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第59最終章 叶えられた願い〜エドモンド王子視点(16)〜

 この章で完結となります。



 留学から帰国した僕が、隣国で自分達が何をしてきたか、これまでの経緯を全て語ると、父はその場で一年後に王位を僕に譲るとあっさりと明言した。

 僕の能力やこれまでの功績を初めて知ったばかりなのに、すんなりと身を引くと宣言したので、これにはさすがに驚いた。しかしこの時、父は既に自己反省とやらを済ませていたらしかった。

 

 なにせこれまでずっと親友だと思っていた男にまんまと騙され、踊らされてきた。その事実を半年前に影達から突き付けられていたのだから。

 しかも、もうこれ以上国王を傀儡にはできないと悟ったコールドン侯爵が、今度は国王を廃して、まだ年少の第二王子を後継者にしようと画策していることもわかった。

 それを知った時、父は初めて己の愚かさ、罪深さに気付いたのだと言った。

 いや、正直なところそれはとうの昔から計画されていたことだったのだが、気の毒過ぎて誰もそれを口にはできなかった。

 

 国王でありながら政を疎かにし、国民はおろか、自分の子供のことも一切顧みることはなかった。

 こんな自分などさっさと身を引いて、優秀な嫡男に跡を譲るのが一番いいと考えたそうだ。

 ただし、立つ鳥跡を濁さず……

 

「自分が蒔いた種くらいは自分で刈り取らねばなるまい」

 

 と言いながら、あの駄目人間だった父は、半年間で調べ上げたというコールドン侯爵に関する調査書を僕達の前に広げた。

 その時その場にいた全員、信じられないものを見るような気分だった。

 

 こうして父の在位十周年記念パーティーまでの一月間、僕達王族は初めて一致団結した。

 そして影や近衛達も皆で情報を交換し、協力し合って、僕達のために動いてくれた。

 もちろん革新派の仲間や前国王派と連絡を取り合い、コールドン侯爵一派を断罪するための準備を進めた。

 

 まず僕はハッサン先生に大量の整腸剤とケイシンドの解毒剤を作ってくれるように依頼した。

 先生は今辺境の地にある王立の研究所の所長をしていて、これまでセーラをずっと見守ってくれていた。

 そもそも十一歳の時にミモザがセーラとして生きられるようになったのも、先生の協力があったからである。

 

 そして『ヴァイカントの雫』の開発の時もセーラにアドバイスを与えてくれていた。

 薬の中身、つまり成分は同じでも薬の名前を変えて卸せば、市政にも安く流通させられるというアイディアを出してくれたのも先生だった。

 まあ、成分表をチェックする者がいればすぐにばれることだったが、今のところ、それを声高に訴える者はいなかった。気付いている者はいるのかもしれないが……

 

 改革派の仲間達にも断罪計画を話し、根回しを頼んだ。彼らはこれまでも国王派の解体を少しずつ進めてくれていたので、コールドン侯爵の一派はかなり数を減らしていた。

 まあ、そもそもそのことに薄々気付いた侯爵が、最悪の事態を想定してケイシンドの毒薬などを作らせたのだろう。

 

 こうして準備万端整ったところであの茶番劇の幕が上がったのだ。

 

 

 ✽✽✽

 

 

 コールドン侯爵とその一派による前代未聞の王家及び貴族に対する無差別暗殺……未遂事件の裁判はすぐさま開かれた。

 証拠が揃っていたことに加え、証人が山のようにいたからだ。そしてそれにより、判決も異例なほどの早さで下ったのだった。

 その裁判の審議及び判決内容については箝口令が敷かれ、その内容が傍聴していた王侯貴族から外へ漏れることはなかった。

 

 しかし、そんな命令が出されていなかったとしても、内容が平民にまで広がることはなかったかも知れない。

 それはコールドン侯爵の行為そのものが残虐で卑劣だったことに加え、その断罪劇の結果があまりにも下品で悍ましいものだったので、誰も口には出したくはなかったからだろう。

 

 コールドン侯爵夫妻と侯爵の愛人だったメイド、そして毒による暗殺計画を知っていて協力していた文部大臣を含む三人の貴族には、当然死刑が言い渡された。

 そして暗殺計画自体は知らなかったとしても、これまでコールドン侯爵と共に脅しや恐喝、賭博、脱税、収賄などをしていた者達は、爵位剥奪の上無期の懲役刑となった。

 

 それから彼らの家族達は、悪事に無関係だった者のみ、無罪放免になった。ただし当然家は取り潰されたために、平民落ちとはなったが。

 そしてその中にセーラの実の兄のレックスも含まれていた。

 

