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第43章 新たな決意


 フランお兄様とエメランタ様、ルイード卿とキャリーナ様は、一月後の国王陛下の即位記念パーティーの時に揃って結婚の日取りを発表するらしい。

 しかも、私のデビュタントとエドモンドとの婚約発表もその時にすませると言われた。しかし私はそれを聞いて躊躇いを覚えて尻込みした。

 

「私の社交界デビューはその後の機会にしましょうよ。せっかくのお兄様達の婚約のお披露目のような場所で何か不測なことでも起きたら困りますもの。まして殿下と私の婚約発表だなんて」

 

「それはバーバラや伯父上達が、何かをしでかすかも知れないってことか?」

 

 フランお兄様の言葉に私は頷いた。

 

 バーバラは元々王太子妃の座を狙っていた。しかし、エドモンド様が病弱で、王太子には成れなそうにもないと判断したから、エドモンド様のことを諦めた。

 そして王太子に次ぐ高貴な家のご令息と婚約しようと悪戦苦闘した結果、どうにか本人の希望通りに侯爵家の美形の令息と婚約を結べたのだ。

 彼女は得意満面だったろう。

 

 それなのにバーバラが最初にターゲットにしていたカーネリアン公爵令息が、社交界にまだ一度も顔を出したことがない、自分より格下の伯爵令嬢との婚約を、半年前の国王主催のパーティーで発表した。

 しかも普段冷たいくらい無表情な公子が、

 

「僕の婚約者は飛び切りの美人なので、誰かに奪われたら困るので、この場には連れて来ませんでした」

 

 と少し照れながら言ったので、パーティー会場には女性達の悲鳴が上がったらしい。

 

 その上かつて自分があっさり捨てた実の兄まで、子爵家の嫡男という低い身分なのに、なんと公爵令嬢との婚約を発表したのだ。

 しかもその公爵令嬢もまた、高貴な身分のご令嬢だというのに、デビュタントの時以来社交界へ顔を出してはいなかった。

 バーバラは私と同じ年だから当然エメランタ様より二つ年下で、そのパーティーには参加しておらず、エメランタ様について何も知らなかっただろう。

 だから初めてエメランタ様を見た時、さぞかしショックを受けたことだろう。

 

 エメランタ様は、雪のように白く透明の肌に、煌めく金糸のストレートヘアー、透明感のあるアクアブルーの瞳……

 まさしく天から舞い降りた女神様のような、上品で教養があって慈悲深い、それこそ完璧なご令嬢なのだから。

 しかも、負けず嫌いで努力家でお茶目なところがあって、とてもチャーミングな方なのだ。これは親しい者しか知らないだろうけど。

 

 今まで周りからの注目を一身に集め、バーバラはヒロイン気分だったに違いない。それなのに、突然現れた二人の見知らぬ女性のせいで、その座から一瞬のうちに転げ落ちてしまった。

 

 しかもコールドン侯爵家の嫡男である兄は、社交界に出入りすることを国王陛下から禁じられた。

 このままでは高位どころか下位の貴族令嬢との結婚さえもできそうにないわね、という嘲りの声が周りから聞こえてきたことだろう。 

 

 あの兄のやらかしの一件以来、バーバラまで肩身の狭い思いをするようになっただろうし、婚約者との関係もギクシャクしていると聞く。

 だから、そんな不安定であろうバーバラを今刺激をしたくないと私は思ったのだ。

 

 もし一月後のパーティーで私が社交界デビューすることになったら、おそらくエドモンド様がエスコートして下さるのだろう。

 どんなに私がお断りしたとしても。まだ公表はしていなくても既に私達は婚約しているのだから。

 

 でもそれを見たバーバラがどう思い、どう感じるかは火を見るよりも明らかだ。

 病弱で王太子にはなれないだろうと言われていたエドモンド様が、すっかり回復……いや、騎士かと見紛うばかりの立派な美丈夫になって現れたら。しかも、彼女の理想である美の化身のような(かんばせ)を見たら……

 

 しかもその横に私がいたら、彼女は歯ぎしりして悔しがることだろう。彼女にとってずっと見下してきたような相手に、エドモンド殿下を奪われるなんてと。

 

 そして入れ替わりも私の仕掛けた罠だったと主張して騒ぎ立てるに違いない。たとえそれが自分が望んで決めたことだったとしても。

 

 

 

 今回のやり直しの人生において、バーバラは下位貴族には手を出さなかった。しかも、ルイード卿を始めとする高位貴族からは元々相手にされなかったので、彼女による被害は案外少ないようだった。

 まあそうは言っても、陰では相変わらずの虐めや陰謀を巡らせてはいたようだが。

 

 しかし彼女は残酷で意地の悪い性格ではあったが、知恵が回る方ではなかったために、現世では相手からも結構反撃されてたみたいだ。

 高位貴族のご令嬢はバーバラが思うよりずっと強かなのだ。私はそれが身に沁みている。

 

 そして今回の兄の起こした事件がきっかけで、バラッド侯爵家嫡男との婚約も、今微妙になっているらしい。

 

 いくら両親が溺愛している嫡男だろうと、レックスが社交界から排除されたとあっては、彼がコールドン侯爵家を継ぐのは難しいだろう。

 そうなると、バーバラが婿を取って跡を継ぐことになるわけだが、現在の婚約者はバラッド侯爵家の嫡男である。婿入りは無理だろう。

 それなのにバーバラはいとも簡単に、

 

「私と結婚したいのなら婿入りするのが当然でしょ!

