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第6章 入れ替わり

 話の関係上、少し短めです。


 (ミモザ)がバーバラと入れ替わり、みんなからセカンドネームのセーラと呼ばれるようになって半年が経った。

 

 私はアンドリュー=コールドン子爵の娘となって、初めて家族の愛情を知った。

 両親は優しくて思い遣りに溢れていたし、三つ年上の優秀で格好良くて優しい兄は、からかいながらも親しみを込めて私に接してくれた。

 

 新しい家族となった子爵家の三人も、元の家族に負けず劣らず絶世の美形だった。

 父アンドリューと兄フランシスは、亡き祖母譲りのエメラルドの瞳にプラチナブロンドの髪をしている。バーバラも同じだ。

 そして母ナタリアは、澄んだ青い瞳に鮮やかなブロンドヘアーで、華やかでとても美しい。それなのに飾らない人柄で、明るくて優しくてとても温かな方だ。

 彼らは私の容姿を、貶したりからかったりすることは一度もなかった。それどころか、私を見る度にかわいいかわいいを連発して、私の頭や頬を撫で回した。

 これまでそんなことを言われたこともされたこともなかった私は、最初はずいぶんと戸惑った。

 しかし彼らの親愛の情が決して同情や憐れみからきているのではなく、心からそう思ってくれていることに私は近頃ようやく気が付いた。それからは素直に嬉しく思えるようになった。

 

 思い返してみれば、お祖父様が生きていた頃だって、当時の叔父様一家とは当然交流があった。そして三人からは優しくしてもらっていたし、かわいがってもらってはいたのだ。

 ただ、本物のバーバラを含めた四人は、まるで一枚の絵画のようにとても美しく幻想的だった。

 だからその美しい絵画を、路傍の石のように平凡で地味な自分が混ざって壊したくはなかった。それ故に、私はあまり叔父様一家には近付かなかったのだ。

 

 みんなとなんのわだかまりもなく、気安く本音を語ることができるようになった頃、何気無く兄にその話をした。するとフランシス、通称フランお兄様は苦笑いをした。

 

「芝居じゃあるまいし、絵画のような完璧な家族なんてあるわけがないじゃないか。

 大体あの妹が生まれてからというもの、我が家に平穏なんてものはなかったよ。

 さすがに両親には言えなかったが、()()は悪の化身かと思うほど残酷な子だったよ。

 ()()にとって価値の有る無しの基準は、見かけの美醜だけなんだ。そして価値が無いと判断したものに対する仕打ちは、目を背けたくなるほど酷いものだった。

 いくら言い聞かせても無駄だった。だから、僕にできることといえば人様が()()の毒牙にかからないように、両親と共にあいつに目を配らせることだけだった。

だから絶えず神経を尖らせて気を回していたから、少しも心休まる時がなかったよ」

 

 フランお兄様の言葉に私は吃驚した。お兄様が幼い頃からそんな大変な思いをしていたなんて。

 自分だけが辛いと思い込んでいたことに気付いて、私は恥ずかしくなった。

 それにしても、お父様やお母様だけでなく、フランお兄様も本当に優しい方だ。周りの人々を守るためにそこまで配慮をされていたなんて。

 巻き戻る前の私の実の両親は、自分の息子がどんなに人様に迷惑をかけようが、知らぬ存ぜぬの一点張りだった。おそらく今もそうなのだろう。遠い辺境の地にいても、そんな話がちらほらと漏れ聞こえてくるのだから。

 

「だからね、あの日、両親が留守中に先触れもなく突然やって来た伯父夫婦が、あのバーバラに君との入れ替えを提案した時、僕は小躍りしたくなるのを抑えるのに一苦労したんだ。

 しかもそのために眉間に皺を寄せていたら、あいつは勘違いして僕にこう言ったんだぞ。

 

『お兄様、美しくて愛らしい妹の私と別れるのがお辛いってことはよくわかりますわ。その上、私の代わりにあの醜いミモザが妹になるなんて耐え難いですよね。

 でも、愛する私の幸せを思って辛抱して下さいね。だってこんなに美しい私に、田舎の辺境地の子爵令嬢という今の身分は相応しくないんですもの。

 私には侯爵令嬢、いいえ、王太子妃、王妃の地位が相応しいわ。お兄様もそう思うでしょ?』

 

 今度は笑いを堪えるのに苦労したよ。でもその時僕は思ったんだよね。

 もしかしたらこいつは本当に王妃になれるかも知れないって。何せ国王夫妻は伯父夫婦と同様に並外れた耽美(たんび)主義(しゅぎ)だから、常識なんて平気で覆すかもしれない。もちろん悪い意味で。

 たとえそうでなくても、あの妹ならいつか絶対に、実家にも累が及ぶような何かをやらかすに違いないってね。

 だけどもしそうなったとしても、僕は表面上はただの従兄妹になっているわけだから、実の兄というよりは被害が少なくなるだろう? 良かった! って心底そう思ったんだよ」

 

 この時、美しく清らかで、まるで天使のようなお兄様の顔の裏に、何故か悪魔のような微笑みが透けて見えた気がしたのだった。

 読んで下さってありがとうございます。

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[一言] コールドン侯爵家は蠱毒の壺になったのか
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