 彼はこれまで色々な問題を起こしてはきたが、親の犯罪には手を貸していなかったのだ。

 当然財産も身分もなくしたが、彼は飛び抜けた美貌を持っているので、市井でもなんとか生きていけるだろう。どこにでも美しいものを愛でて、崇拝する者達はいるものだから。

 そう、コールドン侯爵の愛人だったあのメイドのように。

 だからあのレックスもどこかで生きて行けることだろう。彼は自分の美貌がもっとも価値があるものだと今でも頑なに信じているようだから。

 

 とはいえ、同じ美形でも彼の妹のバーバラは無罪放免にはならなかった。彼女はこれまで散々他人に対して暴力行為をしてきたからだ。

 これまで彼女の行いを力で隠匿してきたコールドン侯爵が失墜したことで、被害者達がようやく声を上げられたのだ。

 

 その結果、バーバラは裁判にかけられて有罪となり、懲役刑を受けた。年数は未定だが、もし牢を出られることになっても、人に危害を与える恐れのある人格破綻者と認定されたので、どこかに隔離され、永久に人前には出てこられないだろう。

 バーバラはずっと、

 

「自分の名前はミモザなんかじゃない、バーバラよ!」

 

 と叫んでいたが、誰もそれを気に掛ける者はいなかった。

 それにしてもバーバラと入れ替わった時、ファーストネームではなく、セカンドネームのセーラを通称にしておいて本当に良かったと、僕らは心からそう思ったのだった。

 

 それから被害者への慰謝料や見舞金は、国に没収されたコールドン侯爵の財産から支払われたので、彼女達も少しは報われただろう。

 

 ちなみにコールドン侯爵家の医者は、国に対して非常に協力的だったということで、罪は軽減され、半年ほどの懲役刑になった。

 出所したら、医者として一からやり直すため、ハッサン先生の元で修行をさせてもらうことになった。

 模範囚だということだから、間もなく出所して再び家族と暮らせるようになるだろう。

 

 断罪が済んだ後、僕は論功行賞で暫く頭を悩ませた。彼らの助力に感謝しつつも、やはり役職は適材適所で選ばなければいけないからだ。

 もう父のように己の好き嫌いや身分で役職を与えることはしない。

 

 まあ不満に思う者もいたようだが、彼らのことは私の側近の二人が上手に懐柔していた。

 子供の頃に彼らを側近に迎えることができて本当に良かったとしみじみ思う。

 

 彼らはあの事件の後、それぞれ家督を継いだ。ルイードはキャリーナ(キャリー)と結婚してカーネリアン公爵となった。

 そしてもう一人の側近のフランシスの方はというと、例の剥奪されたコールドン侯爵の爵位を新たに授与された。

 本来それを受ける相手は彼の父のアンドリューのはずだったが、自分は子爵のままでいいと拒否をしたからだ。

 恐らく義父は、息子フランシスが侯爵となった方が、公爵令嬢エメランタと挙式する時に釣り合いが取れると思ったのだろう。

 

 まあ、今更彼らの結婚をどうのこうの言う輩がいるとは思えないのだが。

 そもそもご令嬢達の価値観が変わってきている。

 例のサロンという名の講演会が行われるようになってから、ご令嬢達は男の好みになるよう努力するよりも、自分磨きをした方が幸せになれると思うようになったらしい。

 そう、セーラと僕、エメランタ夫人とフランシス侯爵と、キャリーナ夫人とカーネリアン公爵の関係を見せつけられるうちに。

 

 それ故に男性陣は家柄や容姿だけでは女性にはもてなくなってきているのだ。

 

 その結果遅ればせながら彼らも少しずつ意識が変化しているようだ。

 かつてその優れた容姿と高い地位で権勢を振るっていた、あのコールドン元侯爵一派の末路を見せつけられたのだからなおさらだろう。

 

 男性諸君、君達も自分本位の考え方を見直したり、自分磨きをしないと女性に見向きもされなくなるぞ。

 

 ✽

 

 眩しい朝日が降り注ぐ寝室の中で、今僕はベッドに横向きに寝転んで、愛するセーラの顔を見つめている。

 やり直し前の人生では叶わなかった幸せが今ここにある。まるで夢のようだ。

 セーラはもう二度と僕とは関わりたくなくて、バーバラと入れ替わったのだろう。でも、僕は彼女との未来を絶対に諦めるつもりはなかった。

 

 ミモザを失くした時の地獄の様な苦しみや哀しみ、そして後悔の日々を思い出せばどんなことでも乗り越えられたのだから。

 

「愛してるよ。もう絶対に君を離さないからね」

 

 僕はそう呟くと、疲れ切ってはいるが、それでも幸せそうに眠っているセーラの頬に、そっと唇で触れたのだった。

 

 最後まで読んで下さってありがとうございました!

 微ザマァ専門なのですが、今回はやったことが大き過ぎたので、なあなあで終わらす訳にはいかなくなりました。


 毎回いいね!を押して下さったり、誤字脱字報告をして下さった皆様に大変感謝しています。

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