 バラッド侯爵家には弟がいるんだから彼に継がせればいいじゃない!」

 

 と、宣ったらしく、バラッド侯爵家との関係がギクシャクしてきているそうだ。

 そりゃそうだ。そもそもコールドン侯爵家の落ち度でこんなことになったのに、他所の家の後継問題に口を挟むことは許されない。

 しかもいくら子分筋とはいえ同じ侯爵家なのだから。

 

 家を継がせるために今まで教育してきた大切な嫡男を、バラッド侯爵が婿に出すはずがない。

 もし、どうしても我が家から婿が欲しいなら、次男にしろ!とバラッド侯爵は妥協案を示してくれたそうだが、バーバラは絶対に嫡男ではないと嫌だと言ったらしい。

 彼女があまりにもごねるので、何故次男では駄目なのだと尋ねたら、次男は長男と比べると美貌が劣るからだと答えたらしい。

 因みに次男も十分美形だと評判らしいが。

 

 この一連の騒ぎで、バーバラの婚約者の百年の恋も冷めたらしい。

 そしてバラッド侯爵もコールドン侯爵家との婚約解消だけではなく、政治的にも縁を切ることに決めたらしい。

 間もなくバーバラは破談になるだろうと、帰国直前に届けられたフランお兄様の手紙にはそう書かれてあった。

 

 そしてその手紙にはこうも綴られてあった。

 

「気に食わない奴だからとバーバラを紹介したが、ずっと罪悪感に悩まされていた。

 新たな被害者になりそうな者達には申し訳ないが、バラッド侯爵令息との婚約が破談になりそうで、正直ホッとした」

 

 と。うん。わかるわ、その気持ち。だけど、破談された後バーバラがどんな行動を起こすのかが不安だわ。何せまともじゃない人間だから、何を仕出かすか全く予測ができない。

 

 それに、元兄レックスや元両親の侯爵夫妻が、もし破れかぶれになったら何を仕出かすかがわからなくて怖い。

 

 まあ優秀な影達が彼らには付いているだろうから、その辺は大丈夫なんだろうと信じている。

 でも、そんな影達の警備をすり抜けて、元の人生ではエドモンド様は麻薬を嗅がされてしまった。そのことが、どうしても私の頭をよぎってしまう。

 殿下の部下を疑うなんていけないことだが、やっぱり殿下だけでなく、私もあのことがトラウマになっているんだろうな。

 バーバラに麻薬を嗅がされた殿下から、私は婚約破棄をされ、そしてその直後に殺されたのだから。

 

 不安に震える私の手を取って、エドモンド様は言った。

 

「心配はいらないよ。僕達は同じ過ちは犯さない。大体今現在の人生は以前の時とは全く違っているだろう?

 それは僕達には信頼できる家族や仲間がたくさんいるからだ。それに第一君と僕は気持ちを通じ合わせている。だから怖いものなんてない。そうだろう?」

 

「そうだよ、セーラ。僕達もいる。全力で君を守るよ。それに、たとえアレが僕達の想定を上回る行動をやらかしても大丈夫なように、色々と策を練っているから穴はない。安心しろ」

 

 フランお兄様もそう言うと、みんなが一斉に力強く頷いた。

 そしてルイード様がこう言った。

 

「一月後に開かれる国王陛下の即位記念パーティーは、国王派と前国王派の雌雄を決する場となると思う。

 だからその場が混乱したり荒れることはそもそもが想定内だ。

 まあ、そもそもそれをできるだけ穏便にするためにも、僕らの結婚の話題と殿下達の婚約発表をするわけなんだけど。僕らはこんなに一致団結してますよと」

 

「でもそんなことをしたら、なおさら穏便にすますことが難しくなるのではないですか?」

 

「いいや、貴女の正体を多くの人々に知ってもらえれば、きっとこちら側についてくれる人間が増えると思うよ。

 せっかくのめでたい場を政治利用することに関しては、女性の方々には申し訳ないんだが」

 

 ルイード卿に続いてフランお兄様がこう言うと、エメランタ様とキャリーナ様は、

 

「ちゃんとわかっていますわ」

 

 と、微笑みながら頷いた。お姉様方は既に覚悟を決めているようだった。そんな二人を見て私も強くならなくてはと、気持ちを新たにした。

 以前の私はただ逃げることしかできない弱い人間だった。しかし、今の自分は違うのだと。

 だって強くなるために、これまで必死に努力を重ねてきたのだから。そして頼れる仲間がこんなにもいるのだから。

 

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