で琴葉(オタ友)が熱中していた乙女ゲームの事だと思い至る。それと同時に、目の前の男性が、自分と同じ現代日本からの転生者であるという確信を持つ。


「……一応知ってるっちゃ知ってますけど、友人からのプレイ感想とか、その程度の薄っすい情報しか持ってない、原作未プレイのミリしらですよ?」

「僕だって似たようなもんだよ。会社の後輩とかからちょくちょく聞きかじってただけで、原作ゲームの概要すらあやふやだったし。シナリオに関する知識量は、君とそう変わらないはず」

前世(まえ)では何してたんです?私は二十歳目前の女子大学生でしたが」

「滅茶苦茶若いじゃん……僕はしがないアラサー会社員だったよ」


 先程までの畏まった物言いとは一転、悼吏さんの口調が一気に砕け、貴公子然としていた雰囲気もざっくばらんで気安い感じのものに変貌した。一人称も〝私〟から〝僕〟になってるし、こっちが素なんだろう。


 詳しく話を聞いてみると、悼吏さんは、私と同じように生まれた時から前世の記憶を持っていた訳では無いらしい。細々とした既視感(デジャヴ)が積み重なっていって、十歳の誕生日を過ぎてしばらく経ったある日、それらが決壊したような感覚と共に、記憶が蘇ったとの事。

 蘇ったといっても、〝この世界が乙女ゲームに酷似した異世界である〟以外の個人としての記憶は〝(なつ)()(とう)()という名前のサラリーマンであった〟くらいの事項しか憶えていないそうだ。


 今回私の捜査に協力してくれたのは、学生時代からの知り合いで、家ぐるみでも親交のある白夜さんからの依頼だった事。捜査対象(つまり私の事だ)が、面識こそ無かったものの、間接的な命の恩人である烏梅さんの養い子だった事。そして、私が自分と同じ転生者ではないかという疑念を抱いた事。悼吏さん曰く、最後の理由が動機の大部分を占めていた模様。

 依頼の際に白夜さんから渡された、私の写真を見て読み取れた魂の波長──前世の記憶と共に発露した、魂魄(こんぱく)情報の鑑識に特化した異能・(しき)(めい)(がん)で認識したもの──に、今まで見てきた皇国の住民や妖とは似て非なるものを感じ取り、転生者疑惑をハッキリさせる為、直接会って人となりを確かめたかったのだと教えてくれた。


 私が昨今のラノベで見られる転生ヒドインだとは思わなかったのか一応聞いてみたところ、「自己中であったり、悪意と敵意に塗れた存在の魂や霊力は総じて汚く禍々しいものに見えるから、大体一目で分かる」「君の性質は冷たくも澄んだ清水のように涼やかで綺麗なものだったから、全く問題ないと判断した」との返答を得られた。


 現在持っている情報を共有していく中で、お互いがかつて生きていた時代が平成から令和の日本であった事も判明し、一回り以上の歳の差はあれど、私達が打ち解けるのに時間は掛からなかった。

 今居る場所が想像力によって大抵の物がどうとでもなる夢世界だったので、話し込んでいる内に各々で座り心地の良いアームチェアを出現させ、完全な寛ぎモードに入る。


 まだ薄明町の一部と隠世・現世の出店といった狭い世界しか知らない子どもの私と違い、十七歳年上の悼吏さんは大和皇国の義務教育も終え、傍系の当主を務める傍らで私立探偵として働いている立派な大人。

 そんな彼からもたらされた情報はどれも非常に有益かつ興味深いものばかり──前世との文化・地理的な差異や現在の国内情勢、呪術・魔術家系の大まかな活躍場所など──だった。


 その反面、烏梅さんがあれ程苦い顔をしていた理由も知り、これからの身の振り方を考えなくてはいけなくなったのだけど。


=====


 私が放り込まれた異界の暑さに辟易した時、現実逃避を兼ねて気紛れで作ったてるてる坊主。これが突然膨張した後に爆発、直後にゲリラ豪雨が発生。その後、蔓延っていた嫌な気配(誘拐した犯人達の怨みと同調した悪霊のようなものだったらしい)と濁ったピンク色の煙が消え去り、咲いていた植物が跡形も無く萎びていった、不可解な光景。

 この一連の現象は、全て私が発現させた異能によって引き起こされたもの。それも、浄化系の能力の中でもとびきり強力で希少度が高く、(しょう)()(みそぎ)という名称まで付けられたものだった。

 

 雨を招くという文字通り、異能の効果は雨を降らせたり、雨水を自在に操ったりできるという代物。一見地味に思える能力だけど、浄化・解呪関連においては規格外な程に強力な効能を有している浄化チートな異能であるが故に、大和では大変重要視されているんだそうで。


「文献によれば、その雨に降られた呪詛や呪物は例外なく祓われるし、呪詛を掛けた人物の霊力や妖気も『穢れ』と認識して、麻痺に似た状態異常も与えられるんだって。数百年前、この国が戦乱の渦にあった時代、招雨ノ禊を有していた術師が三日三晩歌舞を奉納して、争いで流れた血や死者の怨念、呪詛で穢れてしまった大地を丸ごと綺麗に浄化したって公式記録が残っているしね」

「へ~……」


 雨を降らせる手順も幾つか伝わっていて、一番簡単で手っ取り早いのが、私がやったようにてるてる坊主を供える方法。最大出力で広範囲に効果を発揮できるのが、公式記録のように歌舞を行う方法。

 この異能の存在自体は呪術界だけでなく、大和の王侯貴族間では結構有名らしいけど、近年は招雨ノ禊を発現させた術師が確認されていない。

 その為、現時点で呪詛を掛けられ、浄化・解呪を行う必要性が生じた際は、どんなに微弱な呪いであっても、精鋭の術師達が大掛かりな設備や呪具でお祓いを施した上で、被呪者は最低一ヶ月の間生物(なまもの)を食さず、朝晩に必ず(みず)垢離(こり)か滝行を行う、という相当面倒な手順を踏まなければ、完全に呪詛の影響下から逃れられず、穢れや(よど)みを払拭できないという。


 例外として、呪詛を仕掛けた本人に解呪してもらう、といった方法もあるっちゃあるようだけど、「人を呪わば穴二つ」なんて諺が前世でもあったくらいだから、呪う側はそれ相応の対価と覚悟を以て実行している場合がほとんど。なので、これは当てになる方法じゃない。


 手や体を水で洗う事は、目に見える汚れを落とすと同時に「穢れを祓う」事であるとされる。

 これは衛生的にも文化的にも日本(前世)で重要視されていた概念だったけど、大和(今世)は殊更その傾向が強く、新鮮で安全な水源は生活面・政治面双方で必要不可欠な物となっている。


 呪詛どころか毒物すらも術者の認識次第で完全に無効化できるというのだから、招雨ノ禊を行使できる術師は、その希少性も相()って非常に重宝されてきたという。特に権謀術数が日常茶飯事、呪いや毒が飛び交うのだって珍しくない社交界や政治の中枢に居る皇族や貴族からすれば、尚の事囲い込んでおきたい人材なのだろう。

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