第57章 結婚式〜エドモンド王子視点(14)〜
✽✽✽✽✽✽
僕は一週間前に十八歳の誕生日を迎えて成人となった。そしてその日にセーラと結婚式を挙げ、同時に国王に即位した。
国にとって最重要催事を全て一日のうちにやったことになる。そのためにこの数か月、事務方の官吏達は寝る間もなくその準備に追われることになり、本当に申し訳ないことをしてしまった。
忙しい思いをさせた者達には特別手当を与え、順番に埋め合わせのための長期休暇を取らせることにした。
しかし、彼らに特別手当を出したとしても、これらの儀式を日にちをずらして順番に行うよりも経費は浮いたのだ。他の業務への差し障りも減らすことができた。
しかも王家だけでなく、何度も王城に呼ばれたのでは、貴族達も経費が嵩むことになる。それを鑑みて決めたことだった。
以前ならこんなことをすれば、高位貴族達から苦情が殺到したことだろう。
登城して社交場に参加することも貴族の役目だと。特にご婦人方やご令嬢方からは、出会いの場が減ると苦言が出ていたことだろう。
ところがだ。カーネリアン公爵家のルイードが、領民のためにも招待客のためにも無駄は省くべきだと主張して、自分達と妹達の結婚式を合同で挙げてしまった。
前々から確かにそう口にしていたが、まさか本気だとは思わなかった。
まあ、何度も呼ばれるのは大変だったので、正直忙しい身には助かったのだが。
まあ、こんな前例ができたので、今回のことも実現できたというわけだ。
その上近頃ご令嬢方は、持ち回りでサロンという名の、隣国においての講習会というか、勉強会を開くことに熱心になっていて、パーティー形式の類のものには関心が薄れている。
男性に好かれるために自分を着飾るよりも、自分のための自分磨きに励むようになったのである。
それは王太子であった僕の婚約者セーラと、元カーネリアン公爵令嬢で現在はコールドン侯爵夫人になっているエメランタ、カーネリアン公爵夫人となった僕の影であるキャリー(キャリーナ)の影響である。
三人ともずば抜けた容姿をしているが、それによって伴侶を得た訳ではない。彼女達はその人間性と優れた能力があったからこそ、夫(婚約者)に愛されたのだと知り、皆がそれに倣おうとしているのだ。
元々はセーラの話を聞きたいという者達が多かったので、持ち回りのサロン形式の講演会を開いて欲しいと、僕が提案したのがきっかけだったようだ。
そしてそれに加えて、僕やコールドン侯爵となったフランシスや、カーネリアン公爵となったルイードが、至る所で馬鹿みたいに妻(婚約者)自慢を繰り広げたせいに違いない。
パートナー達からは恥ずかしいからやめてと懇願されているが、僕達は何が恥ずかしいのかがさっぱりわからない。
愛する女性を褒め、自慢することのどこが恥ずかしいというのだ。嘘偽りなど何一つ言ってやしないのに……と三人共に思っている。
しかしセーラは綺麗だと褒めると本気で怒るので、世界一かわいいと言うようにしているのだが、実際に彼女は本当に綺麗になったのだ。
僕の欲目ではなく、異口同音そう言っている。まあ、僕や弟のチャーリーは昔から彼女を綺麗だと思っているのだが……
セーラが自ら開発した『ヴァイカントの雫』シリーズの薬用化粧品のおかげもあるのだろうが、彼女の内面が表に出ているから美しいのだと僕は思っている。
その証拠に彼女の実の両親が自分の娘を見ても分からず、こんな美しい娘は姪(実の娘のミモザ)ではないと叫んでいたじゃないか。
セーラがあまりにも美しく成長していたので、ミモザだった頃とあまりにも違っていたからわからなかったと、彼らは取り調べの時に呆然と呟いていた。
しかしミモザだった頃だって、彼らがきちんと娘と向き合ってさえいたなら、ちゃんと彼女の美しさに気付けたはずなんだ。
彼らがセーラのことでどれくらい後悔したのか、それはもう知りようがないが、彼らの犯した罪は大きい。
あんなに優秀な女性だというのに、彼女の美醜に対するコンプレックスや思い込みはとても大きい。それを治すには、まだまだ時間がかかるだろう。
でも僕は焦ってはいない。慌てることはないのだから。
これからも僕達はずっと一緒なのだから、うるさがられてもずっとずっと、愛と共に君の真実の姿を伝え続けよう。そうすればいつかきっと信じてもらえるだろう。
この一年で、セーラがあの『ヴァイカントの雫』シリーズの開発者だという事実が知れ渡った。
そして、あかぎれや床ずれやかゆみ止め、日焼け止め……庶民でも手に入る安価で素晴らしい薬、その開発者でもあることも。(まあ、中身は同じ商品なのだが…)
そして高級医薬化粧品の売り上げの一部が、病院建設や孤児院、母子福祉施設などに寄付されていることもいつしか皆の知るところになった。
それ故セーラはエメランタ夫人と共に、人々から愛され慕われている。
あの成婚の日、僕はセーラを横抱きにしてバルコニーへ向かった。二人の夢が叶った瞬間、僕達は見つめ合って涙した。
しかし物凄い歓声が上がったので思わず見下ろすと、王城の園庭に集まっていた大勢の人々が、笑顔で手を振ってくれていた。
その割れんばかりの歓声も一年前の僕なら、表面上は笑顔を浮かべながらも、耳を塞ぎたくなる衝動に駆られたことだろう。
しかし今の僕は、その大歓声を心から有り難く感じることができた。
そしてこれからこの人々のために、セーラと力を合わせて働こう!そう決意を新たにしたのだった。
とはいえ、ハネムーン期間の十日間くらいはセーラとゆっくりさせてもらおうと、僕達は改修し終えたばかりの離宮に、成婚の翌々日からこもっている。
元々この離宮には両親が住むことになっていたのだが、まだ若い僕達を補佐するために彼らは王宮に残ることになった。
そしてその代わりに祖父母がここに移り住むことになっている。
前国王である両親が、意外?に優秀でそこそこできる奴だとわかったらしく、祖父母は安心して隠居することにしたらしい。
「今までろくに国王としてまともな仕事をしてこなかったのだから、その罪滅ぼしにこれから王族としてしっかり、新国王を支えるんだぞ。
そして遅まきながら息子達との親子の絆を深めよ」
祖父にこう言われて父は泣いていた。母も今後は一切社交場には出ずに、裏方に徹すると言ったので正直驚いた。あんなに派手好きで華やかな所が大好きな人だったのにと。
変われる人もいるんだなと僕は、今まで持っていた認識を改めた。
とうの昔に両親のことは諦めていた。それなのに今頃になって両親と親子としての関係を再構築できるだなんて、正直想像もしていなかった。これもみんなセーラのおかげだ。
しかし、自分の両親との関係が修復されつつあるからこそ、セーラのことを思うと辛いのだ。
コールドン侯爵夫妻は結局やり直し前と同じで、何も変わることはなかった。
僕とセーラは、毒や薬物の国内侵入を防ごうと懸命に努力した。隣国の密売組織を破壊し、関所の検閲も厳しくした。
そして、実際にそれらを防ぐことができたのだ。
それなのに、彼らは王族だけでなく、何の関係もない貴族達まで無差別に毒殺しようとした。
もちろんその行為は未遂で終わった。毒だと思って使用した薬が、ただの強力な下剤だったのだから。しかし、重要なことは未遂かどうかじゃない。そこに殺意があったかどうかなのだ。
読んで下さってありがとうございました!




